おらっ! さっさと脱げっ!(脱衣所)

「ちょっとそこに立ってもらえます?」


「んー? いきなり何?」


「いいから、お願い。ね?」


「紫まで……何する気?」


 かぽーん、かこーんと軽やかに竹のぶつかる音が広大な浴室に響く。浴室に面した緑豊かな日本庭園に置かれた鹿威しの音だ。広い庭もこの風呂場も静かだから、そう大した音量じゃないのによく聞こえる。軽やかに室内を反響するその断続的な音とは別に、ざあざあと絶え間なく聞こえる音も一つ。私たちのいる浴槽の真ん中。そこにはお湯の上に突き出した白くつるつるとした台座があり、その上に同じ白でも毛色が異なる白をした一匹のライオンが座っていた。雄々しい鬣がある雄ライオンだ。もっとも、こんな風に像にしたり絵に描いたりするときは大抵そうだろう。あえて雌ライオンを題材にすることはあんまりないように思う。芸術品に詳しいわけじゃないから一概には言えないけど。


 本物と同じサイズほどもある白ライオン像は、かぱりと開いたままの口からお湯を垂れ流している。これが浴室に絶え間なく音を響かせているのだ。


 旅館の大浴場めいた広さや内装のこの浴室は、湯舟も複数あるけど今はまだお昼。私たちが午前の汗をさっと流すだけなので、湯舟の中でも小さ目なこの一つだけが稼働している。小さ目と言っても私たち三人が同時に浸かってもまだまだ余裕のある、ちょっとした公衆浴場の湯舟並みの大きさだ。そのくらいならこのお屋敷のお風呂では小さい方。


 でも正直私だって大きいお風呂は嫌いじゃないけど、プールみたいなサイズのとかはそんなに広くして何するのって感じよね。個人的にはお風呂にほしい広さは足をぐぐぐっと伸ばしたり、思い切って仰向けで寝て大の字に浮かべるくらいでいい。逆に言えば、それくらいは最低限ほしいとも言う。


 だっていい仕事にはいい入浴は必須だよ。一日の終わりのお風呂をシャワーだけでいいっていう人もいるけど、個人的には信じられない。正気を疑うよ。寝るのとお風呂入るのほど楽しく、心安らぐことってそうそうないと言うのが私の持論です。


 ただ今みたいな状況なら話は別。午前の見世物でそれなりの高強度の運動をしばらくしてたから、食事と午後の部に備えて汗を流しに来たのだ。なんだけど、ね。なんでか今、浴槽の中でたっぷりのお湯に浸かってます。私はシャワーだけさっと浴びちゃうよって言ったんだけどね。何故かそんなに汗もかいていないだろう夢華たちが、一緒に入るからお風呂動かすと言って譲らなかったのよね。何か企みがあるのか、ただ入りたい気分なのかは知らんけど。でも入りたいだけなら、入りたいって言えばいいから絶対何か企んでるんだよなぁ。


 だって二人も午前のお披露目会の合間合間で運動したけど、お風呂入るほどは動いてないと思う。運動といっても私が用意しておいた武器から好きなの選んで、重量や形状で扱えそうなら好きに遊んでもらったというだけだ。ただ重くて持てない物もいくつかあったけど、持てる程度の重量なのでも十分楽しんでもらえたと思う。


 メディの大剣や私の大太刀は持ち上げるのも無理だったけど、斑雪の白刀やカモイの銃、特に装着式のとか。後半戦で見せた伸び縮みする鞭や電気や炎を撒き散らす籠手、氷や水を放つ薙刀だとかは大喜びで振り回していた。護身用のショックバトンやら警棒など、ちょっとした武器なら二人とも扱う訓練をしてきている。だから武器の扱いは素人でもないんだけど、刀や剣を扱った経験は流石にない、はず。知ってる限りでは。なにせ武術や武道を習ってたんじゃなくて、あくまで護身術を習ってたわけだからね。護身で刀は使わないですねえ。相手に殺される前に殺せば自分は守られるっていう護身になっちゃう。


 でもファンタジーとか好きな二人なので、刀や剣を振り回すことに憧れがあるってこと私知ってるよ。知ってたから、最初から二人にも体験してもらうつもりだったし、今回製作した武器はゲームやアニメのアイテムみたいな外見にした。それもあってテンション上がったんだろう。だいぶはしゃいでた。はしゃいで上がったテンションのままに各種武器を振り回してたから、辺りは炎や雷や氷や色のついた光やらが乱れ飛ぶ地獄のような光景になってたけど。振る向きや気合の込め方でエフェクトが変わるし、武器によっても違うエフェクトを用意したからあれもこれもと大騒ぎだったよ。


 そんな経緯があったからと言って、お風呂に入るほどの運動量ではなかったと思うんだよね。思うんだけど、結局こうして一緒にお湯に浸かっている。腑に落ちない点はあるけど、断固拒否する理由もなかったからね。


 そんなわけで流されるままお風呂にきた。私は汗かいて気持ち悪かったからまず体洗おうとしたんだけど、またしても強硬な主張により体を洗いあっこすることに。ついでに今日の日のためってわけじゃ全然ないんだけど、籠っている間に手慰みに作った新型の手作り石鹸を試してみた。思い付きで作ってみたんだけど、洗い心地も泡の立ち方も香りもいいしで良い出来だった。少しの手直しはいるだろうけど、これ商品にできそう。


 装置の調整やアンドロイドたちの成形なんかの間に、どうしても待たないといけない時間があって暇だったんだよね。装置が内部処理をしている間とか、アンドロイドの表皮の乾燥を待つ間とか。で、その空いた時間で暇つぶし的に石鹼を手作りしてみたのだ。薬品にも人体にも詳しい上に、美容にもこだわりがある私にかかれば美容用品の製造もお手の物だ。石鹸はどう考えても美容用品なので、当然私は作れる。


 今回のも美肌に香りづけにと効果たっぷりだ。しかもお肌をつるつるすべすべにしてくれる。いつものも美容を意識しているから当たり前だけど同じような効果はある。しかし今回のは今までと成分や配合比率などを大きく変えてみたのだ。ついさっき使用した感覚では良さげだけど、感覚だけじゃあれだし後で検査しておかないと。夢華たちにも使ってもらったから、三人分を今回と夜とで二回とれるね。


 その後頭も洗ってもらい、仲良く一つだけお湯を溜めた浴槽に浸かってぼんやりしていた時。そういえば、と唐突に切り出された。立ってって言うけど一体何なんよ。紫までいいから、いいからと押してくるし。話の切り出しも突然だし台詞も唐突だしで想像つかない。二人で私に何させる気。怪しい。怪しいけど別に断る理由もないし、まあいいか。なんか手間がかかるわけでもないし。強いて言うなら気持ちよくお湯に浸かってたのに、何故か一人だけ追い出されるのがね。広い広い浴室は裸で立ってても気にならない程に温かいけれど、せっかくたっぷりのお湯に浸かって微睡んでいたっていうのに。


