天才お姉さんの素敵な研究室(幻覚付き)

 一面の白の中を歩く。茶色のショートブーツが床材を踏み、時折皿を磨くような摩擦音が鳴る。足元をちょいと覗くと足首上程度丈のブーツの外側に、斜め上に少し突き出すピンク色に染まった小さな筒が付属しているのが見える。色がピンクというよりも透明な筒にピンク色の液体を入れたようで、足を動かすたびに液面が少し波打つように色が揺れる。もちろんそう見えるだけ。これはそういうお洒落として私が後から付けた物で、中身はちょっとした浮遊装置であり別に液体は入っていない。お洒落かなと思って揺れる液体風に外側を仕上げたけど、桜色がたぽんたぽんいい感じでつい自画自賛。


 この装置は私の体を少しばかり宙に浮かばせることができ、水たまりを濡れることなくその上の空間を歩いて回避できるのだ。でも他には特に何の機能もない。ついでにつける必要も別になかったけど、軽量小型化に成功したから何かにつけてみたかったんだよね。ちょうど買ったばかりの靴があり、ちょっと外見にインパクトがないなと思っていた。その結果がこれ。


 強いて言うなら今みたいなロングスカートの時に、汚す確率が下がるくらいの意味しかない。やろうと思ったらやりようによってはビルから飛び降りるくらいはできるかもしれないけど、そんな無理する必要ないし。


 私の研究室は研究棟の中でも高い階にあるので、美鶴姫ちゃんとは途中の階でお別れした。彼女は研究棟の中でも一番浅いエリア止まりだ。同じ研究棟の内部でも各フロアは警戒レベルによって仕切られており、私の行くような最重要区画はまた複数回のセキュリティ認証をクリアしないといけない。しかも重要度が上がるにつれ殺戮兵器にしか見えない武装剥き出しの警備ロボットなど、殺意の増した警備システムや機械の数も増えていく。はっきり言って物々しい。


 下の階にいた円筒形や三角錐な形状をした細身の警備ロボットに加え、多脚のクモ型や丸いボディから隠す気もなく銃を見せつける自律移動式タレット。分厚い装甲でできた箱に逆関節を付けたような人型ロボットに、天井付近を漂う円盤型ドローン。空気がもう明らかに違うので、ここで働く研究員は配属されてしばらくの間はびくびくしながら出勤してくるそうだ。


 天井にもろに見えている監視カメラや防衛装置はまだいい方で、ただ真っ白い平面の壁や床にも無数の装置が隠されている。警戒レベルが強制排除までいくと、あっという間に侵入者は穴あきチーズや炭になる。ひどければ五体をバラバラに引き裂かれて食肉加工場かマグロの解体ショーか。ただそんな事態は幸い一度も起きていないらしい。だというのに壁などの白が赤に染まった幻を見たり、空間に血肉の臭いがついていると錯覚する職員もいるとか。





 そんな恐怖の区画に私の研究室はある。フロアに詰めている人間の武装警備職員の方と軽く挨拶して、物騒な場所に似合わない甘い花の香りが漂う廊下を進んだ突き当りだ。何で花の香りがするかと言えば、私や他の女性職員が薬品の匂いやおじさん職員とかの匂いが臭いと抗議したからだ。どうせ中で過ごすなら嗅いでいて心地よい匂いで過ごしたい。これくらいは職場環境の改善として当然の要求でしょ。そのおかげでいい匂いがするようになった。


 そんな廊下を抜けて研究室のドアの前に立つ。スライド式で正常作動中を示す青のラインが走っている。ドア上部や脇の壁面など、複数個所にある認証機械から照会用のレーザー照射が来る。いつもの生体認証と、私の場合は手をかざし埋め込んであるマイクロポートによる複数認証をクリア。


「どうもー、おはようございまーす」


「あら、おはよう。珍しいですね、ここに来るなんて」


「以前連絡しておいたから、その件かな? おはよう」


 上にスライドしたドアを通って挨拶すると、入り口近くのデスクで作業していた二人から挨拶が返ってくる。最初に反応してくれたのは妙齢の顔の薄い女性である。実験をする人でもないのに白衣を着て、何かをパソコンに打ち込む作業をしている。ちらとだけ顔を上げて挨拶はしてくれたけど、もう作業に戻っている。あんまり愛想は良くないけど私相手でも誰相手でも変わらない。研究命の人間だけど実は結婚している。こう言っちゃなんだけど、よく結婚できたよね。そんなことしそうにないから知った時は驚いた。ちなみに旦那さんは結構かっこいい爽やか系だ。


 もう一人は非常に大柄な老年の男性で同じく白衣の先生だ。大柄と言っても背は私より低い。ただ男性らしく肩幅などが広い上に年齢を考えればおかしいくらい筋肉がついているので、座っているのにとても圧迫感がある。広めのデスク内もやや窮屈そうに見えてくる。


