第151話 世界最強の嫁

残り僅かだった嫁さんのマナと牡丹の魔王としてのマナが奪われた。愛する妻子から力を奪われ、それを手に入れた暗躍者ヴェスパには逃走されてしまった。


一人の男として、これほど情けなく、そして激しく憤ることはない。


しかし、最悪な状況はさらに続く。


魔王の側近ピクテスの隠された能力。自分の死を引き金として、死んでいる仲間のモンスター、魔獣、そして魔族をゾンビ化し、人間を襲わせるというのだ。それをヴェスパに殺害されることで強制的に発動させられ、ピクテスもゾンビ化している。


ここまで絶望的な事態は、今まで経験したことがなかった。


動けないベイローレルを守るように4人の部隊長と5人の親衛隊は彼を囲んで陣形を整えた。さらに”幻影邪剣”カツラも近くにいたため、そこに参加する。


距離が離れている僕たち一家は、孤立状態にあった。


希望と言えば、ガッルスの治療が完了したことだけである。復元できた心臓に電気ショックと心臓マッサージを魔法操作で行うと、心拍と呼吸が再開された。我ながら、だいぶ手慣れたものだ。


だが、問題は、今すぐ周囲の魔獣ゾンビと魔族ゾンビに対処しなければならないことだ。僕は宝珠システムで近くに接近した魔獣ゾンビを攻撃した。


ところが、たとえ足を斬っても、残りの足で引き摺るように接近してくる。まさにゾンビ状態で、原形を留めないほどにダメージを与えなければ、動きを止めないようだ。


「まいったな……1体1体にこれをやってたら、キリがないぞ……」


根本的解決を図るため、僕は宝珠システムで、ゾンビが動く仕組みを解析した。ピクテスの能力は、脳内で高速計算ができることのようだったが、これはその応用だ。


火の精霊魔法により、彼は電気信号を操って、脳内の神経細胞ニューロンの伝達を補う役割を果たし、高速計算を可能にしていた。


今のピクテスの魔法は、周囲の魔獣や魔族に電気信号プログラムのようなものを送り、特定の目的に従って筋肉を動かしているのだ。人間を襲うことだけを目的とした機械人形のように。


さらにマッピングとレーダー機能で、ゾンビ魔法の効果範囲を解析した。


なんと、魔城全体にまで、魔法は行き届いている。魔獣と戦闘中だった各部隊は、あらかた魔獣を撃破したようで戦勝ムードになっていたが、そこに魔獣の死体が無敵状態で起き上がったため、阿鼻叫喚の様相を呈していた。


シャクヤたちは、第一部隊に第六部隊が合流し、魔獣を討伐しきった時点で階段を使って城の外に避難していた。ところが、城の付近の魔獣まで起き上がった。ギリギリで範囲内なのだ。


このままではシャクヤたちも危ない。

すぐに対処しなければ。


僕は、魔法を解除できるベイローレルを見た。しかし、彼は手足を骨折して、身動きできないのだ。今も騎士団とカツラに守られ、恐縮している。


「みなさん、すみません。魔法効果なら、僕が戦えれば解除できるのに……」


「いや、いいのだ。我々は大事なところで何もできなかった。そなたはそこで休んでいてくれ」


第五部隊の部隊長ライラックが、彼を励ましている。


今、この問題に対応できるのは僕しかいないのだ。


しかし、解析結果は、さらに暗澹たる事実を知らせる。ピクテスの電気信号魔法は、本人の死せる脳が発生源になっていた。それを頭部ごと持ち去ったのはヴェスパだ。宝珠システムによる遠隔魔法攻撃をしても、魔王以上の力を手に入れたヴェスパに防がれてしまっては意味が無い。


