第5話
あの日からカイルと言っていた男性と会う事無く数週間が過ぎ、僕はあの日の出来事を忘れていた。
「おばちゃ~ん、手伝いに来た…ふあ~っ…」
「トム、あくびはヨナさんに失礼だよそれに名前で呼ばないと駄目だよ…お早う御座いますヨナさん、お手伝いに来ました」
「ふふふ、大きなあくびだねーっトム君は、お早うロイ君今日もお願いね」
「はい」
「ふあ~い」
トムがまだ眠たそうな顔でヨナさんに返事をして、僕達は早朝から寮母をしているヨナさんの手伝いにやって来た。
1ヶ月前に女の子がヨナさんと一緒に働いて居たようで、騎士達とのお喋りが多く騎士寮の掃除に食事の手伝いはヨナさんが殆んどしていたと聞いた。
その女の子は騎士と一緒に急に城を出て行き、今はヨナさん1人が僕達の世話をしている。ヨナさん1人では大変だと騎士寮長が、新人である僕達が順番でヨナさんの手伝いをする事に成った。
最初は分からない事ばかりで料理なんて作った事も無かったけど、ヨナさんから料理を習う内に楽しくなり自分が当番でも無い時でも、時々手伝いに来るように成った。
屋敷にいた頃は家族皆で食事をしていたけど、喉に通らない日が多かった…父に兄や弟の僕に対する声が冷たく…一緒に食事をしても美味しいとは思った日は無かった……
「…イ、ロイ!?」
「えっ!?痛っ!」
「うあっ!大丈夫かロイ、ゴメンお前がボーっとしたまま刃物を使っていたから危ないと言おうと声を掛けたんだ。大丈夫か?」
「うん、大丈夫ちょっと指先を切っただけだよ」
「あらあら、珍しいわねロイ君、ちょっといらっしゃい傷口を貼ってあげるから」
「大丈夫です、ヨナさんかすり傷ですから」
「ロイ君!」
僕は指先を切っただけで…ヨナさんから呼ばれ傷口を貼って貰う事に成った。痛い事は兄の剣稽古で毎日の様に叩かれていたからこんな小さな傷は手当てなんて不要だと思っていた。
「手はロイ君達にとって大事なんだから怪我をしたら直ぐに手当てをして貰ってね。傷口から菌でも入ると大変よ」
「……」
「ハハハ、おばちゃん俺達騎士は毎日キズだらけなんだから手当てなんて要らないよ、なあーっ、ロイ…へ?ロ、ロイ?!」
「……ふっ…うっ……」
ポロポロと僕は無意識に涙が流れヨナさんの優しく手当てしてくれた事が嬉しく僕は暫く泣いていた……涙なんてとっくに渇れて居たのだと思ったのに……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。