「とりあえずデータをもらっていきますね」


「ああ、どうぞ。しばらくぶりだから、結構あると思うぞ」


「大丈夫です。ね、ヴィクトリア」


『大丈夫ですけど、作業するのは私なんですがそれは』


「信頼してるんだよ」


 今日の予定はまずささっとデータの受け取りをする。その後は研究室の事実上トップである先生から連絡事項や相談事を聞く。次に担当してることで話があるという研究員がいれば彼らとお話という流れだ。受け取りに際してはいつもまずデータを分析や考察した論文に資料をもらい、次に大本のデータ自体も多少ピックアップして渡してもらう。私じゃないと気が付かないこととかもあるし、後でそのデータを利用することもあるかもだ。ここに直接来たのはその貴重な資料のためだしね。


 通信で送るとどうしても情報管理上問題があるんだよ、重要機密でもあるし個人情報でもあるから。ネットワークなんてどれだけ警戒しても抜かれる時は抜かれるから、面倒だけど仕方ない。だから未だにリモートだけで働く社会にはならないんだよね。なにせ今時通信を盗み見たりこっそり複製したりはできるけど、直接人を襲って持ち運んでいる荷物を奪うのはなかなかの難易度がある。街中、特に重要施設の多いエリアはどこを見ても視界の中に警備ロボットなどがいるし、もしいないところがあっても空からも監視や追跡ができるからすぐ捕まる。国レベルで重要な施設などもあるから警察の数も多いし、装備もいいの使っている。この町で暴力沙汰を犯して逃げ切るのはまず無理だろう。


 以前何か事件が起きたのを偶然見かけたけど、ものすごい勢いと数でどこからか湧いて出て来るもんね、警察。警察に警察のドーロイドに警備ロボットに警察のドローンや車と、あちこちからあっという間にわらわら集まってきていた。しかも容赦がない。骨折くらいならすぐ治せるからか殴るわ蹴るわ叩くに電撃まで、頼もしいけど暴力に躊躇なくてちょっと怖いあれ。躊躇して逃がしたらまずいかららしいけどね。


 なのでこうして直接渡してもらい、家に帰って分析にかけることになる。分析は主にヴィクトリアがやるけど。私?私はしない。しんどいもんね。単調な作業こそAIの本領発揮ですよ。やれるけど面倒で飽きることはしたくないのでヴィクトリアを作った面もあるから、しっかり働いてもらう。結局おねだりされた解析ソフトも買ってあげたんだ。しっかり働け。でも働けって言うと嫌がる素振りや面倒くさそうな態度をとるんだけど


「お願いヴィクトリア、あなたじゃないとダメなの。助けて」


 とお願いすると俄然張り切りだす。なんかツボがあるみたい。終わった後もただお礼を言うだけでもいいんだけど


「流石ヴィクトリア。頼りになるね、ありがとう」


 なんて感じで褒めつつお礼を言うと、他の仕事もやってくれたりする。ちょろい。人間臭すぎるというか、もう少しAIっぽい冷静でクールな感じ出してもいいのよと言いたくなる。完全に感情あるでしょ。疑似感情は組み込んで作ったけど、もうそんな域をぶっちぎっている。いいぞ、もっとやれ。





 お願いして持ち帰ったデータを家で分析するのはヴィクトリアだけど、持って帰る分の抽出もヴィクトリアに任せている。同じようなデータは弾いて、変化のあるものを中心に、年齢性別などを考慮した上で平均値辺りも一応持って帰る。ヴィクトリアの能力なら大した手間でもないので、ここで勤務しているドーロイドとおしゃべりする片手間でやってもらっている。専用回線の遠距離通信でいつでも話せるけど、いつでも話せるはいつも話しているじゃないからね。さっき駐車場で話し込んでいたのと同じで、たまには直接やり取りするのも楽しいらしい。人間で言うと電話と対面で直接会うくらいの差があるとか。


 何もかもヴィクトリア任せで私は何をしているのかというと、私は私で次の仕事に移っている。とりあえず世間話をしつつ、最近の業界の話や研究の行き詰まりの相談を受けている。飴舐めながら。


「どうだい、そのレモンキャンディー。食べ応えあって最近のお気に入りなんだ」


「おいふぃ」


 飴はやっぱレモンだね。しかしのど飴か。喉どうにかしたのかな。元気でいてもらわないと困るんだけど。


 ここの主任のお爺ちゃんは私のこと甘やかしてくれるので好き。私が天才と知っていて、その上で可愛く若い女の子としても可愛がってくれる。私のことを孫みたいに思っていると本人にも言われた。血縁のある孫や子とは居住地の関係でやや疎遠らしい。その上子供らは医学の道に一人しか進まなかったので、自分の人生をかけた医学の世界の話がその人以外とはできないのが少し寂しいとか。


 私にとってはいつも会うたびに飴くれる優しいお爺ちゃんで、私は好きだし他の研究員や医学関係者間でも評判のいい人だ。人生をかけていると公言する医学においてこんな若い娘になんというか、後れを取るというかそんな感じでも気にせず接してくれる。しかも研究や実証にもどんどん参加して、大御所めいた腰の重さがない。権威があるのに身軽で、私に好意的という人は貴重で便利なので助かっている。