僕は己の無力を痛感した。

すると、この時、嫁さんが僕の胸に力強く抱きついてきた。


「蓮くん……蓮くん……」


「ど……どうしたの、百合ちゃん」


「こうしたら、またマナが回復するかな、と思って……」


「いや、あの時は夫婦喧嘩のストレスで失ってしまったマナを取り戻しただけだ。純粋に消費してしまったマナが戻ってくることはないでしょ」


「でも、やってみないとわからないよ……」


「しょうがないなぁ……君が力を取り戻せるなら、何でもするよ」


「うん。頑張る……」


何をどう頑張るのかは知らないが、嫁さんに希望を託し、彼女を抱きしめながら、僕は周辺の魔獣を食い止めることに全力を注いだ。


急所を狙っても動きを止めない魔獣ゾンビには、1体1体に高火力の魔法を叩き込んで、肉体全体を破壊する以外にない。


しかも、どういうわけか、ホールの魔獣ゾンビは、ほとんどがベイローレルたちを無視し、僕たちを優先して襲い掛かってきた。ピクテスの執念なのか、僕たち一家のもとに全ての攻撃を集中させるつもりらしい。これではキリが無さすぎる。


「どう?百合ちゃん、少しは元気出た?」


「あ……あははははは……ごめん……今回はダメみたい…………」


力なく笑う嫁さん。

元気そうに振舞っているが、顔は青ざめている。

この世界に来て以来、彼女のこんな状態は見たことがない。


焦燥感に駆られる僕。


しかも、ここで僕は不思議な光景を目の当たりにした。首なし死体だったティグリスとトリュポクシル、そしてイグニアが、自分の頭を拾い上げ、首に乗せたのだ。魔獣と違い、理性的な動きを可能としているのだろうか。


そして、さらに驚きの事実が判明した。

イグニアが姿を消したのだ。

彼の保護色で透明になる能力である。


魔族の場合、死体であっても脳が繋がっていれば、魔法能力まで発動できるのだ。


八部衆の死体は、それぞれがこちらに向かって歩いてくる。


彼らが能力まで使用して一度に襲い掛かってくれば、僕の宝珠システムでも対処しきれない。


「マズい……マズいぞ……このままでは…………」


僕の心に動揺が走った。

想像以上に絶望的な状況だ。

こういう時に愛する妻子を守れなくて何が男なんだ、と悔しくなってくる。


嫁さんを抱きかかえる腕にいっそう力がこもった。

すると、ここで突然、僕の胸元から元気な声が聞こえた。


「パパ!」


「……え?」


見ると、グッタリしていたはずの牡丹が、笑顔で僕にしがみついていたのだ。


「牡丹!元気になったのか?」


「パパ!パパ!パパ!!」


周囲の絶望など気にもせず無邪気に喜んでいる牡丹。

僕は頭の中を整理した。


嫁さんが、牡丹を抱えたまま僕に抱きついてきたため、僕は牡丹ごと嫁さんを抱きしめていた。それに気づいた牡丹は、僕に抱っこされたと思い、マナを回復するほどテンションが上がってしまったのだ。


彼女は、これまでの人生において、父親に甘えるという経験を一度もしたことがなかった。その夢が今、叶ったことで、潜在的に溜まっていたストレスが解消され、少しばかりだがマナが回復したのだ。父親としてこれほど嬉しいことはない。


