地震
深夜だったんだけど、
『ドンドンドンドン・・・』
まるで地の底から太鼓を打ち鳴らすような音がして、部屋が揺れた揺れた。エミもベッドから転げ落ちちゃった。部屋だけじゃなくて、
『メリメリメリ・・・』
柱や壁や天井が、
「エミ、だいじょうぶか」
お父ちゃんが慌てて飛んできてくれた。エミの腰は半分ぐらい抜けてたんだけど。お父ちゃんに抱えてもらうように家の外に。お母ちゃんもいて、二人で抱き合ってた。お母ちゃんも無事でよかった。
お父ちゃんは家に戻って、ガスの元栓やら、電機のブレーカーを落としに行ったみたいで、戻ってくると、
「火が出たらしまいやからな」
なんか家が傾いてる気がする。真っ暗だったけど、
「厩舎に行くで」
「だいじょうぶ?」
「広次郎が建てたもんや。あれぐらいで潰れるか!」
そこから何度も余震がって、震えながら朝を待ってた。夜が明けると厩舎は無事だったんだけど母屋が、
「さすがは広次郎や。レストランの厨房のとこがしっかりしてたから、なんとか潰れんかったみたいや」
母屋は傾いて倒れそうなんだけど、レストランの厨房のところに寄りかかるようになんとか立ってた。
「お父ちゃん・・・」
「心配するな。生きてりゃ、なんとかなる」
お父ちゃんは頼もしかった。エミもお母ちゃんも、動揺しまくりだったんだけど、笑いながら励まし続けてくれたんだ。緊張でガチガチだったんだけど、お父ちゃんは何度も傾いた家の中に入って服とか、とりあえず食べれそうなものを厩舎に運び込んでた。
「オレは厩舎に住む。お母ちゃんとエミは避難所に行け」
馬を放っておけないのはわかるけど、
「私も厩舎に住みます」
「アホ言うな。エミだけ避難所に行かせてどうするんや」
「エミも残る」
そんな押し問答をしてる真っ最中に、トラックとバンがやってきて。
「兄貴、無事やったか」
「当たり前や、あんなもんで死ぬかい」
広次郎叔父ちゃんが来てくれたんだけど、
「母屋はアウトやな」
「見ての通りや」
「だからオレが作るって言うたやろ」
「さすがに後悔しとるわ」
広次郎さんは職人さんも一緒に来てて、
「姉さんとエミちゃんはうちに来てもらうで」
「悪いけど頼むは」
「兄貴は厩舎に住むつもりやろけど、ちょっとだけマシにしとくわ」
広次郎叔父ちゃんは厩舎に隣接するように仮設テントを作ってくれて。
「今日はこれぐらいで凌いでや」
「おう、これだけあったら十分や」
エミとお母ちゃんは渋ったけど広次郎叔父ちゃんの家に避難することになったんだ。さすがに広次郎叔父ちゃんの家に着いたらグッタリだった。それにしても、これからどうなっちゃうんだろ。
お父ちゃんの夢の城が潰れちゃったんだよ。やっと軌道に乗ってくれてた乗馬クラブも、レストランもこれで、これで・・・そしたらお母ちゃんが、
「エミ、お父ちゃんを舐めたらダメよ。これぐらいの苦しいことは何度もあったけど、お父ちゃんは全部乗り越えて来たのよ。今回だって心配しなくても良いわ。あの人なら、あの人ならだいじょうぶ」
そう言いながらエミの手を力いっぱい握ってくれたけど震えてた。お母ちゃんも心配なんだろうけど、必死で不安を押し殺そうとしてるのが伝わってきた気がする。その後も余震は来るし、広次郎叔父ちゃんの家も停電してるしで。落ち着かない時間を過ごしてた。
工務店の方は忙しそうだった。自分が建てた家を急いで見て回り、応急修理が必要な家には出来るだけ急いで対応してるみたい。
「大きな被害が出た家はないで。そやけど、小さいのはさすがにな。兄貴のところも早くなんとかしたいんやけど・・・」
そう、うちは全壊だもんね。応急修理も何もないのよね。建て替えになっちゃうんだろうけど。
「そんな不安そうな顔せんといて。家はちゃんと建てたるで。なあ、康三郎」
「そやそや、エミちゃんの家やから、職人たちが勝手に建てよるで」
電気が復旧してくれて、情報が入り始めたんだけど、震源地はクラブの近くで良さそう。被害が大きかったのもクラブのあたりが中心で、トータルではさほどじゃなかったみたいだけど、お母ちゃんが、
「どうしてうちばっかり・・・」
言いたい気持ちはよくわかったけど、天災だからしょうがないもね。初音叔母ちゃんがお母ちゃんを一生懸命慰めてくれてた。
「エミちゃん、しばらく住んでてね。家はすぐには建てられないからね」
広次郎叔父ちゃんは何度もクラブに行って、あれこれ必要なものを母屋から引っ張り出して運び出してくれたんだ。その中にはあの金杯もあった。
「これ借りものやから壊れんで良かったわ。兄貴もホッとしとった」
いつまでも休んでられないから学校にも行ったけど、みんな心配してくれてた。当面エミは広次郎叔父ちゃんのところに住むことになり、お母ちゃんはクラブに通う事になったんだ。
「兄貴のこういう時の馬力はいつもながら感心するわ。怪しげな仮事務所作って、営業再開してるで」
お母ちゃんもテントでレストラン再開するっていうて頑張ってるみたい。そんな最中に、広次郎叔父ちゃんが興奮して帰って来て、
「えらいもんが出てきた」
「埋蔵金とか?」
「ある意味、それ以上や」
「モスラとかラドンとか?」
「そんなもん出てきたら、兄貴でも尻尾巻いて逃げるわ」
なにが出たって言うんだろ。
「温泉や!」
「どこから?」
「水も出んかった井戸からや」
あんなところから温泉が。お母ちゃんも帰って来て、
「お母ちゃんもビックリした。突然って感じで噴き出したのよ。熱いし間違いなく温泉よ。お父ちゃんも喜んじゃって、家からバスタブ引っ張り出して入ってたわよ」
康三郎叔父ちゃんは地震の影響で水脈が変わったんだろうって。かもね。あそこはかつて泡泉寺があって、温泉が湧きでたって話があったもの。あれが突然枯れたのも地震の影響だったかもしれないもの。
「お母ちゃんどうなるの」
「復活の湯気よ」
狼煙じゃないかと思ったけど、出てるのは温泉で立ち込めてるのは湯気だものね。
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