 私が発明したものを公表する時、私は面倒事も騒がれるのも嫌だから表には絶対出たくないし出ない。絶対にだ。それでも誰かは出る必要がある時には、この先生が自分が開発者のような顔で出てくれる。本当は違うのに、自分が発明したと堂々と噓をついて記者会見やら式典やらに参加してくれる。要は身代わりであり、偽りの名誉と称賛を受けさせられる道化役ともいえる。それを気にせず余計な欲も出さずにこなしてくれるのは何よりありがたい。この人がいなかったら、いっそ全ての医学系の発明品を海外送りにしていたところだ。医療関係の知人は夢華のお母さんやおばあちゃんの関係もあって、海外の人の方が多いのよね。


「そういえば、君の友達が出したゲーム。VARSとか? あれ私もやってるんだ」


「えっ」


 飴噴き出すところだった。危ない。


「研究室の子から進められてな、家庭版を買ったんだ。すごいいいな、あれは。私みたいな年寄りでも負荷を選べるし、膝の負担が少なくて楽に運動できていい」


「まあ元々現代人の運動不足解消。外で運動するのも恥ずかしいデブでも、楽しく家庭で運動がコンセプトにありますからね……」


 それにしたってよくやるなぁ。そりゃ運動量や負荷は選べるようにできているけどさ。それでも百歳近いご老人なのに。


「夢中になって遊んだものだから、バイタルが急激に変化しすぎたんだな。運動用に設定していたんだが、それでも体調管理ソフトに警告されたよ。家族にも連絡がいって驚かせたようだ」


 技名を叫びすぎて喉が痛くなった、と先ほどくれた飴の袋を持ち上げる。体調管理のソフトに警告出されたり注意を受けるくらいはまあわかるよ。急に負荷をかけて心拍や血圧が上昇したり、時間をかけて行う運動でも数値が上がりすぎたら警告出るからね。でも家族に連絡行くって相当だよ。どれだけいきなり運動したんだ。体に良くないから警告が出るわけで、健康のための運動のつもりなら逆効果だよ。やめてよね、もう。


「人生120年時代。私もまだまだいけるもんだ」


 はっはっは、と笑うお爺ちゃん先生の体は実際お年寄りとしてはかなり鍛えられ、百歳近い老人には見えない。前にちょっと体内を覗いてみたら、バイタルデータも年齢よりはるかに若い数値だし骨密度もぎっしりだ。フットワークが軽いわけだよ。元からそんな運動不足とは程遠そうな体だったのに、まだこれ以上鍛えていくのか。そこまで鍛えてどうするんだろう。百歳越えだけが出られるオリンピックみたいなのあるし、そういった大会とかに出場するのでも目指しているのだろうか。


 人生120年時代っていうのは健康で楽しく遊んで生きられる年齢の平均がそれくらいだとして、政府が出しているスローガンである。あくまでスローガンなので、長いか短いか別として実際にその年歳で死ぬわけじゃない。この先生は長い方だろうな、絶対。休日には奥さんや仲間を連れて登山やキャンプもちょくちょく行ってるっていうし、元気いっぱいすぎる。


「……まぁ、その、無理はしないでくださいね」


「もちろん。無理はしてないぞ。楽しんでるだけだからな」


 そういうことじゃないんですけど……。


 その後はしばらくロボット物の良さについて語られた。まあ元気なのはいいことだし、お話くらいつきあってあげるか。色々お世話になってる相手だしね。ちなみに先生は夢華と同じく、怪獣怪物と戦うのがお好きだそうだ。人間同士で戦うロボットは兵器としての側面が強すぎて云々、怪獣だとかと戦う巨大なロボットはヒーローであり兵器ではないとか。わからんでもないけど、そこまで熱量をぶつけられると共感できないから少し困る。なんか急に早口になって聞き取りにくいし。


 私も普通にロボット好きだし何なら人型ロボットに乗って作業できるから今の、と言っても出向する前の元の職場だけど、を選んだ部分もある。ロボットに関して言えば私は大型も中型も小型も、遠距離や特型までほぼほぼ全ての資格持ちだ。趣味と実益を兼ねてバンバン資格取った。しかも操縦だけでなく、それが会社の仕事なんだから当然だけど作ったり修理したり改造したり開発したりもする。


 そんな私の好きだったり慣れ親しんでいるのは実際に現場で働く作業ロボットで、先生のお好きな正義の味方系ロボットではないのだ。いや救急救命用のロボットや災害対応用のロボットは正義の味方系かな。とりあえず人命を救うんだからヒーロー系ロボットではありそう。なんてこった、私はヒーロー系ロボットのパイロットだったのか。ある日突然戦いの運命に巻き込まれたりしちゃうのか。ヒロインは誰だ、宇宙からくるのかな。


