恋愛談義
例の三人の中で一番早く入会したのはシノブさんで、伊集院さんに連れられて来てたから、てっきり恋人同士だと思ってたんだけど、どうもちょっと違ったみたい。
「そうなりたかったんだけど、ライバルがいてね」
団体戦の前にしばらく来なかったのは失恋のショックで落ち込んでたからって。それにしてもシノブさんが振られるなんて信じられないよ。
「そうでもないわよ。相手は愛梨だったし」
「愛梨って、あの神崎愛梨?」
「そう」
たしかに神崎愛梨は美人だけど、プライドがやたら高そうで、高慢で冷たそうな人じゃないの。
「そう見えるでしょ。でも、伊集院さんの前では全然違うんだ。もう、過剰なんてものじゃない尽くし型だよ。聞かされるこっちがたまんないよ。愛梨には勝てないと思っちゃった」
「それってツンデレ」
「そうかもね。とにかく初心なんてレベルじゃない特別天然記念物級だからね」
どうにも印象と合わないけど、シノブさんがそういうから正しいのだろうな。それでもだよ、大人の恋はわかんないな。シノブさんだよ、こんなに綺麗で、素敵で、親切で、優しい人なのに失恋しちゃうんだものね。
「これからエミちゃんも体験するかもね。失恋もまた恋の内よ。世の中、一度で成功する時もあるけど、そうもいかない事も多いのよ。失敗は恋に限らず辛いけど、その失敗を次に活かせるかどうかが人生だと思ってるの」
そこにコトリさんもやってきて恋愛談義で盛り上がっちゃったんだけど、思い切って相談してみたんだ。あのピクニックの時からセレクト・ファイブをどうしようと悩んでるって。そしたら、
「羨ましい限りやで、残りを回してえな」
「シノブにも」
これはサヨコにもせっつかれてるのよね。
「それにしても五人の求婚者ってかぐや姫みたいやな」
「そうですね、エミさんは、シンデレラでもありかぐや姫でもあり」
求婚者じゃないんだけど、状況的には似てない事もないか。そういえば、かぐや姫は五人の求婚者は気に入ってなかったものね。なんか難題吹っかけて追い払う話だったはず。
「そうや、五人の求婚者の次は帝や。それさえ退けて、月に帰ってまうねんけどな」
エミは月に帰る必要はないけど、かぐや姫は最後の帝の求婚には心が動いていたはず。でもそれ以上に月に帰る使命が重かったぐらいかな。コトリさんが言うには、かぐや姫って当時の政治風刺も込められてるんだって。五人は奈良時代の実在の人物を当てはめてるそうだけど、実際は当時の権力者だってさ。
「色んな解釈があるけど、帝かって藤原氏の娘の息子やんか。だから帝でさえ振る話にしたんやとコトリは考えてるけどな」
そうそう竹取物語は日本最古の創作物語ってなってるけど、浦島太郎の方が古いんじゃないかって言ったら、あれは当時はノン・フィクションとされてたって聞いてビックリした。
「それにまつわるオモロイ話もあるけど、また機会があったら教えるわ」
コトリさんの歴史の話も面白いけど、今は恋愛談義。エミだって恋をしたいけど、あの五人から選んで付き合うのはどこか違う気がしてるんだ。そりゃ、あの五人は学園のアイドルみたいなものだし、誰かと付き合っただけで羨ましがられるだろうけど、なんでだろう。
「贅沢な悩みやな。でもそれが正解かもしれへんで。人を恋するって、相手の何を見て恋するかやねん。顔とか、背の高さとか、スタイルとか、社会人やったら年収なんかもある」
なにか物買ってるみたい。
「そういうこっちゃ。そういう恋もあるけど、本当の恋はちゃうと思うで。何を見るのが本当の正解か勉強するのも恋の内や。それを勉強するために五人と付き合ってみるのもヨシ、今はやめとくのもヨシや」
本当の恋って、
「見本と住んでるやろ。あんな恋になりたいと思わへんか。コトリなんか羨ましくて仕方ないで」
「シノブもよ。最高の恋の一つと思うよ」
お父ちゃんとお母ちゃんか! エミの親だけど、二人は夫婦、いやそれ以前に恋人か。あれだけラブラブがいつまでも出来るのが本当の恋なんだ。エミもああなりたい。でもどうやって見つけたら・・・
「それを見つけ出すのが恋の楽しみや」
「そうよ、焦る事はないよ。エミちゃんにも必ず現れるよ。アドバイスとしたら、見つけたら迷わず捕まえること」
「そやそや、ここに捕まえ損なった見本が座っとる」
「コトリ先輩!」
エミも可愛いらしいそうだけど、コトリさんやシノブさんになるとサヨコが言う通り、人じゃなくて女神じゃないかと思うほど綺麗だし、素敵。これだけ魅力的なシノブさんでも失恋するし、コトリさんだって、ユッキーさんだって独身だし、恋人さえいないというのは驚き。
そうだよね。お母ちゃんがお父ちゃんを選んだ理由は複雑だけど、少なくとも顔やスタイルじゃないものね。財産でも、地位や教養でもない。お父ちゃんの心に惚れたのかもしれない。でもさぁ、出来たら心と姿もイイのが出て来ないかな。
「エエ恋しいや」
「シノブも楽しみにしてる」
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