第2話
榛恃にカリスマというものはないが、彼の論理的な思考は他人を纏める上で非常に優秀であった。
ケイが織守のアドバイスの元で皆をまとめあげ、おぼろげな計画を打ち立ててから三ヶ月がたった。一人一人が生きるため必死になって、そしてアリスや倫太郎といった天才たちに死に物狂いで食らいつくために、ものすごいスピードで書籍を読み解きスキルを習得した。この中でも彼ら二人は別格だ。かろうじて白葉とジョヴァンニが二人に対抗できる程度で他とは圧倒的な差がある。
また、織守がそれぞれに合った課題を課し、それらを実行させた。結果、織守の予測の七倍ほどのペースで物事が進んだ。それは織宮の最大の上振れ値を余裕で超えるほどの数値である。
まずこの世界で魔法を使うには魔法の理論を理解しそれを実行する必要がある。そして魔法とスキルは全て魔素と言う物質を媒介にする必要がある。それを直接流し込むことで使うことができるものを魔道具という。所詮魔法もスキルの一つである。また、魔素の操作についてだが、体が本能的に知っていた。きっとこの世界では本能レベルで生物に備わっているのだろう。
ほかにも、体の変化があった。体が進化したようで睡眠は二日ほど取らなくても問題ないし、食事も三日に一度ほど、排泄に関しては生活魔法の応用で不要なものは全て魔素に変換できるためごく少量のみしか排出されない。これについてはウリュダラがなんらかの操作をしたようで、この世界の人間はそれほど最適化された存在ではないということが本を読んで得た印象だ。ハイヒューマンという種族も睡眠と食事を必要とするので、これは管理者の操作とみて間違いない。
織守達は、勇者召喚でここに呼ばれたため、この現象を異世界転移だと考えていたが、勇者として呼ばれた人間は人間の子孫であるハイヒューマンに転生してから召喚されるらしく、これは紛れもない異世界転生である事を八人は知った。
「さてと、とりあえず三ヶ月がたった。予定の六倍は蔵書を読み解いたし、スキルも習得した。予想外だね。そこで、次に行っていくのはスキルの習得。おたがいの得意分野を好きに伸ばすと言うものだ。適材適所というだろう。そしてそれを最適化する案を榛恃につくってきてもらった。説明を頼む」
そう言って俺の作った草案を配りだす。この紙は魔法から作り出した紙だ。無からの想像とまではいかないが魔素、つまり生態エネルギーでもあるこの物質から紙が作らことのできる理論は俺にはわからない。無論この世界では紙は貴重だが、もしこの方法が世界中に広まれば紙は本当に紙屑と言われるだろう。
話が逸れた。
俺はケイに促され配られた紙の内容を説明する。
「えーと、これは個人によって書かれている内容は違う。これらはアルティメットスキルの概要なんだ。個人個人の得意分野とか、スキルの組み合わせとかを考えて俺なりに組み分けてある。次の目標はそれらの習得、あくまで習得だから三ヶ月あればできると思う。もし無理なら五ヶ月までは延長しようと思う」
俺が周囲を見回すと倫太郎が口を開いた。
「ちょっといいか?一人一人内容が違うと言ったが一度全員分に目を通したほうがいいんじゃないか?アルティメットスキルは確かこの世で一人しか持てないんだろ?」
「あぁ、倫太郎の言う通りだがこの前にも言っただろ、こういう課題の短期解決は俺の得意分野だ。中を見てみろ」
そう言って彼らはその中身を食い入るように読み出した。
「なるほど、平等とかそう言った理念を取り払い、それぞれの
そう、これらのスキルは全員が平等にだとかそう言った理念を取り払い、俺たち全員にとって最大の利益というものを追求したものだ。クロードは人道主義というわけではない。この中には合理的なことを言い出すものがいなくかったのは非常に幸運な事だ。
「それじゃ理解ができたところで、いつも通りやるとしよう。万が一アルティメットスキルが俺たち以外に渡ってみろ、計画の立て直しだ。できるだけ早く覚えてくれ」
一同の目が少しひかる。俺は期限について口を添え、周りを追い込む。無論自分も。
さて、俺に課されたアルティメットスキルは四つ、精神干渉系や、対一戦闘系のスキルは大体俺が覚えることになっている。それは心理学者であることと同時に、精神系への攻撃は一対一で行うことが多い。その為、一対一の戦闘は基本的に俺が行うこととして、そう言ったスキルを偏って覚え、最大限有効活用しようと言うのが狙う理由である。
まずは地獄ノ覇王、数あるアルティメットスキルの中でもかなりの力を持つスキルだ。これを手に入れた場合、地獄魔法というマスタースキルの効果に加えて悪魔の支配者として地獄の悪魔を操ることができるようになる。
この世界のスキルは アルティメット>マスター>レジェンド>ユニーク>スペシャル>レア>ノーマルとあり、そしてこれらの枠組みから外れたオリジナルが存在する。オリジナルスキルについては完全に理論から作るスキルのことであり能力はピンキリだ。