 でも人命救助系は戦う正義の味方系ロボットではないよね。悪と戦うなら警察だけど、警察のロボットは当然警察のだから私は乗らないし乗れない。なんというか先生とは趣味の解釈違いというか、専門分野違いだ。ちなみに先生は私のように仕事で使うわけでもないのに、趣味で小型から中型までのロボットの操縦資格を取った筋金入りの趣味の人だ。医療関係では有名な人だけあってお金持ちなので、自分の趣味用のロボットまで所有している。あなたほんと好きなんですね。奥さんも良く許してくれたよ。きつそうな人に見えたけど、旦那には甘いのかな。


 ただちょっぴり気になったんだけど、ネットとかで情報収集した時にも思ったんだけど、みんなVARSって呼んでいるけどそれはゲーム機の名前なんだよなぁ。「人類防衛・科学特務隊」というソフト名はあまり呼ばれていないという。かわいそう。今の所ゲーム機とゲームソフトを一まとめで売っているし、VARS専用ソフトは現状その一つしかないから仕方ない面もあるけどね。近い内に日天堂から専用ソフトが複数まとめて発売される予定だから、そうしたら個別のソフト名も読んでもらえるようになるだろう。それに私たちの仕事がうまくいけば、南城院重工からも初のオリジナルゲームソフトも発売されることになる。


 そんな私たちゲーム事業部の仕事の様子はというと、今日一緒にいない夢華は職場で私の渡したサンプルゲームをやっている。私が今出てる「人類防衛」を作るときにいくつか作って没にしたサンプルを、一応ゲームとして成り立つ程度に軽く調整したものだ。夢華や紫の反応が良ければ、これをたたき台にして開発を進めていくことになる。


 今出ている「人類防衛」とは操作感の違うロボット物が二つと、ロボットではなくパワードスーツを着て戦ったり駆けまわったりするの二つの四つだ。他にも没案はあったけどサンプルゲームとして提出できるのはこれくらいだった。ロボットとパワードスーツというサイエンスなジャンルだけど、ゲームの王道って言えばやはりファンタジー。ファンタジーゲームを出す予定があるか聞いてみたら


「うちの会社がファンタジー出しても仕方ないでしょ」


 と紫にバッサリ切られた。せやなー。


 ロボットなど機械系の会社が作るのにファンタジーはないか。せっかく参入するなら強みである専門分野を生かさないとね。そんな風にしっかり事業の先を考えている紫は今日何しているのかというと、昨日私がナンパした少女と遊んでいた間に調査したり店からもらったデータを整理、分析している。私は昨日がっつり遊んでいたけど、紫たちはちゃんと仕事してたのよね。本当に申し訳ない。今日も私は午前中思い切り遊んでたけど、その間もしっかり働いてたんだよね。一応サンプルは置いていったんだから、許して許して。






『あ、マスター。面白いデータがありますよ』


「お、なになに? なんか楽しい奴?」


『例の子供たちのものです』


「おー、それかぁ! 見せて見せて」


『はい、ではこちらに来てください』


「どらどらぁ……?」


 データの保管庫となっているコンピュータを、持参したデータ用端末と直結させて選別を行っていたヴィクトリア。彼女が面白い物があると腕の端末から声をかけてきた。話を中断して、ちょっとすいませんねとおじいちゃん先生と話していた席から離れて、入り口近くのデスクから研究室の少し奥にあるデータ室へ向かう。例の子供に関係するデータと聞いたら、見ないわけにいかない。あの子たちはここ最近の私のお気に入りなんだ。簡易のセキュリティゲートを通って入室、近くの使っていないモニターにデータを映してもらう。


『どうやら順調に成長しているようですね』


「みたいだね。結構結構」


 人間とドーロイドの夫婦の間に生まれた子供なんて、今のところ彼女たちだけだ。お腹いっぱい食べてよく寝て、健康に大きく立派に育つんだよ。見たところみんな体重も体の大きさも、平均的な赤ちゃんの中では大きいくらいだから心配なさそうだ。珍しい生まれだけど全員ご両親の愛情がしっかり注がれているから、成長については心配いらなそうだ。今のところ彼女ら数人しかいないけど、他のドーロイドからも子供が欲しいと要請が来ている。だからいずれもっと同じ境遇のお友達が増えるだろう。楽しみにしててね。


 でもあまりに初の取り組みすぎて、正直私でもどうなるかわからない部分はある。子供は生身の人間として生まれるから、いつか子供の方がドーロイドの親より早く死んでしまう。その時のドーロイドの親の気持ちとか、人間ではない親を持った子供の気持ちとか色々とね。他にも色々な問題が想定されるけど、そういった精神面の問題は不安な一方で子供の健康とか成長についてはあまり心配してない。