 ざぱあとお湯を滴らせながら浴槽を出て振り向くと、さっそく次の要求が。


「両手を頭の後ろに組んでくださる?」


「えっと、こう?」


「そうそう。いいわよ。それじゃ次はもっと足を開いて」


「足? こんな感じ?」


 うんうん頷きながら二人が近寄ってくる。それでも二人は浴槽から出てこない。なので私一人だけお風呂の外に立って、お風呂でくつろいでいる二人に下から全身をじっくり見られてるという変な状況に。なんか変な気持ちになっちゃう。何がしたいのかわからないけど、もっともっとと手で示されて足を広げていく。肩幅に開いて、くらいかと思ってたら何故か腰もやや落とすよう要求される。これじゃがに股、いやそれ以上だ。ストレッチでもさせる気なんかな。手も頭の後ろで組んでるし、次はスクワットしろとでも言い出す気か。


 お湯から出ない二人に、足を広げ腕は上に持ち上げて全身を無防備にさらけ出す。どういう状況なの、これ。ポーズがポーズだけに、予測ができない。


「うーん、せっかくですからもう少し、こう……」


「ん……こう?」


 腰を、と手で示された通りに腰を前に突き出す。ちょっとバランスが悪い体勢だけど、私の鍛えた体幹なら問題ない。


「うん、いいわね。そのままじっとしてなさい」


「えぇ……」


 こんな格好でじっと黙って立たされて、立たせている側はお風呂で温まりながらそれを見ているって。私の疑問を余所に、二人は私の大変豊かで美しい肢体を嘗め回すように見ている。粘つくような視線が全身をねっとりじっくりと這っていく。視線がまるで実体のあるかのように、肌の上を這うのを感じちゃうほどだ。腰を突き出していることで自然と突き出す形になっている股の周辺は、特に念入りに夢華の目に探られている。


 いったい何なの。もしかしてエッチなことする流れだったの。私が気がつかなかっただけで。デリケートな場所をそんなに凝視されていると私と言えど恥ずかしいし、色々良くないんですけど。それに二人にとっては見慣れたものでしょうが。何を今更、そんなにじっくりと見てるの。ただ意図がわかんないけど、二人が私を熱心に見てくれているのは正直嬉しい。


 でもなぁ。二人が顔を上げて前を見てろと言うのでそうしているんだけど、これはちょっと私でも恥ずかしいし落ち着かないや。立って前を見つめる私の視界いっぱいに、若い息吹を感じさせる青々とした草花と青い空が広がっていた。時折花や草を小さく揺らす穏やかな風が、ここまで豊かな緑の匂いを届かせている錯覚すら起こしちゃう。実際は空気がここと庭じゃ通ってないからありえないけどね。それでもこれだと私、なんか外の庭で裸になってるみたい。それか外に裸を見せつけている人。いけない趣味に目覚めちゃうから、早く終わってほしいんですけど。







 かこーん、ぱこーんと鹿威しの竹が、岩を打つ音だけが響くことしばらく。二人はただただ無言で私の体を目で舐め回す。私は黙って裸を晒し続け、綺麗な庭を眺めてた。浴室と隣り合って一面に広がって見えるこの庭は、夢華の家の裏にある庭だ。所々銀や白で科学的というか未来的だけど、全体的な印象は暖色の洋風なお屋敷。その裏にある庭は日本庭園をイメージした和テイストで作られている。屋敷の外観も内部も洋風なのに一部だけ和風と言うのが、意識したのか偶然なのかその持ち主一家とそっくりだ。夢華も日本人の名前のわりに見た目はどう見てもヨーロッパ系白人人種だ。そもそも体を流れる血も日本人の血はわずかで、ほぼほぼ西洋人だからね。ずっと日本に住んでる一家なのに、何故かみんな留学先の海外でお嫁さんを捕まえてくるからこんなことに。上のお兄さんのお嫁さんもそうだし、もうこの一族の血筋と言うか習性何だろうか。


「……やっぱりもうちょっとこう……おらっ! もっと股開けっ!」


「ヒェッ」


 と、急に紫の態度が豹変した。唐突にチンピラめいた態度になった紫に怒られる。理由も訳もわからないけど、勢いに押されて言われた通り更にがに股の開脚姿勢になった。なったらなったで腰が引けてしまったので、今度は夢華に責められる。


「お腰が引けてましてよ。もっとはしたなく腰を突き出しなさい」


「ひぇぇぇぇ」


 自分の顔に向かって腰、と言うか向き的に股を突き出せと要求してくる。有無を言わせない態度なので、大人しく股を突き出してよく見せるしかない。私はいったいどうなってしまうの。何が起こってこんなことに。私が一体何をしたと。がに股開脚の上、不自然に腰を突き出しているので体がやや反って微妙に苦しい。


「ふーむ……」


「うーん……」


「えぇー……」


 人を大股開きにさせ手で隠すのも禁止した上で、湯舟の中から見上げるようにして全身を観察される。妙に真剣な顔だ。何やら考え事をしながら首を捻ったり何やら唸ったりしつつ見つめられてる。なんかエッチな事でもされるのかと思ったんだけど、思って当然でしょこんなの、でもどうも真面目な感じらしい。おふざけも少々あるけど、全体としては真面目な思念を感じる。


 こんな格好にさせて人の裸を見ている状況のどこが真面目なのって気はする。でも本人たちは顔も感情的にも真面目にやっている。むしろ変な気分になりつつある私が一番不真面目っぽい。どういうことなの。見られて恥ずかしい体じゃないけど、私の体は二人の物でもあるから見たければ見ていいんだけど、このポーズやら状況やらがほんとわかんない。これでちょっと体温上がりつつある私が変なの?


「んんー……もっと腰を下ろしてくださる?」


「これ以上?」


「ん、そうね。お相撲さんのあれみたいに、こう、腰を下ろして」


「あー、あれね、はいはい」


 ここまで来たらどこまで腰降ろそうが関係ない。腰をすっかり落として踵などの上にお尻が乗るような、お相撲さんがするような格好になる。バランスが少し悪いので、体をゆらゆらさせてバランスを取り直す。爪先だけで体を支えている状態なので、バランスがいいはずもない。


「手、ついてもいい?」


「ダメ」


「なんで?」


 ダメらしい。仕方ないので大人しく大股開きの大胆ポーズを観賞される。なんだか楽しそうな感じが二人から伝わってくる。そうかい、楽しいかい。ならいいよ。二人が楽しいならとりあえず良し。良しだけど何とも言えず落ち着かない。何させられているかわかんないから、何をしていいのか、どんな顔したらいいのかもわかんない。二人はお湯の中から私を見上げて何やら楽しいみたいだけど、楽しんでいるなら代価として私に説明くらいしてほしいなって。


「……今度は後ろ向いてくださる?」


「こ、このまま?」


「いえ少し立ち上がっていいですから、お尻はこちらに突き出してくださいな」


「うん……」


 言われた通り頭の上に手を上げたまま後ろを向き、がに股のままお尻を後ろに突き出すようにする。これってやっぱりなんかはしたなくていやらしいことの前触れなのでは。こんな格好ですることなんかエッチなこと以外に何があるっていうの。でも顔も雰囲気も、時々楽しそうだけど基本的には真剣そのもの。やっぱり私が間違ってるのかなあ。だけど絶対この体勢というか状況はおかしいでしょ。


「うん、うん……おらっ」


「ひゃんっ」


 めちゃくちゃ恥ずかしいながらも我慢して見られてたら、何故か頷きながら人のお尻を眺めていた紫がお湯から手を伸ばしてお尻を叩いた。つい声が出ちゃう。何をする、何故叩いた。抗議したいけど場の雰囲気が謎の強制力をもって沈黙を強いてくる。私のお尻に何の恨みがあるんだ。