話を戻そう。地獄ノ覇王を習得するには地獄の最下層にある氷に突き刺された神滅理剣オルネイテェアを引き抜かなければならない。まず地獄というものだが、それはこの屋敷の下に入り口があり、世界の管理者の住まいに一つずつ、そして今は亡き管理者達の居住地にも一つずつ、合計十二個の扉があり、そこから入ることのできるダンジョンだ。地獄は、最凶のダンジョンとして知られている。
要はそこを攻略するのだ。今の戦闘能力と知識でいけば即死は免れない。アルティメットスキルの取得は確かに優先順位ぶっちぎりで一位に君臨するものだが、それを得るために死んでいては意味がない。そこで俺はそこをズルだとか何と言われようが攻略するためのスキルを開発する事を始めた。
困難は分割せよとよく言ったものだが、まず困難を分割するという作業に才能がないものもいるのだ。幸運なことにそれが私には合ったのだ。ただそれだけで私は数多の天才たちと陳腐な才能しかないながらも渡り歩いてきたのだ。
今回の場合は以下の通りになる。
アルティメットスキルを四つ手に入れるためにできる事を考えるのが第一段階。
オリジナルスキルを開発、転移系と悪魔への攻撃手段として精神干渉系のスキルを開発し、すぐに慣れるのが二段階。
次にアルティメットスキル 唯我独尊を手に入れ、それが三段階目。方法は大量のスキルとの等価交換。また、そのスキルは二度と取得できなくなるが、織守にとって必須スキルと考えられるスキルはそう多くはないためこれも問題はない。
次に物理干渉系のスキルを開発して、地獄に突撃する。
地獄の攻略法は空間ごと、精神体すらも逃さず切断。やばくなったら転移で逃げるを繰り返す。もしくは一度で確実に攻略できるように対策をすることで、可能な限り安全に地獄を攻略するのだ。
そして最後に、最下層でルシファーを打ち倒し、アルティメットスキル絶対信者を手に入れる。それを倒せば、そのまま神滅理剣オルネイティアを引き抜くことで、アルティメットスキルを手に入れることができるだろつ。スキルを入手できない可能性を順番に考慮し、力技で引き抜くことができなければ氷ごと空間を切り取り持ち帰る。おそらくだがこれでもスキルの取得はできる。
また、輝夜と接触し、アルティメットスキル運命覇者を手に入れるのも、織守の役目だ。輝夜姫は世界の管理者の一人であり、出鱈目に強い。世界の管理者でもあり、人工的に作られたダンジョンを攻略して、その最下層で出会えばアルティメットスキルを手に入れられるらしい。人工ダンジョンにはクリアボーナス的なものがないためその代用なのだそうだ。この人工ダンジョンというものに地獄も当てはまるため、織守は地獄を攻略すれば三つのアルティメットスキルを手に入れられることになる。地獄はそれほどまでに難易度が高く、重要な場所なのだ。
これらの計画を書き出して思ったが三ヶ月では流石に無理そうだ。五ヶ月でもすれすれだろう。そもそも、輝夜は一年に一度しか、そのダンジョンには訪れないため、七月である五ヶ月後にダンジョンに逃散することは既に決まっている。
これらの計画の実行は睡眠時間が短くなっていなければまず無理な芸当だが、多少無理をしてでもやらねばならないと誰よりも理解しているのは自分だろう。
スキルの開発、まず俺が編み出すスキルは空間干渉と精神干渉系のスキルだ。名前はもう決めた。精神干渉系が 統 空間干渉系が 綻 だ。
今は色々とあるが精神統一とバミューダトライアングルで一時期騒がれた空間の綻という言葉からそれぞれとった。
理論についてだが綻は数学者の方が適したスキルを作ってくれるであろうが、これは絶対に俺が取らなければいけない。そうして俺は苦手な幾何学的な数学に頭を悩ませ始めた。自分がプロセスを完全に理解していないとスキルを作成できないのだ。
考え始めて十九時間、ついに空間という概念において自分の納得する理論を組み立て、それを実行するためのプロセスを組み立て終えた。
虚数世界という、この世界の影のような存在に自分を送り、その中を高速移動、そうしてその世界から脱出する。こうする事で擬似的な瞬間移動が可能となる。問題なのはその世界が余剰次元であり、その世界を四次元の世界にリンクさせながら、自分が望んだ結果を得るということが非常に難しいという事だ。虚数世界では時間が流れない。いや、あらゆる方向に流れるため、向こうでいくら動いたとしてもこちらの世界では時間が流れていないため、どれだけゆっくり動こうが、こちらの世界では時間が流れないし、向こうの世界を、空間を軽く傷つけるだけでもこちらの世界では、一瞬でその分のエネルギーが放たれるため、かなりの衝撃になる。そして、虚数空間ではこちらの人間存在しないが、座標としての情報は存在する。そのためある程度ならば空間干渉を目的としているこのスキルが精神への攻撃、及び治癒を行う際にも使えるのだ。これ以外にも大量に瞬間移動の方法は(異世界ならではの方法ではあるが)思いついた。しかし、それでは本当に最低限のスキルしか作ることができずどうしても納得がいかなかったのだ。そのため彼はこれから数時間悩む。