 ドーロイドを親に持つと言っても、子供を作る時は人間の細胞や遺伝子を使っている。流石に私でも機械の体から受精卵は作れない。遺伝子操作などバイオ技術で作った卵子を母親であるドーロイドに注入して、その後は普通に愛し合ってもらって内部で受精させた。だからドーロイドの血はひいてないというか、血が流れてないからひけないのよね。一応遺伝子操作で外見や性質が似るように調整した卵子を生成して使ったんだけど。


 ちなみに母体というか、母親は全てドーロイド側だ。女性型ドーロイドと人間の男の組み合わせ。今のところ男のドーロイドは社会全体で見ても女性型より生産数も注文も少なく、その上で主と夫婦になって子供を作るという子は未だにいない。一人暮らしの女性でもほとんどが女性型を買うし、みんな女の子型の方が好きなのね。私も好き。でも女性と女性型ドーロイドのカップルではまだ子供が欲しいという話が来ていない。女性同士でも子供が作れる時代だし、人間とドーロイド間でも子供が作れる。だから人間の女と女性型ドーロイドでも子供はできるんだけどね。気づいてないのか、まだ子供はいいのか。まあゆっくり決めたらいい。


『ではこちらもご覧ください。性転換施術を行った者の術後の経過観察や、生活の追跡調査をしたものになります』


「お、なんか面白いことあった?」


『はい。妊娠、出産をしたケースが複数あります。その逆もですね』


「そっかそっか。いいね、まだまだデータ数が少ないから頑張ってもらいたいね」


 性転換施術は技術的には可能になったけど、施術をするとどうしても周囲の人間に明かさないといけない。そのため周囲に受け入れられなくて傷ついたり、相談できずに施術を頼めなかったりと技術以外の面で問題は山積みと言ってもいい。そのあたりは私の知ったことじゃないと言えばないけど、せっかく施術したんだからしっかり生きてほしいとも思う。


 この研究室では最後まで面倒見れないけど、民間団体や政府の相談窓口などの活動に協力、連携はしているそうだ。せっかく安くわりとお手軽に解決できるようになったんだから、自分の望む性別で自分らしく生きていくということをもっと受け入れられる社会になってほしいね。そうすることで本当はしたいけど周りが怖い、とかで躊躇っている人も気にせず施術を受けられる。その人は望む体に慣れて嬉しい、私はサンプルが増えて嬉しい。みんな幸せだ。


「今のところみんな相手に話しているみたいだね」


『施術後のサンプルデータを多くとりたいので、できれば話していただいた上でご夫婦で調査に協力していただけるよう、こちらの研究員がお願いしているようです』


 性転換したことを少数には話す人もいれば、誰にも話さず最初からその性別だったように振る舞う人もいる。ただ今のところ結婚して妊娠した、あるいはさせた人はみんなその前にパートナーには打ち明けている。性転換は新しい施術だから、妊娠出産機能に問題はないと説明されていても不安なんだろう。パートナーに打ち明けて私たちに協力してもらえれば、こうしたデータをとるために各種検査をするし協力金も出る。彼ら彼女らは不安が解消できるし、私たちは貴重なデータをもらえる。持ちつ持たれつというやつだよ。


 子供が大きくなった後も、時々でいいから定期的に検査させてもらえればなお良い。そうなるといつか子供にも性転換したことを話すことになるけど、まあその辺はご家庭の問題なんで。何かあったらうちの研究室の相談部門に相談していただくという形になりますねぇ。


「ま、その辺は相談部門にお任せだね。あの人たちならなんとかうまくするでしょ」


 うちの相談部門では、ここでの研究に関わる施術などを受けた人の様々な問題に対処している。交渉や相談、カウンセリングの専門家たちだ。例えば性転換の場合は家族への説明やそれで理解してもらえない場合、一時的に被験者を匿い生活の面倒を見たりしている。また転換後の体での振る舞い方や常識、身に着けておくべき技能の講習などもだ。心は男性だった女性が男の体になっても、いきなり一般的な男としての動きができるわけじゃないので訓練が必要なのよね。それ以外にも暮らしの中で諸々の問題が起こるけど、その時のアフターケアも行う。それだって大事な情報だから、上手く聞き出して対処してくれる相談員たちは頼もしい。


『同性同士で産んだ子供についても結構データがたまっていますね』


「見せてちょうだいな」


 こちらも私的には大好きな分野だ。私的には男でも女でも互いに愛し合い、その結果として求めるのなら子供だって得られていいと思う。むしろ得られるべきだ。性転換や同性間の生殖などの話って私は割と好きなんだよね。色々難しい話ではあるけど、その倫理とかの是非は私の関知するところではない。


 私が気にしているのは、本来なら子供ができないという点だ。本来子供ができない彼ら彼女らが子供を作れるようになり、それが一般的になっていくことは人間の一つの進歩、進化だと思う。同性間では子供ができないなんて、生まれつきの肉体がそう決まっていたというだけだ。これは性転換もそう。本人の人格とは別に肉体があり、それを今までは真の意味ではどうにもできなかった。外見を似せるのが精一杯で子供を作ることもできず、遺伝子的にも元の性別のままだった。それが今や遺伝子レベルで望む性別に生まれ変われ、子供だって望める。これは大きな進歩だ。生まれつきそうなっていたって関係ない。私たちは望むなら同性とでも子供を作れるし、性別だって見た目だって変えられる。


