第5話 出逢いと再会 #3

第5話 続き #3


[18]ー《緑の国》 城 王の会議室


薬師ゴーシャ魔王グレラントがミレーネ姫の顔を覗き込み眼を診る。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント(心の声) 「こうして目を覗き込めば、いつもなら私の思い通りに動かせることが出来るというのに。お前が盲目とは残念じゃ」


〈その時、ミレーネ姫の首飾りの石が光りかけるが、薬師ゴーシャ魔王グレラントが診るのを辞めて数歩後ろに下がったことで光りも止む。その様子を間近で見ているジュリアス。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント「王様、姫様の眼の状態は、以前に診た患者と似ていると思われます」


王様「その患者は治ったのだな」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「左様でございます」


王様「ふむ。投薬は、しばし検討を重ね、結論を出すとする。皆、ご苦労であった。薬師は王子と共にしばらく城にゆるりと滞在されるが良い」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「滞在中の手当なども頂けると何よりでございます」


外事大臣「そのほう、またしても無礼であるぞ」


王様「〈外事大臣を制して〉姫の眼を治せるのであれば、謝礼はいくらでも出そう」



[19]ー城 厨房


厨房班員 その1「聞いた?今夜の歓迎の宴は中止らしいわ。白の国の王子様のお加減が悪いのですって」


厨房班員 その2「え~~、こんなに用意したご馳走はどうなるの?」


厨房班員 その3「王家の方々と、客人である薬師殿、それに王子様の付き添いの方達の夕食分だけでは、大量に余るわ」


〈そこへ厨房班長がやって来る。〉


厨房班長「話は聞いたか?」


厨房班員 その1「はい。心を込めて作っただけに残念です」


厨房班長「仕方がない。王子様は当分ご滞在されるから、体調が良くなられたら、また緑の国王家自慢の料理を召し上がって頂こう。今夜はポーリッジ(お粥のようなもの)をお出しして欲しいと医官が伝えてきた」


厨房班員 その2「分かりました。あの、このご馳走はどうしましょうか」


厨房班長「我々の食事とするか。捨てる訳にはいかんからな。今日はまかないを作らなくていいぞ」


〈少し離れた所で話を聞いていた新入り夏組の三人。〉


夏組3人「ご馳走ですって、やった!」



[20]ー城 書架室


〈ミレーネ姫、ジュリアス、ポリーが集まって話している。〉


ミレーネ「サイモン王子はどんな方かしら?見たままを教えて欲しいですわ」


ポリー「いかにも寒い暗い国から来ましたって感じよ。色白で端正な顔立ちだけど、どこか影がある。弱々しくて、武術の試合をしたら私は絶対勝つわね」


ミレーネ「ポリーは結局いつも武術が基準なのね」


ジュリアス「今日は特に具合が悪かったから、そう見えたのかも知れないよ」


ミレーネ「ジュリアス、薬師はどんな人?」


ポリー「私もはっきり見れなかったから、ねえ、どんな感じ?」


ジュリアス「あ……。ああ、それが――」


〈そこへ扉がノックされ、ミリアム王子が顔を出す。〉


ミリアム「ポリー、ここにいたの?」


ミレーネ「ミリアム、どうしたの?ポリーに何か御用でも?」


ミリアム「うん、ちょっとポリーに手伝って欲しいことがあるんだ!姉様、ポリーに一緒に来てもらってもいい?」


ミレーネ「いいけど何かしら?」


ミリアム「まだ内緒のことだよ。ポリー、早く来て!」


ポリー「分かった。仕方ないわね。ミリアム王子の頼みなら、ちょっと行ってきます」


〈ポリーとミリアム王子は書架室を出る。ミレーネ姫とジュリアスが残り、少し沈黙した後、再び口を開くミレーネ姫。〉


ミレーネ「ジュリアス、言いにくいことなのね。ええ、私も感じたわ。あの薬師が入ってきた時、部屋の空気が変わったもの。だから正直に話して。やっぱり異様な感じの人なの?」


ジュリアス「ミレーネをあまり不安にさせたくないが、実はそうなんだ。それに、さっき、あの薬師が眼を覗き込むため近付いた時、首飾りの石が光りかけていた。すぐ薬師が離れたので、光もあっという間に止んだが」


ミレーネ「まあ、この石が?〈触れる〉」


ジュリアス「ミレーネに危機が迫った時、首飾りの石は光を強烈に放つらしい。この間の遠乗りでミレーネが落馬しそうになった時、首飾りの石が光ったのを目撃して、そうではないかということに気づいたんだ」


ミレーネ「そうでしたの?」


ジュリアス「つまり、首飾りの石の警告に依れば、あの薬師はミレーネにとってになるのかも知れない」


〈困惑顔のミレーネ姫とジュリアス。〉



[21]ー城 サイモン王子の客室


〈横になっているサイモン王子。側で控えている従者レックス。薬師ゴーシャ魔王グレラントが入って来る。その気配で急いでうつ伏せになるサイモン王子。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント「サイモン王子、お加減はいかがですか?」


サイモン王子「〈うつ伏せたまま〉少し良くなった。このまま、そっとしておいてくれ」


薬師ゴーシャ魔王グレラント「こちらを向いて下さい。ちょっとお顔を拝見いたします」


サイモン王子「結構だ。この姿勢が楽なのでね。〈顔を上げず〉もう下がってくれ」


〈深々とお辞儀をし、部屋を出て行く薬師ゴーシャ魔王グレラント。扉の近くで待機しているケインと、他には分からないよう目配せをして、部屋から出る。〉



[22]ー城 サイモン王子の客室の前 廊下


〈廊下に出る薬師ゴーシャ魔王グレラント。そこへ女官が数人通りかかる。薬師の風貌に皆、驚くが慌ててお辞儀をして通る。少し離れた所まで行き、ヒソヒソと話す様子。部屋に入る薬師ゴーシャ魔王グレラント。〉



[23]ー城 薬師ゴーシャの客室


〈不愉快な顔で窓に駆け寄り、カーテンをザーッと閉める薬師ゴーシャ魔王グレラント。〉


薬師ゴーシャ魔王グレラント「陽のあたる場所は性に合わぬ」



[24]ー城 サイモン王子の客室


サイモン王子「あいつは行ったか」


従者レックス「はい。ご自分の部屋に戻られました」


サイモン王子「〈顔を上げ〉ふー。薬師としての腕は良いのは知っている。父上も二日酔いに効く薬を調合してもらい、それさえあれば、いくらでも酒は飲めると言うぐらいだからな。しかし、私はどうも苦手だ。どうしても、あの風貌に馴染めない。〈また、ふうとため息をつき〉あの薬師が来ると部屋の空気までよどんだように感じてしまう」


従者レックス「少し窓を開けましょうか?換気をして風に当たれば、ご気分も変わられるのではないですか?」


サイモン王子「そうしてくれ」



第5話 終わり

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