「その大きい、いやらし尻をもっと突き出すんだよっ!」


「は、はいっ」


「いえ、それよりも前に手をついてくださる? 手をついてそのおいしそうなお尻をもっと高く上げて」


「えっと……?」


「そうね、それもいいかも。ほら、四つん這いになるの。四つん這いになって尻を高く上げなさい」


「あ、はい……」


 有無を言わさぬ謎の雰囲気に圧倒され、言われるがままに四つん這いになる。浴室の黒い床は万が一転倒したりしても平気なよう、柔らかく衝撃を吸収する素材でできている。なので裸で四つん這いになっても体が痛くなることはない。ないけど、本当に何なんだ。私はいったいどうなってしまうんだろう。ほんとエッチなことするならエッチな雰囲気を出してよ。何故真面目な雰囲気と顔で真剣な思念を浴びせながら、こんな格好をして二人に全身くまなく見られないといけないの。裸なんか数える気にもならない程互いに見てるし、私の体で二人が知らない箇所や触ってない所なんか一ヶ所もないでしょ。改めてこんな扱いをしてまで何が見たいの。というか、さらっと人の体をいやらしいだのおいしそうだの言わないでよね。何やってるかわかんないけど、真面目なことしてるんでしょうが。


「髪が邪魔ね……」


 疑問は尽きないまま、黙って四つん這いでお尻を掲げるひどく恥ずかしいポーズをとり続ける。だって二人がやれって言うから。絶対嫌な事ならともかく、このくらいなら疑問があってもとりあえずするのが私たちの関係。何事かあって荒れた夢華が部屋に来るなり、私に上半身のスペースを空けさせておっぱいに飛び込むとか普通にあるし。逆に紫の方はここまでしろとは言わないけど、もう少し甘えてほしいなと思ったりもする。甘えるのも休むのも苦手な子なのよね。基本的に不器用だから。


 できることがないのでぼんやり考え事していると、いつの間にかお湯からがってきた二人の足が見える。ほぼ四つん這いの姿勢で床を見ている私の周りを、四本の足がぐるぐる歩き回るのが見える。かと思えば今度は私の長い髪が邪魔だと言い出して、でも髪は私にどうしろとは言わずに紫が束ねて持ち上げた。


 公衆浴場ならともかく、このお屋敷のお風呂や自宅では私は髪をまとめない派なんだよね。いつも外では結んでいるから、家とか特にお風呂でくらいは解いておきたい。なんかどうしても締め付けられてる感覚しちゃう。なのでいつもはぼわっと広がり背中を覆いつくす髪は、今はぺったりと固まって背中に張り付いていたのだ。


 毛量が多くて長さも非常に長いので、なくなると張り付いていたあたりが一瞬ひやっとする。これで髪によって守られていた箇所も紫たちの視線に晒されてしまう。本当に何一つ隠すものがないと意識しちゃうと、なおさら恥ずかしいやらあれやらだ。変な気分になっちゃうけど、不思議となっているのは私だけっぽいのがまた何とも落ち着かない。私間違ってるのかな。


「味もみておきましょう」


「はぁんっ」


「うわ、えろ……」


 思わず声が出てしまった。私のお尻に夢華がずいぶん近づいているなあと思ったら、ついに舐め上げられたのだ。くるなっていうのはわかってた。頭の中から邪な思念がお尻にビンビン突き刺さってたからね。なので知ってはいたけど、実際に感触があるとつい反応しちゃったのだ。


 温かい舌が皮膚にぺたりと張り付き、つ、つ、つーっと味わいながら移動していった。慣れ親しんだ感触だけど、場の雰囲気がいつもと違うので変な感じ。舌の這った後を、お湯とも違う温度と粘度を持つ唾液がゆっくり流れ落ちていくのを感じる。水滴との速度差が妙な感じ。


「あむあむ」


「くふんっ」


「うわあ」


 何往復か舌が這い回った後、今度は軽くだけど嚙みつかれた。甘噛みって感じだけど、歯が当たる程度には噛まれている。ついついエッチめな声が出ちゃうけど、ここまでされたらおかしくないよね。どう見たって、どう考えたってこれはエッチなことされてるでしょ。真面目な顔や空気でこんなことしてくる二人がおかしいって絶対。


 いや、紫はしてないか。引くわーって感じの声を出しつつ、ガン見している。こんな姿に視線をバリバリ感じちゃう。歯が程よい刺激でお尻を押したり擦ったりして正直気持ちいい。感覚としては頭皮マッサージに近いかも。


「はむはむ」


「あえええぇ……」


 ライオンから注がれるお湯の音にわずかにかき消されつつ、ちゅぱちゅぱと明らかに違う水音がしばらく鳴り続けた。時折漏れてしまう私の声も。


 いっそ一思いにやれーっ!








「もういいですわよ」


「あぁ……ん、そう? うー……ん」


 ようやく解放されたのは、それからややしばらくしてからだった。わりと窮屈な体勢だったから、つい伸びをしてしまう。けれどもついに耐えきった、解放されたぞ。何がしたいのかは最後までわからなかったけどね。お尻に噛り付いていた夢華はともかく、最初はやや遠巻きにしていた紫もだんだん近づいてきた。最後には息が体にかかる距離で私の裸の観察を始め、時折指で突っついたり撫でたりとちょっかいも出された。結局あんたもするんかい。そのくせつい私が反応しちゃってびくりと動くと


「動かないで」


「暴れないでよ、暴れないで……大人しくしろっ!」


 と窘められたり押さえ込まれたり。私が悪いの、それ。理不尽だけどとりあえず今は堪えてこの雰囲気から開放されるのを待とうと、甘んじて押さえ込まれていた。その努力が実を結び、ようやくこの解放の時がやってきた。長かったよ。


 変わらないお湯の流れる音に、一定のリズムを刻み続ける鹿威しの音。観察されている間ほぼずっとそれだけに包まれてた。あんまり変化がないから、実は時の停止した空間に閉じ込められているんじゃないかって気すらしてた。私まだ時間系の研究はそこまで進めてないのよね。だからその場合は何者かに時間停止攻撃を受けていたことになる。だけど少し残念なことに大きな壁かけ時計は正常に時を刻んでいたので、そんなSFバトル物にはならなかった。攻撃を受けたり何かされるのは嫌だけど、でも時間停止は一回体感してみたいかも。せめて観測したい。


「……あの、聞いていい?」


 その後何事もなかったかのようにお湯に戻った二人が手招きするので、私も再度お湯の中に沈んでいった。この間、ひたすら無言である。言葉で返事が返ってこないから視線で尋ねても、逆に目だけで早くこっちに来いとせっつかれる。何だこの空気。何故か無言の二人が自分たちの間を空けて、その真ん中に私を手招いている。断る理由はないから大人しく招かれて、黙って座る私。


「ええ、よくってよ。ただもう少しだけ待ってくださいな」


「よくないじゃん」


「まぜっかえさないの」


「ごめんなさい」


 これは私が悪い。


 頭を下げた私に両側から腕が伸びてくる。長さも質感も色もそれぞれ違う二つの腕は、しかし同じように私の腕を絡めとった。そのままグイッとひかれて、両腕を一人ずつに抱え込まれる。今度は私に何しようっていうの。私は無実だ。何もしゃべらないぞ。


「今度は何……?」


「……」


「……」


 私の手を仲良く一本ずつ分け合った二人は、無言で腕をしげしげと眺めたり撫でたり摩ったり摘まんだりする。この無言の感じがすごい困るのよ。やっていることはスキンシップなのに、無言で真剣な顔をしてされるからどう反応していいのやら。真剣な顔つきで人の指を咥えて口の中で舐め回すような理由、この世にある?


