第1話 ミレーネ姫の誕生日 #3

第1話 続き #3


[31]ー民政大臣の家 居間


〈はっとソファーで目を覚ますナタリー。ジュリアスが窓のカーテンを開けて、外の様子を見ている。仄暗い中、ナタリーにも、外の嵐の様子が分かる。また、雷が落ち、閃光と轟音。その中で、遠くに浮かび上がる城。〉



[32]ー城の医務室


痙攣けいれんして苦しみ出す妃。〉


医官や女官「「お妃様!」」


〈少し口から血を吐き、息絶えるロザリー。姫に付き添っていた女官タティアナも妃のもとへ走り寄る。〉


女官タティアナ「まさか、そんな――ああ、お妃様!〈泣き崩れる〉」


〈文法大臣が近衛と共に入ってくる。〉


医官「〈文法大臣に〉お妃様がお亡くなりになられました」


文法大臣「なんと……」


医官「手は尽くしましたが残念です〈首を振る〉」


〈文法大臣が憔悴しょうすいしきっているタティアナに近付く。〉


文法大臣「お妃様が亡くなられた今となっては、いくらお妃様や姫様が信頼していた女官といえども、もはや、これ以上のかばい立ては出来ぬ。重要参考人として牢に拘留こうりゅうする」


女官タティアナ「私は本当に何も身に覚えがないので御座います」


〈近衛が腕を取り、部屋の外へ連れて行こうとする。〉


女官タティアナ「お待ち下さい。もう一度だけ、姫様のお加減を」


〈側に行き、眠っている姫の耳元で何か言いながら、姫の様子をもう一度確かめる。近衛の元に戻り、付き添われて、部屋を出る。〉



[33]ー城 牢屋


近衛「こちらへ」


〈牢に入るタティアナ。先に中に入れられていたアイラが気づく。〉


女官アイラ「タティアナ様まで!なぜ、こんなことに――。一体、誰が、こんな恐ろしいことを!」


〈二人、抱き合い、泣くアイラ。〉


女官タティアナ「真実は必ず明かされると信じましょう。身の潔白が証明されるまでの辛抱ですよ」



[34]ー王の部屋


〈蠟燭の明かりのみで薄暗い中、座っている王。その側に、少し離れて立つ民政大臣と、王様付きの侍従。そこへ文法大臣が入ってくる。〉


文法大臣「王様。残念ながら、お妃様がさきほど、お亡くなりになられました」


王様「〈がっくりして〉まことか。姫は?姫の容態は?」



[35]ーどこか知られぬ場所 洞窟


〈岩壁に映る影が3つ、揺れている。顔は見えない。影と声のみ。〉


影の人 その1「ついに我々の計画が動き始めました」


影の人 その2「痕跡は何も残していないのだな?」


影の人 その3「血眼ちまなこになって探しているようですが、この先も何も分からないでしょう」


影の人 その2「このためにどれだけの年月を待ち続けてきたことか。良いか、決して焦って策をしくじってはならぬ。一つずつ手抜かりなく事を進めてゆくのだ」



[36]ー〈情景〉


〈嵐吹く城の様子。〉



[37]ー牢屋


〈祈るタティアナ。〉


【タティアナの回想: 苦しんでいるミレーネの胸で、ペンダントのヘッドの内側がぼおっと8の字の形に光る。それを見たタティアナ。】


女官タティアナ(心の声)「持ち主を守る力がある首飾り。どうか姫様をお守り下さい。命と引き換えに、お亡くなりになったお妃様のためにも……」


〈その横で不安そうに怯えているアイラ。〉



[38]ー城の医務室 朝


〈窓の外には嵐の後の青い空。部屋に差し込む光。聞こえる鳥のさえずり。姫の耳に遠くから人々の声が聞こえる。「姫様。」「姫様。」「熱は下がったようです。」 眠っていた姫。少し、ううんと声を出す。〉