 私たちは肉の器による限界を、獣としての人間を超えていける。昨日の不可能は明日には可能になり、神に定められた不条理であっても覆すことができる。


 私はそう信じている。





『あ、性行為における不満や改善点のデータもありますよ』


「それって私らの仕事なのかな……」


 男同士はいいんだ。卵作って母体になる側に入れておいて、受精したら取り出して場所を変えてまた植え付けるだけだ。そっちの趣味はないからあまり詳しく考えないけど、あの場所じゃ育つのに問題があるからね。でも女同士は受け入れる側じゃなくて、孕ませる側の方に細工をしないといけない。


 別に男女ともに注射器みたいな道具を使って、母体内部に必要な液を流し込んで受精させてもいい。研究所や病院で研究員がパートナー同士の細胞を使って受精させたものを、同じく研究所などで母体に移植でもいい。でもそれじゃあまりにあんまりじゃないの。ということで私たちは女性同士の場合は疑似的に男性器を、ちゃんとバイオ系素材で快楽刺激とかを互いに感じられるようにした物を作って、それを使うことを提案している。


 愛しあう二人の愛の結晶として子供が欲しいんだから、ちゃんと幸せに愛しあい交わった末に子供を授かってもらいたい。別に使いたくないなら使わなくていいんだけど、その場合も要相談のうえで納得いく方法をとってもらっている。で、今見ている不満だとかはそれに対するものだ。もっと夜の生活を充実させたい系のお悩みらしい。例えば妊娠後も、妊娠させる機能はなくていいけどもらった物は欲しいとか。今のは専用の道具という扱いなので、妊娠したら返却してもらうからね。一応高度な技術の産物だし。でもないと物足りなくなったとか言われても困るぅー。


『ちゃんと相談部門が対応しているようですよ』


「サンキュー相談部。アフターケアもばっちりで有能ですねぇ」


『親の不満はともかく、赤子については問題なしですね。自然妊娠で生まれた子供と特に違いは見られません』


「で、あるか。ま、結論を出すのはまだまだこれからだけどねー」


 今は良くても一年後、十年後はどうだろう。究極的には百年以上生きて普通の人と変わりなく寿命で死んで、ようやく問題がないと言える。もっともその頃には性転換や同性生殖も当たり前の時代になっているだろうし、何なら人類は今のような肉体でいるかもわからない。百年前には今の世界が想像できなかったように、今の時点で想像した百年後はきっと現実の百年後とは大きく違うだろう。


 そして百年も経てば、人類はもう地球だけに生息してはいないはずだ。今だって宇宙コロニーに住んで仕事をしている人たちもいる。今は捕獲して引っ張ってきた小惑星からの資源採掘が多いけど、やがて宇宙での住環境がより整えば仕事の種類や量も増えるだろう。それに伴って宇宙に居住する人数も増えていくはずだ。現状は国際宇宙開発センターの職員である開発チームや、研究員あるいは作業員しかほぼいない。

 けれどいずれは一般企業などの参入が進み一般人も増えていくだろう。


 問題も同じように増えるだろうけど、それは残念ながらどの時代や場所でも同じことだ。それを防ぐには人類自体の知性や理性が、技術の発達によって磨かれることを祈るしかない。これまでの人類の歴史は、辛うじての希望は見せてくれる。とりあえず虐殺とかは世界を見てもほぼ起きなくなった。ゼロじゃないから胸を張れないのが悲しいけど、人類は牛の歩み程度だけど前に進んでいるよ。





 ただ月面都市はなー、私反対派何だよね。


 月面に都市を作るくらいなら、私も協力するから一からスペースハビタットを作りたい。だって月という星に住居作ってすむなら、結局地球に住んでいるのとさほど変わらないじゃない。重力が強いか弱いかの差だし、その重力問題はもう解決できる。水とか食べ物はもう宇宙でも作れる技術があるし、月に都市を作るのはお手軽というか近場で間に合わせる感があると思うのよね。


 何より月に都市なんか作ったら月へのロマンが失われてしまうでしょ。月にうさぎはいなかったけど、でもまだ保たれている月を一緒に見ることの価値が減ずるというか。夜空に煌めく無数の星々の、はるか過去からの遠い光を楽しむのと同じように見ていた月。これが高い建物の上から見る都市の夜景のような月になる。雄大な自然の中に鮮やかに咲き誇る美しい花々や、撫でるように吹き抜ける風に揺れる草木のようだった月。それが整然と並べられ、長さも形も良く整えられた花や草木を楽しむ庭園になってしまう。