「うーん……綺麗な、手ですこと」


「あ、ありがとう?」


「味も綺麗、もといおいしいですわね」


「そう? じゃあお好きなだけどうぞ」


「ではお言葉に甘えてもう少し楽しんでますから紫、よしなに」


「えぇ……でも日頃しょっちゅう機械油ついたり薬品つけたりしているらしいのに、本当に綺麗よね」


 今のえぇ、は肯定の方じゃない。困惑の意味である。でもすぐに紫は立ち直った。適当な丸投げされるのはいつものことっちゃいつものことだし。ほんとタフになった。タフな紫はそんなこともはや気にしないのだ。気にしてたら私たちとは付き合えないとも言えるけど。昔のすぐおたおたしてた紫も今や懐かしい。


「そらそうよ。気をつかってますから」


「爪がいつも整っているのはわかるわよ、仕事で引っかかったりしたら危ないもの。私やメイドさんたちだってその辺は気を付けてるし。でも肌もつるつるすべすべなのがね。酷使してそうなのに」


「酷使するから気をつかうんでしょうが。それに何よりこの手は大事な大事な役目があるからね。汚くしておくわけにはいかんのよ」


「役目?」


 不思議そうな顔で私を見てくる。わかんないのかな。紫たちが一番よく知っている、私にとって一番大事な役目だ。それともあれか、わかっているけど言葉で言ってほしいのっていうやつかな。しょうがないなぁ、かまってちゃんめ。


「そ。私の愛しい紫や夢華と触れ合うっていう、とっても大事なお役目。そのために私は毎日爪を整え肌を磨き、髪を手入れしとケアを怠らないの。おわかり?」


 目と目を合わせて微笑みかけてあげると、あからさまに動揺して目が泳ぎだす。普段クールを気取ってる子が動揺している姿は可愛いなあ。


「うっ……そ、そう」


「そうなの。万が一にも二人を傷つけたくないもの。それに顔も体もいつでもしっかり磨いて、いつも綺麗な私を二人にあげたいから」


「ううっ」


 なんかダメージ入ってる。小ダメージをくらったときのゲームキャラみたいな呻きが紫からしているけど、こんな愛情たっぷりの言葉でなんでダメージ受けてるの。紫は闇属性だったのか。まあ光属性ではないよね。


「この手は紫たちに触れて幸せになったりしたりするための大事な手」


 紫が動揺のあまりにか、いつの間にか開放されていた腕を持ち上げ手を紫に見せつける。そして自慢の長く美しい指をくいくいと動かして見せる。この指が荒れてたりして二人の体を傷つけるなんて、何より私が一番やだ。嫌だし、その恐れがあるから二人に触れられないのはもっと嫌。ならどうするか。毎日お手入れして、いつでも心配なく触れるようにすればいいのだ。


「この指は紫と幸せになるための指だから、毎日欠かさずお手入れしてるんだよ」


 だから二人と会えないとわかっている間は、そこまで気合い入れない。私が海外行っている時とか、二人が本土や海外に行っている時とかはね。したって見てもらいたい相手がいないならするだけ損とまでは言わないけど、そこまでする気にもならない。仕方ないことだ。ただ全くしないでいると衰えちゃうからケア自体は欠かさない。二人がいなくても仕事はあるからどのみちお手入れはしないとダメージ受けちゃうし、仕事にも支障が出かねないという面もある。あと単純に、手が汚いなんて私のプライドが許さない。美に慢心と油断は禁物なのだ。


「……あ、ありがとう。そのおかげで、こんなに綺麗なのね。ほんと綺麗よ、うん、あんなに暴れてたのに」


「あっ」


「ぬむむっ!」


「え?」


「そういうことかあ……」


 なるほどね。完全に理解した。今の照れを誤魔化すためか、早口になってたセリフでわかっちゃった。迂闊だったね。夢華もグルだったな。私が気付いたことに気づいて反応しちゃったもんね。私の指を咥えている口が一瞬強張ったし、咄嗟に声は出しちゃったしで完全にアウトですねえ。


「ねえねえ」


「な、何よ?」


 私の雰囲気に何か察したのか、及び腰になる紫。今度は私が自由な片手で紫の腕を捕まえる。もう逃げられないぞ。


「あなたたちさっき私のことじろじろ見てたでしょ」


「み、見てたわよ? それが何よ。嫌なの?」


「嫌じゃないよ。むしろ好き。もっと見て」


「そう。じゃあいいじゃない」


 声が上擦ってるよ。それにもっと見てほしいのは見てほしいけど、見るならちゃんとそれなりの雰囲気は作ってね。あんな真面目な空気の中見られるのは落ち着かなかったよ。


「私は見られたっていいんだけどさ、二人はただ見るんじゃだめだったんでしょ。あれ、私に傷や怪我がないか確認したかったんじゃないの? それでお風呂に一緒に入るって言ってたんでしょ。そして首尾よく裸を見る機会を確保して、私にあんな格好を……ん? あれ、待って。あんな格好させる必要あった?」


 紫たちが人を裸にしてさらし者にしたのは、本当に怪我をしていなかったか見たかったからだろう。今紫が平静を失ってつい口走ってたのが答えだ。つまり刀や太刀などの武器を振り回したり、武器で打ち合ったりやられたりしていたから怪我くらいありそうと考えた。それで今さっきまで私の腕をとって確認してたわけだね。最初に全身を見ていたのも、同じような理由のはず。


 でも話している途中で気づいちゃった。だからってあんな格好させる必要は全然なかったということに。いやいや、けど裸を真面目な顔で観察されるような心当たりはそれくらいしかない。動機は間違いないはず、手段が異様だっただけで。


 紫を拘束し、問い詰めながらもだんだん自信を失っていく私だった。








「はぁー……もう完全にバレたか……」


 必死に顔を逸らし、身をよじって逃れようとしてた紫だけど最後には観念した。紫の筋力や技術で私から逃れられるわけないんだよなあ。無駄無駄無駄。そもそも逃げようとすること自体がもう答えを言っているようなものじゃん。そこに気づいてしらを切れない時点でもうダメだぞ。


 なのにうだうだと無意味な抵抗を続けるので、丸い肩や柔らかな腕などを手当たり次第に甘噛みしてやった。びくびく震えながら懸命に耐えていた紫だけど、最後にはがっくりうなだれ白状した。やれやれ、無駄な抵抗しやがって。早く諦めないからこんな目に合うんだ。私だって舐めたり噛んだりしていじめたくなんかなかったのに、紫が悪いんだよ。


「ないわよ、ないない。変な格好させる意味なんか何にもありませんでした。あなたにお披露目のためとはいえかなりびっくりさせられたから、二人がかりでちょっとした仕返ししたの。いきなりあんなびっくりさせられ続けた仕返しにしてはかわいいものでしょうが」