一応のスキルが完成したのはスキル作成開始から十九時間が経った頃だった。まだスキルを作成してから一度しか試してはいないが、なんとかなるだろう。寝たい。なんて甘いことは言わない。いや、言えない。十九時間無休で考えまくった体に鞭を打ち俺はそれが、オリジナルスキルとして体に慣れるために実験を繰り返した。
さらにそれから、六時間ほどでおおよその使い方をマスターし、次に統についての理論を組み立てる。しかし、実を言えば統の理論はほぼ完成しているのだ。最後に必要な能力を付け足していくだけで良い。
それから八時間ほどで統は完成した。能力は精神をいじることができるというもの。綻との相性が非常にいいものであるし、これを使うとスキルについての微調整ができる。というのも、スキルは精神と密接な関係にありスキルは精神の一部なのである。そのスキル、つまり精神を虚数世界から統を使って弄ればスキルをある程度調整できるのだ。無論、精神破壊や洗脳も含めて万能である。ただし、精神を操るということは相手の思考を操るという意味では無い。そして、思考が読めるわけでも無い。
しかし、このスキルの真骨頂はそこではない。このスキルは自分の精神を操ることができるのだ。それ即ち、スキルの複合ができるということなのだ。虚数空間である六次元から空間を傷つけるなどの攻撃方法ではなく物理攻撃スキルと統を結びつけることで精神世界からの物理攻撃を可能とするのだ。例を出すなら、精神干渉で相手の腕を切り落としたという情報を与えた場合、実際にその腕が切れる。
俺が一対一戦闘特化になるためにはスキルもそれに合わせる必要がある。戦争と同じ理論で発明が進む。戦争は発明の親とはよく言った物である。
さて、開始から約三十三時間が経ちもう地獄に行くためのスキルはほぼ全て習得した。
いらないスキルなど、暇な時間に覚えていたことが功を奏し、大量の精神エネルギーと引き換えに俺はアルティメットスキル、唯我独尊を手に入れたが、精神的なダメージが大きすぎてその場で倒れてしまったことはなんとも情けないことだ。唯我独尊を手に入れるために失ったスキルの数は五十四、これらのスキルは二度と手に入れることができない。そのため、スキル取得と同時に開始しようと考えていたスキルの概要や能力などの調査は後々やっていくしかない。
それから俺が目覚めたのは約十時間後だった。
この世界に来て体が変化して一日の睡眠時間は三時間ほどで合ったが精神の回復には多大な時間を要したようだ。
前の世界では睡眠についての仮説が色々と合っり、基本的には精神の回復という説が最も濃厚であったが、思わぬ形でその確認ができたといえる。
これで地獄に挑戦するだけのスキルはある程度揃ったのだが、流石に経験を積まず、スキルに不慣れな状態で地獄に挑むほど馬鹿ではない。
俺はスキルになれるため俺は屋敷の外に出る。後になって分かったことだが、俺たちが召喚されたあの山も含めて世界の管理者の土地であり、モンスターの類は出てこないようだ。そのため榛恃は山から外れ他の山に向かった。
このあたりの山は聖域と呼ばれ、周りに人間も近寄らない。そのため弱肉強食が進み飛竜なども住み着いているらしいが、その飛龍は平和ボケしているらしい。自分より格上と戦ったことがないのだろう。
(まぁ、俺なんて格上も格下とも戦ったことなんてないがな)
心の中で洒落を言ってみる。最近、過剰ストレス下で生活していたこともあり、鬱気味なのだ。そのため、独り言が多い。
とりあえず、今日の目標を飛龍と定めなおす。居場所はすでに分かっているため大した時間もかからないだろう。
道中、オリジナルスキルでは完全にオーバーキルになるであろう生物に対してそれを使い、肉片すら残さずに葬った生物が多数いたのは申し訳ないとは思った。反省はしていない。
そして、目標の飛竜だがこいつも含めてアルティメットスキル、綻を使って空間ごと叩き切れば済んでしまうが、今回はそうはしない。統を使い精神体との戦いの訓練をする。
飛龍は寝ていた。
初撃、精神体への一撃、具現化した片手剣の頭身のものような形をした物体が相手の精神を斬り付ける。ただそれだけで飛竜は転げ回り発狂し出したが、真っ二つに断ち切ることはできなかった。
しかし反撃の心配はない。完全に狂っているこいつが正常な攻撃はでからしないし、精神攻撃ができない時点で虚数世界に篭っていればダメージは受けない。しかし、この世界に存在できる時間は百三十三秒、クールタイムは十二秒、今回の場合は何も問題ないが悪魔系のモンスターとの戦いでは注意しなければいけないだろう。
かくして、二撃目、精神を叩き切るような大振りをやめ、円周運動を意識して精神を切り話す。精神と身体が切り離された飛龍が動くことはもうない。
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