 都市の夜景が悪いとか、庭園が悪いわけではないんだけどね。夢華たちと最上層から眺める都市夜景は美しいし、三人で庭園を散歩するのも好きだから。なんだけど、月の良さというか持っている情緒的な価値は手を触れないから良いものだったのに。触れられるようになったからと言って喜び勇んで手を加えてしまうことで、失われてしまうものが必ずあると思う。


 端的に言うと、月が綺麗だねと言った時にあれは月面都市の明かりなんだよなあってなるのが嫌です。月の光がただの太陽の反射にすぎないとわかっている今でも、月齢により変化する姿やあの儚げだったり冷たかったりする光をみんな愛してきた。神秘的に感じたりロマンティックに感じたり、人や時や場所などによって違うけどね。現代になってもまだ多くの芸術のモチーフにもなっている。そこに人間の手をがっつり加えてしまうのが嫌なんだよなー。だから月面都市には反対なのだ。完全に気分の問題なんだけどさ。


 ただ月に関してはただ一つだけ何より大事な事がある。


 無限に広がる宇宙の暖かな闇の中、無限に続くような月の砂漠を三人でどこまでも並んで歩いた。あの数多の既に亡き星の光のように、彼方に音を置き去りにして歩いた瞬きの時間を私は決して忘れないだろう。


 私たちの小さな足跡は今も月の白い顔の上に確かな跡を刻んでいる。






「四季さん、お友達の検査終わったって連絡あったわよー」


「はーい」


 来た時に入り口で挨拶した人とは別の研究員のお姉さんが、近くを通り過ぎながら連絡が来たことを教えてくれる。待ち合わせの相手の用事は終わったみたいだ。私の方もぱっと見で見たいデータは見たし、研究員との打ち合わせや相談も一通り片付いた。ちょうどいいからそろそろお暇しようかな。


 飲みかけのお茶、最初は緑茶だったんだけど途中で麦茶にしてもらった、をグイッと飲み干して立ち上がった。と、立ち上がった際に鼻に匂うものが。麦茶の香ばしさが混ざっているけど、今脇を通ったお姉さんの体臭だ。あのお姉さんはそろそろ五十歳になるんだったか。この間ようやく結婚できたと、以前休憩時間に雑談してた時に聞いた。機密レベルの高い職場に勤めているだけに相手の身辺は研究所から費用を出して調査されている。だから相手の過去や人柄、友人関係も極めて真っ当とお墨付きなので安心してプロポーズに頷けたそうだ。


 ただお姉さん自身の職業については機密なので、親にもその相手にも詳しく明かせない。そのせいで親にもそのお相手にも変な誤解を受けそうになったらしい。結婚するということで、いい機会だからそういった対外交渉などを担当する相談職員が説明に行って事なきを得たとか。まあ仕事について聞くと曖昧にごまかすだけだし、仕事が仕事だけに高給取りで羽振りがいいしで端から見ると怪しいよね。


 そんなお姉さんだけど、あの人たぶん妊娠してるな。体臭がそう、赤子を持った女のそれになっていた。今時五十歳くらいなら焦って妊娠することもないだろうに、もう子供出来たのね。まあおめでたい話ではあるし、後でなんかお祝いのメッセージくらい伝えておくかな。私にも優しい貴重な人だし、そのくらいの社交性は私も見せるべきだろう。


「他に何かお話あります?」


「いや、特にないはずだ。何かあっても話だけなら電話するればいいだろう」


「確かに」


 最後に何かし忘れたことがないか確認するけど、特に思いつかないし先生の側も特にないみたいだ。ついでに周りにいた他の研究員たちに視線で尋ねるけど、みんな今日のところはもう何もなさそう。じゃあ完全に今日の用事は終了かな。そしたらそろそろお暇しようか。


 部屋を出ようと入口のドアに近づくと、忘れてたと後ろから声を掛けられる。やっぱりあるんじゃないか。


「そうだそうだ。一つ用事ってほどでもないんだがあったんだ」


「なんです?」


「研究成果や施術のお礼がまた届いていてね。いつも通り好きな物を選んで持って帰ってくれ。だいぶたまったぞ」


「またですか。量はどうです?」


「こっちもいつも通りだ。まさに山のようだよ。気に入ったのがたくさんあったら、下で配送を手配する方がいいだろうな」


「えー、そんないらないですよ」


「まあまあそう言わんでくれ。彼ら彼女らも本当に感謝し、喜んでいるからこそだ。気持ちはちょっと入りすぎだが、嬉しいことじゃないか」


「気持ちは嬉しいですけどね……」


 感謝され喜ばれているのは嬉しいのよ、本当に。私だって誰かに感謝されたり、認められたりはしたい。ただ量がね。研究室宛や病院宛で来るから一回一回の量が多い、しかもこの研究棟の人は何かいらない遠慮をして、大本は私の研究や発明なんだから私が多く取るべきってことで基本私に回してくる。