「かわいいからはかけ離れたポーズをさせられたんだけど」


 はっきり言ってさっきの私、相当ひどい格好だったんだけど。しかもそれをねっとり見られているという。しかも今日は浴室の壁に庭を映していたから、野外で露出している気分にまでさせられた。これでいけない趣味に目覚めてしまったらどう責任取ってくれるの。ちゃんとお散歩に連れてってくれるっていうの。


「まあそうね。でもほら、かわいくはなかったけど見てて楽しかったわよ」


「そっかあ……なら、いいけど」


「いいのか」


 いいよ。紫たちが楽しんでくれるなら、エッチなポーズくらいいくらでもしてあげるよ。ぶっちゃけ今更そんなもんって話だしね。


「もぐもぐ……んあっ。もう、紫ったらすぐバレちゃったじゃないですの」


「私に全部丸投げして、四季の指しゃぶってただけのくせに。そのまま黙ってしゃぶってなさいよ」


「バレてしまったんですもの、もうおしゃぶりして黙ってる必要もないですの。ふふふ、びっくりしたでしょう四季。私たちも随分とびっくりさせられましたから、これでお相子でしてよ」


「そうかな……?」


「それで驚かされた側の私たちの気がすんだんだし、いいんじゃない?」


 そうかも。別に嫌だったわけでもないし、理由がわかればそれでいいか。


「それより体よ。一応全身じっくり調べたつもりだけど、本当に傷一つないのね」


「シミも一つもないよ!」


「知ってますわよ。そうじゃなくて」


「わかってるわかってる。心配性だな、もう。大丈夫って何回も言ったのに」


 午前を時間いっぱい使い、武器を振ったり走り回ったり、吹き飛ばしたり殴り飛ばされたりと楽しいお披露目会だった。強烈な攻撃とそれに伴う爆発が直撃した時なんかは楽しかった。衝撃で上空へ大きくのけ反った体勢で舞い上がり、きりもみ回転しながら落下して頭から建物と地面につっこんだ。こんな派手に吹っ飛んで、また派手に落下するなんてゲームでもそう体験できないよ。格好悪いから悲鳴は上げなかったけど、思い切って大声を上げてみても楽しかったかもね。惜しいことしたかな。次やられたときは大声でグワーッとか叫んでみよう。勢い良く吹き飛びながら叫んだら、実際気持ちよさそう。


 その程度の悔いは残したけど、おおむね楽しく過ごせた。過ごせたんだけど、それだけ大暴れしたから見ている二人に心配もさせちゃったらしい。頭から墜落して上半身が地面に埋まったりもしたし当然か。こうして振り返ってみると心配されるのは仕方ない。私以外にも二人と一緒に観戦してたメディとヴィクトリアが、心配している二人にちゃんと説明や解説はしてくれていたようなんだけどね。危なく見えるけど装置の機能や服の効果で実際には怪我をすることはほぼない、という趣旨の説明を何度もしたって聞いてる。私も武器の交換や戦場の切り替えとかの合間合間に大丈夫って言ったんだけど、やっぱり自分の目で確認しないと収まんないか。目の前で盛大に暴れたからやむを得ない。


 でもそうか、やはりそれで私と一緒にお風呂に入るって主張してたんだね。私が誤魔化してたり嘘ついているかもしれないから、直接自分の目で見たかったんだろう。それほど心配させちゃったのかと思うとちょっと申し訳ない。そんなつもりじゃなかったんだけどな。全身観察されるぐらいは甘んじて受けておいてよかったよ。少しは心配させた償いになったことだろう。


「確かに何度も大丈夫とは説明されましたけど、あんなに強く殴られたりしていたのを見てましたもの。しかも攻撃を受けるだけじゃなくて、それで飛ばされて地面にめり込んだりもしてましたでしょう? あれで平気だとは普通思えませんわよ」


「私も私の発明品も普通じゃないからね」


「そうなんだけど。でもあんな揺れがこっちまで伝わってくるくらいの勢いで地面に激突して、よくあれで本当に擦り傷の一つもないわね。普通死ぬ勢いだったでしょ」


「そういう風にできてるの。気兼ねなく遊んでもらうにはさ、やっぱり怪我をしないっていう安心や安全性って大事じゃない」


 これからゲーム事業部の売りとなる新しい事業、新たなスポーツにしようってわけなんだしね。私たちのような大人や学生、ロッテみたいに小さい子供にも遊んでもらいたい。でも本当に武器とか持って遊ぶのはやってみたいだろうけど、だからって格闘技みたいに怪我をしちゃうのは嫌だと思う。というか怪我をするのを覚悟しないといけないなら、それはもう格闘技であって遊びではないし。格闘技ほど覚悟しないでも、もっと気軽に遊んでほしい。そもそも武器で攻撃されて吹き飛んだり上空から地面に叩き落されたりなんか、怪我を防ぐ機能がなかったら怪我どころじゃすまないよね。リアリティを追求した上でそんなことされたら、紫の言うように普通死ぬか良くて大怪我だよ。ゲームやアニメのキャラじゃあるまいし、現実の人間はそこまで丈夫じゃないのだ。


「言いたいことはわかりますのよ? ただそれでもって思ってしまうだけで。だってあんなに炎ですとか雷や光を散らして殴り合いをしてたでしょう。格好良かったですのよ? そこは勘違いしないでくださいね。格好良くて素敵でしたわ。特に四季の長い脚がピンと伸びる蹴りだとかは、この長さと脚線美がないと出せない美しさで本当に感動しましたの。炎を纏いしなやかな脚が弧を描く様なんて、神に捧げる舞を踊る巫女のようでしたわ。よく知っている脚ですけど、ああして動いているのを見るとまた違った味わいがありましたわね」


「あ、うん、ありがと」


 夢華って私の話になると急に早口になるよね。かわいい。あと嬉しい。


「そういう話なら、私はあれが地味に好きだったわ。あの攻撃した後の残心してる姿とか、攻撃後とかに籠手をこう、きゅっきゅって嵌めなおす仕草。あれ好き」


「そう? 手袋はめるのとそんな変わらないと思うけど」


「全然違うわよ。まず長さが違うでしょ。でも実はあれも好き」


「そ、そうですか」


 知らなかったそんなの……。でもやれやれって顔で言われたのがむかつく。肩をすくめ呆れたって感じのジェスチャーまでされた。私自身の動きについての話なのに、なんで張本人の私がそんな顔されないといけないのよ。というか私の動きの好きな箇所を上げるのが話の目的じゃないから。嬉しいけどさ。


「ま、それはそれとして」


 紫はやれやれ顔から一転して、真剣な顔で私の腕を再び取り手の平で撫で擦る。確かめるように、というか事実確かめているんだろう、時折ぎゅっと掴んだり押したりとしながら紫の手が私の腕を上ってくる。


「体全体を見てもこうして腕だけじっくり見ても、本当に綺麗ね。殴り合いとかガードはともかく、化け物に思いっきり拘束されてたじゃない。だから絶対どこかに圧迫されたあとくらい見つかると思ってたんだけど」


