第3話 開幕 ラヴ・ウォーズ

さて、制服に着替え私も出掛けないとね、コモン、ノーブルの方達の登校がほぼ終わり、私達ロイヤルからも寮を出て行く姿がチラホラ見え始める。


 普段の登校はそこまでではないが、式典があるときは、身分の高いものが最後に登校する、暗黙の了解だ。


 入学式が始まり、学園長の挨拶、歓迎の言葉、新入生代表の挨拶と順調に進んで行く、王太子のアルファード様が壇上に登ると、ひそひそと抑えた声が聞こえる。


 まあね、王太子というだけで注目されるし、見た目は申し分なし、艶やかな金髪、サファイアの瞳、長身で爽やかな事この上無い。


 わざとらしいくらい白い歯を見せてにっこりと微笑めば、たいていの事は笑ってすまされそうだ。


 なので、せいぜい笑顔を振りまき、お嬢様達を釘付けにして下さい。

 スマイル0円、コスパよし。


 流石に3回もループしてると、だいたいの性格も掴めてくる。


 アルファード様はお勉強は出来るが、人の悪意に疎いのだ。

 要するに騙されやすいというか、お子ちゃま仕様でしかないのだが、本人に悪気はない。


 だが、そうは言っても私は初回、カルーアの言うことを真に受けたアルファード様のせいで、死刑にされるところだったので、どうしても、やや冷めた見方になってしまうのは仕方がないのですわ、どうかお許してください。


 新入生代表の挨拶が終わり、一礼すると拍手が沸き起こり、アルファード様が壇上から……、降りない?


「本来、このような場で申し上げるべきではないとわかってはおりますが、少しだけお時間をいただきたい。」


 そう言って、壇上から先生方がいらっしゃる場所を見渡している。いかに新入生とはいえ、この国の王太子なので、校長も頷き、アルファード様の言葉が続く。


「先生方、ありがとうございます、お時間をいただき感謝いたします、早速ですが、シェリー、こちらに来ていただけますか?」


 にっこりと、極上の笑顔で私を呼んでいる、……なんで?


 こんなイベントなかったはず、どのルートでも入学式は無事に終わり、その後、寮に向かう途中でヒロイン、カルーアとの出会いイベントがあり、そこから物語は始まっていくはず。


 驚いて固まってしまい、椅子から動けずにいた私の目の前に、壇上から降りてきたアルファード様が手を差し出していた。


 反射的に、重ねた手を支えられそのまま立ち上がる。私の顔を覗き込み、いたずらっ子のように笑う。その顔を見て思う。

 

 イケメンオーラが半端ないな、もし私もループを繰り返していなければ、クラッとしそうだよ。

 そうして再び王子は壇上に戻り、全校生徒の前に私と並んで立つ。


 全員の目が注がれ、初回の断罪イベントを思い出し、ひゅっと息が詰まる、あの時もこうして、皆の前に私を立たせて、身に覚えのない罪をきせられ、私の言葉は誰にも届かなかったのだ。


 少し強張った顔をしていたのかもしれない、あまりにも突然で取り繕うことなど出来なかったし、震えだしそうな体を押さえつけるので精一杯だった。


「私と同じ新入生のシェリー・ハロウィン嬢、私とシェリーは内々に婚約の約束を交わしている、卒業と同時に結婚する予定だ 」


 なにそれ、聞いてませんけど……、


 ……いやいや、婚約してるのはもちろん、分かっておりますよ、でも、結婚の予定? ないでしょう、そんなもの。


 出来れば、ヒロインと無事に結ばれて、私は、静かにフェードアウト。


 あっ、別にヒロインと結ばれなくてもいいんだけどね、私が安泰だったら、私が無事に卒業すること。それが一番だからさ。


 ざわざわとしてはいるが、王太子アルファード様と私の婚約は貴族社会では、暗黙の了解、それほどの驚きは無い。


「だが、彼女はこの通りの美貌で、優しく、気品にあふれ、この国の頭脳とも言われる宰相の血を引き、才色兼備の誉も高い、」


 誰ですか? そんな素敵なお嬢様は、貴方の口から才色兼備なんて初めて聞きましたけど、良くそんな言葉を知ってましたね? 


 あー、お勉強は優秀でしたっけ、どうもすみません。    


 もしや、菜食健美ってこっちのことでしたか?   

 野菜を食べて健康に!  納得です。


 私の内面は置き去りにされたまま、演説は続く。


「そんな、彼女に憧れを抱くものがいても何もおかしくない、名前は伏せるが私も知っている。私はそんな彼らと競い合い、卒業時には正々堂々と私を選んでもらいたいと思っている。

 彼女にふさわしい男でありたいと。もちろん、彼女が別のものを選んだ時には、潔く身を引くことをここに誓う。」


 えーと、要するに、私に別の誰かを選ばせて、自分は他の女とエンジョイするぞってことであってます?


 婚約者がいながら、他の女を身籠らせて、婚約破棄するより、貴方の好感度は上がりますよね。



 このルートかなり、手強いよね。

 そうだよね、忘れてたけど私は悪役令嬢。

 プレイヤーでもヒロインでもないので、攻略ルートを選ぶ権利はないんだよね。

 プレイヤーの名誉をかけて、受けて立つから。

 《ハロウィンナイト》のシェリー・ハロウィン。


 タイトルネームの名に賭けて、負けられないんだからね、命かかってるし!


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