医官「姫様」


〈ぱちっと目を開ける姫。〉


医務室にいる人々「〈喜び合いながら〉姫様が目を覚まされた!ご無事で良かった!」


〈天井を見つめたまま動かない姫。その様子を不審に思い、声をかける医官。〉


医官「姫様?」


ミレーネ「〈恐る恐る〉タティアナはそこにいるの?」


女官ジェイン「姫様、タティアナはただ今、別の場所におります。〈姫を覗き込みながら〉ご気分はいかがですか?」


ミレーネ「その声は、ジェイン?お母様はどこ?今はまだ夜なの?真っ暗で――何も見えない――」


〈その言葉に凍りつく人々。〉



[39]ー王の会議室


〈3人の大臣、数名の重臣、近衛隊長、副隊長、近衛ウォーレス、従者ボリスなどが集まっている。〉


王様「〈沈痛な面持ちで〉何か分かったか」


近衛隊長「城の外まで、しらみつぶしに調べましたが、犯人の手掛かりも行方も分からず申し訳ございません」


外事大臣「昨夜、事件が起こった時、城にいた客、楽団員、使用人すべて怪しい者はいないか、朝までに確認しましたが、それらしき者は誰も見当たりませんでした」


王様「誰か、必ず、城の中に手引きした者がおるはずじゃ!」


〈皆が不安げに顔を見合わせる。〉


外事大臣「確認した者達は、すべて居所を把握しておりますので、再度、入念に

調べを続けて参ります」


王様「飲み物を運んだ女官と、飲み物を渡した女官は身柄を拘束しているのか?」


文法大臣「はい、牢に入れて取り調べておりますが、二人とも全く何も知らぬまま、事件に巻き込まれたかと思われます」


王様「何も知らなかったでは済まされぬ!妃は命を落とし、姫は光を失ったのだ。〈全員の顔を睨みつけながら〉警護に不行き届きがなかったと、皆、言い切れるのか!」



[40]ー民政大臣の家 居間


〈ソファーに座るナタリー、ジュリアス、ポリー。〉


ナタリー「〈苛々いらいらした調子で〉お城から、まだ連絡は来ないの?」


〈首を振るジュリアス。〉


ポリー「お妃様もミレーネ姫もきっと大丈夫。神様が見放すはずがないから!」


〈母ナタリーの手を握るポリー。そこへ城からの使いがやって来る。〉


使いの者「民政大臣からの伝言です。お妃様がお亡くなりになられました。明日の葬儀に出席する準備をしておくようにとのことです」


ナタリー「ああ、まさか、そんな……」


【ナタリーの回想: 嵐の中で見失ったロザリー。最期に聞いた『姉様……』の声。】


ジュリアス「〈使いの者に〉ミレーネ姫はご無事なのですか?」


使いの者「一命はとりとめられたのでございますが、残念なことに失明してしまわれました」


ポリー「えっ、失明?」


〈気を失うナタリー。〉


ジュリアスとポリー「母様!」



[41]ー城 姫の部屋


茫然自失ぼうぜんじしつで座っている姫。女官ジェインが食事のトレイを下げている所に、王と民政大臣が入って来る。〉


女官ジェイン「王様。〈頭を下げる〉」


〈食事がほとんど残っているトレイを見る王。〉


王様「口にせぬのか?」


女官ジェイン「はい」


ミレーネ「〈声を聞き〉お父様なの?」


〈王は姫の側に行き、その手を握る。〉


王様「姫、よく目覚めてくれた」


ミレーネ「お母様は?タティアナは?どうして、二人とも私のところに来てくれないの?」


〈王は、黙ってミレーネ姫の肩を抱き寄せ、背中をさする。そして、思わず、少し嗚咽おえつしてしまう。〉


ミレーネ「お父様?〈体を離し、見えない目で王の方を向きながら〉お母様はお亡くなりになったのね?皆、黙っているけれど、そうなのでしょ?ああ、お母様!〈泣き崩れる。悶えながら、手が首飾りに触れる。〉この首飾りのせいだわ、私の代わりにお母様が!」


〈首飾りを引きちぎろうとする姫を止める王。〉


王様「ミレーネ姫よ、母の思いを無駄にしてはならぬ」


女官ジェイン「〈側から〉姫様、どうか落ち着いて下さいませ」


ミレーネ「ああ、お母様。じゃあ、タティアナはどこ?タティアナに会わせて――。タティアナに――〈泣く〉」


王様「姫や、タティアナは当分ここに来られないのじゃ」


ミレーネ「……まさか、牢に入れられているの?」



[42]ー城 文法大臣の執務室


〈民政大臣が入って来る。〉


民政大臣「今、宜しいか?」


文法大臣「ああ、民政大臣、どうぞ。祝宴から一転、まさか、こんなことになるとは――」



[43]ー城下町 道


〈ポリーが歩いてくる。〉


ポリー「母様に少しでも何か食べさせて元気になってもらわなくちゃ!」



[44]ー城下町 八百屋


ポリー「あの、これとこれ、下さい。〈お金を渡す〉」


店主「はい、どうも。お釣りね、ちょっと待って」


〈勘定し、袋に入れ、お釣りを渡す間、別の客と、城の事件の噂話に夢中の店主。ポリーも思わず皆の噂話に耳を傾ける。〉



[45]ー城下町 道


〈怒って歩いているポリー。〉


ポリー「何なの、あの支離滅裂な噂は!まだ、真相が何も分かっていないのに、勝手な話をでっち上げて!」


〈前を見ると、白杖をついた若い女の子が、足元がおぼつかない様子で、フラフラ歩いていることに気づく。そこへ馬車が勢いよくやって来る。〉


ポリー「〈はっとして〉危ない!」


〈白杖の女の子は器用によけ、立ち止まり、馬車が通り過ぎる音をじっと聞き、ポリーの声の方向に向き直る。可愛いというより、大人びた美しい顔立ち。〉


白杖の女の子「その声は若い方ですね。有難うございます」


ポリー「大丈夫でしたか?」


白杖の女の子「ええ。これから、隣村の親戚を訪ねて行くのですが、村へ向かう橋は、この先でしょうか」


ポリー「はい。でも、誰か一緒に行ってくれる人は?」


白杖の女の子「いつもは父と行くのですが、あいにく熱を出し、私一人で参ります」


ポリー「えっ、それは大変!私も途中まで同じ方向なんだけど・・・。いいわ、橋を渡って、村の別れ道まで送ります。そこから、隣村へは一本道まっすぐだから」


白杖の女の子「ご親切に、有難うございます」


〈ポリーは白杖の女の子に近づき、杖を持っていない方の手を取り、自分の腕につかまらせる。寄り添って歩き出す二人。〉



第1話 終わり

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