「ああ、それで」


 私の腕を抱え込んで探ってたのね。確かに殴り合いやら防御やらで腕を使ってたから、あざくらいはできてそうだもんね。でも残念、ありませんでした。ふふふ、すごいか。


「どうだった? 私がジャパニーズ触手に拘束されて、宙づりにされてる姿」


「あえてジャパニーズをつける所に悪意を感じるんだけど」


「気のせいでしょ。ついてると何かまずいの? どうして? ねえねえ?」


「うっ……別にどうでもいいでしょ。それより夢華」


 逃げたな。まあ夜にでも新型装着式触手の性能検証も兼ねて、たっぷりお話ししよう。


「どうもこうも、大変興奮しましたの。四肢を悍ましい触手に絡め取られ、身動きが取れなくされて抵抗できない四季。この豊かで魅惑的な体の上をあの汚らしい触手が這い回り、胸やお尻を強調するように縛り上げるなんて。あの怪物はよくわかってますこと。いい仕事しましたわ。動きを設定したのは絶対にヴィクトリアでしょう。あの子はさすが、いい趣味してますの。気が合いますわ。今まで触手っていまいち興味なかったんですけど、もったいないことをしてきましたわね。今度私にもやらせてくださいます?」


「一応聞くけど、拘束される方?」


「まさか。する方ですわ。確か以前、私でも使える触手を見せてもらったように思いますが」


「うん、あるよ。でも私を縛るのに使うんだったら、また別の体に優しいやつあるからそれにしてね」


 以前見せたあれはご家庭で人気な汎用作業用触手、というか多目的アームだ。ロボットアームだけど家具などを傷つけないように触り心地は柔らかいし、細かい作業や室内の狭い空間でもよどみなく動けるよう動きも滑らかだ。でも人体を拘束する用じゃないから、あれでされるとちょっと痛いし傷になりそう。ちょっと傷がつくくらいがいいって言うならあれでもいいけど。それはそれで家事に使う道具でこんなこと、みたいな感じで楽しい気もする。


「夢華の感想はともかく、そんな風に空中で固定されるほどの力で拘束されてたわよね。しかもその後あんな大きな化け物の攻撃をこう、ガッと腕で受け止めてたのに、何であざもないのよ。どう見ても腕どころか全身の骨バキバキになるレベルだったわよ、あれ。おかしいでしょ、現実的に考えて」


「ぶはっ」


 吹き出してしまった。不意打ちすぎて堪える間すらなかった。


「な、何よ」


「だ、だって、ゆかりんさぁ……っ!」


 自分でも思いがけないくらいツボにはまった。


 紫が言った私を拘束したり攻撃したという巨大な怪物は、午前にお披露目した中で最大の大きさと存在感を放っていた。それは優に二十メートルを超す巨体を青空に浮かせていた。その胴体というべきか、球体の本体は直径だけでも十数メートルはあった。白い石材のような質感をしたその球は、上下左右前後の六方向に同じく巨大な人の顔を張り付けている。確認できた範囲の人相はどれも厳めしい男性で、黙想する哲学者や厳格な聖職者を思わせた。その人面を張り付けた球体の横に当たる空間には一対の、これもまた巨大な灰色の腕かあるいは太い触手の様なものが浮いていた。その触手はただでさえ太く大きいが、球体の本体側を根元とするとその反対。人間でいう手の部分に向かうにつれ、より大きく逞しく膨らんでいた。これもまたよく磨かれて作り上げられた石像のように見えた。この膨らんだ腕が作る拳は、何度も召喚されたゴーレムの比じゃない大きさと迫力があった。


 また横には腕があったが、背には翼があった。本体と同じく白色の翼だがその質感は本体の石的なものと異なり、内部に血が通い肉が動く様が見て取れるような生物的な姿であった。白い鳥の翼と言った印象のそれは、本体の重々しい雰囲気をした人面に反して軽やかで生き生きとした活力を感じさせた。内から仄かに光り輝くその羽はまたしても大きく、球体もその脇から伸びる腕までも包み込めるほどだった。その羽から何らかの力が働いているのか、球体は羽ばたきもなしに大きく翼を広げた状態で宙に浮いていた。


 その浮き上がった球体の下からは、長さも太さもまちまちの触手が無数に生えていた。またその外見もバラバラで、タコやイカのような吸盤が付いているもの。植物のつるのような滑らかで丸みを帯びたもの。何かの内臓めいてぶよぶよとした触感が見るだけで伝わるようなものなど無数の種類があり、同じ見た目の触手はおよそ一つもないように思われた。当然のごとくその色も千差万別で赤青緑、黄に紫に黒と色とりどりだった。しかもこの触手はどれもが各自の意思を持つかのようにてんでばらばらに動き回り、脈動し蠢き震える姿はどこか神聖さすらあった本体とは真逆の悍ましさがあった。


「現実にあんなのいないでしょっ……!」


 いたら困る、困るどころじゃないか。軍隊が出てくるわ。しかも出て来るけどどうせ倒せないやつだ。ぼこぼこに蹴散らされて最終的にヒーロー助けてってなる。そんな特撮怪獣クラスのと戦っている様子を見て、まさか現実的って言葉が出るとはね。


 笑いを何とか抑えながら言うと、自分が言った内容にようやく気付いた紫の顔がどんどん赤くなった。お湯で温まって赤くなった顔が、さらに赤くなっている。そして反射的にだろう。珍しく大袈裟な身振り手振りでお湯をバシャバシャとはね飛ばし、必死になって反論する。


「や、ちがっ! そうじゃなくて、大きさからしたらほらっ、現実的に考えてっ!」


「現実的……!」


 何が面白かったのか、遅れて夢華も気づいて笑い出す。


「あんなの現実であったことありますのっ……!」


「ないわよっ! そうじゃなくってぇ!」


「いやー、言いたいことはわかるよ? 見た目から考えて、とかそういう話なのはさ。でもおかしくってさあ」


 あれを見て現実的におかしい、とか言われてもね。現実であんな巨大な化け物に遭遇して、まして戦ったことなんかないんだから現実的に考えることなんかできないんだよなぁ。言いたいことはわかるけどね。現実的というか物理で考えればあの巨体だ。中身がスカスカじゃない限りはそれ相応の質量がある。その大質量で攻撃されたらって話なんだよね、多分。わかるけど、笑っちゃう気持ちもわかってほしい。現実に存在しない怪物の攻撃を受けて怪我しないなんて、現実的に考えておかしいっていう話の面白さよ。


「あー、笑った。ごめんごめん。ちょっとツボにはまっちゃって」


「もう、いいわよ」


 あーあ、拗ねちゃった。プイッとそっぽむいちゃった紫に抱き着いて謝るけど、ぐいぐい顔を逸らせて目も合わせてくれない。ごめんってば。


「でもまあ現実的、なんて言葉が出るくらいにはリアルに作れてたってことかな」


「そうですわね。午後からは私達にも色々試させてもらえるそうですけど、あれ見てたらちょっと遠慮しようかなという気になりましたもの。ゲームとかとは存在感が違いすぎですの。あれ本当にあんな生き物を作ってしまったわけではないですわよね? 信じていいんですのね?」