 気持ちは嬉しいのよ、本当に。配慮してもらっているのも嬉しい。でもそんな気の使い方はしなくていいから。私が来ない内に賞味期限とか来る物は流石に消費してもらえるんだけど、消費期限がないようなものは全部取っておかれて私に回ってくる。治してくれた病院や治してくれた研究者の方に、と箱でお菓子とかお酒を送ってくるのを全部渡されても困るんですけど。好きなの持って行っていいって言ってるんだから、ほんと気にせずもらってよ。きっと私が取り置きの中から気に入った物を持って帰るのも悪いんだろう。何か気に入ったのを持って帰ったら悪いみたいに思われて、結局全部一度は私が確認することになってしまっている。


「食べ物飲み物はいつも通り私たちも消費に付き合うから、適当に回してくれ」


「いつも言ってますけど、先に好きなの持って行っていいんですよ。だいたい研究室宛になってるんだから、気にせず全部皆で分けてくださいよ」


「君のことを隠しているから研究室宛になっているだけさ」


「そういう物もありますけど……バッグとかアクセは。食べ物系は絶対研究室用ですよ、あの量は」


 たまに送られてくるバッグ類などからして、うっすら開発者が女だということは知っている者は知っている様子。研究員には男も女もいるけれど、狙いが完全に若者向け。最初はそれこそ男物のブランド品が多かったけど、最近は女性向けの物に変わっている。それも若者でも使える感じに。完全に私辺りの年齢を想定している。


 他の研究員の女性は、ここに配属されるだけの腕や知能、実績なんかを備えるとそれなりのお歳になる人が多い。おばあちゃんレベルは少ないけど、十代、二十代向けファッションは流石にってくらいの人が。そう考えるとやっぱり私のことがどこからか漏れているんだろう。調査や処理はすでにお願い済みだ。その上で見逃される、あるいは許されているなら私がどうこう言うことでもない。何かされたら、その時にはそれ相応の報いを受けてもらうだけのことよ。


 ただ食べ物系は相変わらず箱や袋で大量に送られる。どう見ても大人数向け。一応口に入る前に検査が入るけど、今まで問題があったことはない。完全な善意と感謝の表れと見てよさそう。


「私たちの機嫌もとっておかないと、ということだろう」


「じゃあとられておいてくださいな」


 食べたいのがあったら少しはもらっていくけど、巨大な箱にぎっしりを十も二十も送られても食べきれない。研究室で分けて食べる量だけど、研究室側は自分たちの功績じゃなくて私の功績だからと遠慮してくる。そんな変な遠慮はやめて。発明したのは私だけど、実用化して施術したのはあなたたちなんだから、気にせず自分たちの努力へのご褒美として悪くならない内に処理してほしい。私は大食いチャンピオンじゃないんだから、そんなに食べられないって。


 バッグとかのブランド品だってそんなに興味ないし、好きなの持って帰ればいいのに。そういうの送ってくるのって大抵お金持ちだから結構なブランド品ばかりだよ。せっかくだから、自分へのご褒美くらいの感覚でどうぞ。とはいえそこで自分の功績として調子に乗らない人材を集めた結果こうなったみたいだし、バランスをとるのってなかなか難しいね。


「それじゃいくらか見繕って帰りますから、後はそっちで処理してくださいな」


「うむ。あ、いい酒あったんだ。あれは残しておいてくれ」


「はいはい。いい歳なんだから飲みすぎないでくださいねー?」


「わかっとる。私はまだまだ死ねんからな」


『ご自愛くださいませ』


 この先生の様に地位や権威、信用や実績その他諸々の便利な力を備えていて、なおかつ私の隠れ蓑を受け入れる度量。それでいて変に勘違いしたり悪用したりもしない。しかも私に好意を持ち、私に配慮をしてくれる。こんな人材はそう見つからないよ。せめて後継者を育ててから死んで。でもここまで上手くやれる相手は滅多にいないと思うから、もっと長生きして。最悪死んでも生き返らせてあげるからね。


 育てる相手はもちろん研究者じゃなくて、私の身代わりや相手をする後継者ね。研究者なんかは放っといても増えるから。毎年のようにこの研究室への応募が増加していくから大変みたい。分野を問わず新技術や新発見が毎年ポコポコ増えるし、それを目にする機会も多いせいか研究者は近年右肩上がりだとか。国が研究開発に力を入れて費用も多めに出してくれているし、金がなくても生きていける時代だからみんな失敗を恐れず挑戦しやすいんだよね。そのおかげでゲームや漫画、小説などの創作物の量も増えてこっちも嬉しい。良い時代になった物だ。


 国内も世界も人類も、文明も文化も発展が進むのでいいことだ。優れた発明や珍しい発見があるたびに、私も負けてられないなって思う。


「それじゃ、また今度」


「ああ、お疲れさん」


 それじゃ次は一転して、若くて可愛い女の子に会いに行くかな。


 ぷしゅんと閉まる音を背後に、私は一面の白の中を小走りに駆け出した。少し待たせちゃったかな。でも仕事はばっちり済ませたし、後は可愛い女の子と楽しく過ごすかな。へへ。

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