「さあどうかな? ……待って、嘘、嘘、じょーだん、冗談だよ!」


 意味深なこと言ってニヤリとしたら、両側から血相変えて掴みかかってこられた。お湯に深く浸かっている私に、立ち上がって高さの優位をとって襲ってくるのを片手ずつで押し返す。紫も夢華も私より背が低く体が小さい、つまり腕の長さが全然足りない。なので腕をグイッと伸ばして押しやればもう二人の手は届かない。だから格闘なんかでは背の高さというか、腕や足の長さが大事な要素になるんだよね。


「あんな大きいの置き場所っていうか飼育場所に困るし、やんないやんない」


「本当ですわね? 信じますわよ」


「信じて」


 信用なさすぎでは。疑われることをしてきた自覚があるだけに何とも言えないけど。でもいつだって悪意があって隠しているんじゃないんだよ。新鮮な驚きと喜び、興奮やワクワクを与えてあげたくてつい。そんな私の内心に気づいているのか、紫が夢華を止めてくれる。手でもういいから、と夢華を制して再び座らせる。


「実際のところ本気で隠されたらわからないし、信じるしかないのよね。だからそれはもういいの」


 それはそれで、信じているわけじゃないって感じが。


「それよりあの化け物の話、というより午前中に見たお披露目の感想でしょ? 私としては正直ね、楽しみもあったけど恐怖もあったわ。ぶっちゃけ結構ビビった。ゲーム画面とか映画じゃない、なんというか、やっぱりこう表現するのがいいと思うんだけど、現実味のある迫力があったもの。あれと今から戦えって言われても、ね。ゲームのキャラとかはよくあんな巨大な敵に立ち向かっていけるわよね」


 私はちょっと無理、と紫は首をふるふると横に振る。夢華はそれに同意するようにうんうん、と頷いている。戦えないっていうことに二人とも同意しているのに、二人の動作が反対なのちょっと面白い。


「でももうなくなった?」


 ものすごい大きい敵だけど、私を見てもらえばわかるように、やられても怪我一つしないのだ。だったら怖くないと思うんだけど。そういう意味を込めて体や腕をアピールする。


 まあ見えている空の大部分を埋める巨体はそれだけで怖いだろうし、家一軒分はありそうな拳が向かってくるというのは変わらないけど。でもくらったところで思い切り吹き飛んだり、衝撃は感じるけどそれだけだ。


「うーん……そうね。本当に怪我一つないみたいだし、安全なのかなって気はしてきた。してきたけど、じゃあ大丈夫だね、戦えって言われたら無理」


 首がさっきよりも強く横にぶんぶん振られてる。そんなに振ると首痛くするよ。いくら私でも、本気で怖がってるならやらせないから。そこまで怖がってると思わなかったから、さっきまでやってもらおうかなと考えてもいたけど。予定では別のことするつもりだったけど、一度くらい体験しておいてもらおうかなって程度に。だって最初は怖いかもしれないけど、私も一緒だし。回数を重ねてちょっとずつ慣らしていけばいいかなって思ってた。けど、どうもダメそうだねこれじゃ。


「私も大体同じ感じですわね。後はもう、実際に試してみないとわかりません」


「そっかぁ」


 見栄え良く、派手にしようとしてみたんだけど怖がらせちゃったか。まさかやりすぎとは。巨大にして強大な敵と、それに挑む戦士たちの姿は古来より人の憧れや興奮を呼ぶ。だから私もそれに倣い、非常に大きな敵を作ってみたのだ。大きいっていうのはそれだけで迫力も説得力もある。私のこの装置と新競技の宣材動画にはうってつけかなって。夢華たちにお披露目してびっくりさせたり、すごいすごいと言われたいというだけで今回披露しているわけじゃないからね。言われたい部分もとても多いけど。私の大事な原動力だ。


 そのための策ってほどでもないけど策の一つだったんだけどな。大きくて派手で、なんか羽とか触手とか大きい顔とかつけとけばなんかボスっぽいかなって。そしてそれに挑戦する私とアンドロイドが勇者役。そのくらいのふわふわなイメージでヴィクトリアにデザインを頼んだんだけど、気合入りすぎだったみたいだね。私は完成したデータや実際に投影した姿を見ても、いい感じじゃんで終わっちゃったんだけどな。


 でもそうか、紫より物怖じしない夢華でもそうなら、やっぱり予想よりだいぶインパクトあったみたいだね。でもそれはそれで、そこまでリアルさを感じてもらえたのなら嬉しい。他のリアル系VRゲームやら立体映画やら遊園地の大規模立体映像なんかでは、いくら怪物が巨大で気持ち悪くてもまったく気にしない程度の慣れが二人にはある。近頃の一般に出回っている立体映像でも怪物怪獣の類は投影された姿や声があまりに大迫力で、子供は泣きだし大人でも腰を抜かすこともあるほどだ。そんなモンスターにも挑める二人がダメ、無理っていうくらいだ。よほど衝撃的だったんだろう。ちょっとがっかりな半面、予想以上の出来で嬉しい。


「まあ今回はデータ量が違うからねー」


「データ量?」


「そうそう。二人がビビったような現実味を感じさせるには、いかに現実に近い量のデータを持たせられるかが結構大事なの。VARSも今回の装置もそこは変わってなくて、あー、でも今回の方が装置に籠る必要のあるVARSより有利だったかな。現実の空気、現実の光、現実の音、現実の体が利用できたからね」


 ふーん、とかへーとか気のない相槌。あんまりよくわかってないなこれ。むむむ、二人に説明するとなるとどんなもんかな。本気の解説を求められているわけじゃないけど専門性の高い話だし、なんかいい感じに嚙み砕いた説明ができるといいんだけど。技術的な話じゃなくて、大体の空気が伝わればいいんだし。


「えーっと、そうね。あー……写実画ってあるでしょ?」


「ええと、あの、見えたままの物を描く絵のことでしたわね?」


「そうそう。で、あれって上手い人のだとまるで写真かさ、本物がそこにあるように見えるでしょ? 見たこと一度はあると思うんだけど」


「あるある。これで本当に絵なのって言いたくなるの、テレビで何回か見たわ。別に絵に興味はないけどバラエティで時々やってるわよね」


「私も当然一緒に見てますから見たことありますわ。それに私は教養のある大人の女性ですから、美術鑑賞くらいはたしなみますの。それがどうかしまして?」


 謎のマウント取りやめーや。


「そのリアルな絵ってさ、描く過程も大抵セットで流してると思うから見たことあると思うんだけど、ものすごい描きこんでるでしょ? 細かいタッチで小刻みに描いたり、違う色を何度も重ねたりとか。小さな所にも影をつけたり同じ色でも明暗をつけたり、後は何だろう? 筆の向きを変えて描いたり、光の反射で写り込んだものとかまで描いていたりとかかな。そういった描きこみがさっき言ったデータ量の、一部だよ。要は私が午前に見せたあのモンスターは、これまで二人が見てきたどの立体映像のモンスターより細かく作り込んでるってこと。二人がビビっちゃうくらいにね」


「誰がビビったって言ってるんですの? 証拠の提出を要求しますわ、証拠を。誰があんなの、あんなの怖くなんかありませんわ……ん? 一部なんですの?」


 今さっき怖いから戦うのは遠慮するって言ったじゃないの。そうは思うけど、面倒くさいことになりそうだから言わないでおく。


「そう、一部。だって今の例えは絵だったじゃない。絵は臭いや光を出さないし、他にも色々情報が欠如してるでしょ。そこで最初のデータ量の話に戻すとさ、VARSより午前に使った装置の方が有利って話したよね? それはそういうことよ。VARSであの午前のお披露目の場を再現するなら、あの場に当然にあった最上層の空気や日光や熱に、風や湿度や温度なんかも再現しなきゃいけないの。しないとあの広場より絶対に臨場感が失われちゃうもの。だって温度を感じなく風も吹かず臭いもなく空気さえないような空間、現実には存在しないんだから。臨場感を出すにはモンスターとかの作り込みはもちろん、その場自体の作り込みが必須だよ。場づくりが適当だと、どうしても作り物の世界にいるというフィルターがかかっちゃうからね。まずは実際にその場にいると錯覚させないと全ては作り物よ」


 そこでちらっと時計を見る。このまま話し続けると勢いがついてきて、だいぶ長話になりそうな気がする。興味のあることってどうしても話しすぎちゃうんだよね。かと言って午後からも予定はあるし、そもそも話して楽しいのは私だけって可能性もある。二人から受ける感じはまだ悪くないけど、あまり長いことそんな興味ないだろう話に付き合わせてしまうのは良くない。ふわっとした解説としては十分話したし、ここらが止め時かな。私の観察会とかで結構時間くったもんね。


「まあ今はこんな所でいい? 私のライフワークになるかもってくらい個人的には興味がある話なんだけど、そろそろいい時間だし」


 私がそう言うのを待っていたのかってタイミングで、ピッと起動を知らせる電子音が浴室の入り口からした。すぐに浴室のスライドドア横の壁に埋め込まれた通信機からヴィクトリアの声が聞こえてくる。このお屋敷のほぼあらゆる電子機器はヴィクトリアが掌握している。なので実際やろうと思えばヴィクトリアは私たちがお風呂に入っている様子を浴室のカメラで観察して、今の様にタイミングよく話しかけることも可能ではある。今のは偶然だろうけど。


『昼間からお風呂で絡み合っているところ申し訳ありませんが、食事の準備ができましたよ』


「言い方、言い方」


『女同士のねっとりした何かを邪魔したくはありませんが、こちらは我々の洗浄も含め全て準備できました。後はマスター方だけです』


「わかったわかった。待たせちゃ悪いし、もう上がるよ」


『そうしてください。あと五分もなしですよ』


「はいはい、今行く」


 早くしてくださいねと念押しするとプツッと通信が切れた。どうもお風呂で遊んでいる間に、お昼ご飯の準備が終わったらしい。


 近頃自動調理機に対抗心を燃やしているラブリと、新しいアンドロイドの体を試したいヴィクトリア。そして家庭用の汎用奉仕型を目指して作ったメディの三人が、南城院家の料理人の補助や監督の元で昼食を作ってくれていたのだ。くれていたというより、やりたくてやっただけの方が正しい。


 本来南城院のお屋敷では専属料理人が食事を用意してくれる。メイドさんやその他使用人のも雇い主一家のも、時には客人の食事も全てを扱うだけの腕や信頼がある人たちだ。技量も信頼もなきゃ勤められないし、業務内容に関しては厳しい守秘義務がある職場だけど給料はいいそう。料理人に限らず、この家で働く人はみんな同じだけど料理人は特に厳しい。下手したら命に関わるし、命までいかなくても雇っている家の面子とかに関わる仕事だからね。


 今日もそんな厳しい審査の末に就職できた人たちの、いつものおいしいご飯をいただく予定だった。だけどせっかく人間と大差ない体を手に入れたから、早速手ずから料理を振る舞いたいとヴィクトリアが。そこに最近主の役にもっと立ちたくてやる気に満ちているラブリが、自分にもやらせてほしいと言い出した。どうせ止めてもやると言ったらやるだろうし、別に私は困らない。なので夢華や料理人さんたちの許可は得た上で、彼女らで昼食を用意することになったのであった。


 そこで私はそれならいい機会だしこの子も、とメディにも働いてもらおうかと思い立ったのである。他のアンドロイド娘ちゃんたちは激しく長時間運動したので、データ収集も兼ねて全身のチェックと洗浄行きだ。けどメディは最初のインパクトのある登場くらいしか運動していないし、データ取りも洗浄も今すぐはいらない。


 メディは汎用奉仕型だから家庭で料理を作るのも仕事の内だ。いやメディはどこにも誰にもあげない、私のだよ。そんな風に各購入者のご家庭で手料理を振る舞うことになるのは、メディのデータを基に製造する予定の家庭用汎用奉仕型アンドロイドたちだ。彼女らには各家庭で母の味ならぬ、世話役アンドロイドの味の料理をそれぞれに作ってもらう想定をしている。


 今回製作したメディたちは、全員に料理に必要なスキルプログラムを入れてある。けど実際に料理したことはない。生まれたばかりだしね。だから今回の料理はアンドロイドによる調理のデータ収集の一環としてちょうどいい。だがヴィクトリアはアンドロイドボディに入っているとはいえ別物すぎるからノーカン。一応どんな具合に動いていたかは調べるけど。


 そのためいつものお昼みたいにすぐには食べられないので、その間にお風呂に入っていたのだ。食後すぐの入浴は体に悪いけど、のんびり休んでお風呂入ってからでは午後の予定が後ろにずれこんじゃう。だったら食前に入るしかないねってことでそうなった。スキルはインストールしてあっても実践は初めてな二人と、経験はあってもまだまだ不慣れなラブリ。これならお風呂入って汗を流し、新しい服に着替えるくらいの時間は十分あると思ってたんだけどな。思ったより早かった。それよりも私が謎の尋問を受けていた時間が長かったのか。たぶん私たちがのんびりしすぎた方ですね、これは。


「聞いてたでしょ。そういうわけでさっさと行くよー」


「そうね。思ったよりゆっくりしすぎちゃったわ」


「お昼ご飯の出来が気になりますわね。うちのコックたちがついてますから最低限の味は保証されてますけれど、お手並み拝見といきましょう」


 入る時は一緒に入るとあんなにごねてたのに、出る時は色々気がすんだのかあっさり上がる二人。なんだか釈然としない気がする。納得いかない気持ちでペタペタと歩き出した背後で、相変わらず竹が軽い音を立てていた。







「あ、意気込んでたところ申し訳ないけどね。午後は一応、午前とはまた別のことする予定だから」


「えっ」


「だって同じことしても仕方ないし……色々できる装置なんだから、その色々を見せてかないと」


「ん、まあ、そうねえ……じゃあ何するの?」


「それはもちろん後のお楽しみ。チャンネルはそのまま」


「一つ先に言っておくけど」


「何よ?」


「またびっくりさせるつもりなら、覚悟してやりなさいね」


「えっ」


「えっ、じゃないが。午前の仕返しがさっきのがに股観賞と裸土下座よ? それでもまだやるっていうんなら、より過激な報復が待つと知れ」


「ヒェッ」


「私としてはびっくりドッキリな発明が見れて嬉しいですし、しかも反撃という名目で堂々とあんなこともこんなことも要求できるわけです。なので止めはいたしませんわよ」


「嬉しいなら反撃しなくていいでしょ」


「ダメです。それより気になっていたんですけど、あの最後の大きなモンスター。あれどうしてあんな姿にしたんですの? 何かモデルでも?」


「私にもわからん」


「えー……」

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