「牡丹!周りのヤツらをぶっとばしてくれ!」


僕は自分の娘にとんでもないことを頼んだ。


「うん!」


元気いっぱいに返事をした牡丹は、それをいとも容易く実現してしまった。魔獣の群れが、僕たちを中心にして外側へ、一斉に吹っ飛んだ。


そうなのだ。

ウチの娘は魔王なのだ。


そして、これを見た嫁さんが、明るい声を出した。


「よかった!牡丹!元気になったんだね!」


「ママ!」


僕にガッツリ抱きついていた牡丹が、今度は嫁さんに飛びついた。


「牡丹……」


「ママぁ……」


牡丹が元気を取り戻したことにより、嫁さんの声にまで活気が戻っている。

二人は数秒間、夢中で抱き合った。

すると――


「んん……んんん…………んんんんんんんっ!みなぎってきたぁ!!!!」


突如として、嫁さんが勢いよく立ち上がった。

彼女は牡丹を高々と持ち上げ、明るい声で言った。


「牡丹!ちょっと待っててね!あなたにひどいことしたヤツらを全部、とっちめてくるから!」


なんということだろう。

これが、母となった女性の底力というものか。


ウチの嫁さんは、グッタリしていた娘が元気になったことで、マナを回復させるほどの気力を自ら引っ張り出したのだ。


そのまま牡丹を僕に渡してきたので、受け取った。

その瞬間、僕の目の前から姿を消す嫁さん。


周辺には、5人の魔族の死体が、既に迫っていた。


ティグリスが【復讐戦闘リベンジマッチ】で自己強化を、トリュポクシルが【切腹全解放ハラキリ・ティストネーション】で大爆発を、そしてイグニアが透明化を施し、同時に襲い掛かる。


カエノフィディアの本体の蛇は、既に死亡していた勇者親衛隊に噛みつき、その遺体を魔族化させて突撃してきた。さらには、ピクテスの首なし死体が、火の上位魔法を撃とうとしている。


ところが、それら5人の魔族ゾンビは、嫁さんが消えた瞬間に次々と吹っ飛ばされた。


トリュポクシルのみは上方へ、他はベイローレルたちを囲んでいる魔獣に向かって飛び、それらを蹴散らした。


城の外まで吹っ飛んでいったトリュポクシルは、上空で大爆発を起こした。


「ちょっと申し訳ないけど!もう死んでるから、痛くはないわよね!!!」


それだけ言った嫁さんは、自分も跳躍してヴェスパを追おうとする。

僕は一つだけ叫んで教えた。


「百合ちゃん!ピクテスの脳を潰せ!!」


「りょ!」


嫁さんは、その場から消え去るように跳躍していった。




一方、僕たちを置き去りにして逃走したヴェスパは、どこに向かったのか。彼は城の上に飛び上がった直後から、まだそこを動いていなかった。


「ヒャッヒャッヒャッ!これでオレは自由だ!何もかも思いどおりなんだ!!……とは言ったものの、ここを去る前に勇者とデルフィニウムの死体は確認しておかなきゃ安心できないな。下が片付くまで、腕試しでもしておくか……」


そう言いながら、城を囲むように森に配置されている連合軍の陣営を見た。そして、ニヤニヤしながら呟く。


「魔王の力を手に入れたオレにも最上位魔法が使えるはずだ。オレの契約精霊は地だから、【土石災厄デブリス・ディザスター】だ。イッヒッヒッヒ……どんな威力なんだろうなぁーー」


新しく手に入れたオモチャで遊ぶかのように、笑いながら彼は魔法を発動した。


すると、第三部隊の陣営のあった場所が、突然、地面ごと上に吹っ飛び、舞い上がった土砂に人々が埋もれてしまった。待機中のメンバーは少なかったが、それでも10名ほどの騎士とハンターがこの一撃で死亡した。


「アッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!一発でこれか!これが最上位魔法か!!今の場所は、あまり人間がいなかったから面白くなかったが、これを分身して発動したら、どうなるんだ?」


既にレベルが63にまで上昇し、大魔王クラスにまで進化したヴェスパが分身を出した。強化され、膨張した肉体は、体長7メートルになっている。その分身が、30体も出現した。


城の上空に出現した、その異様な光景は、城の外で魔獣ゾンビに囲まれそうになっているシャクヤたちの目にもハッキリと捉えられた。


ダチュラが、恐怖して叫ぶ。


「なっ!何あれ!?」


「あ!あれは!……まさか!まさか大魔王でございますか!?」


倒しても倒しきれないゾンビに囲まれ、絶望感を抱いていたところに、さらに突き落とされた、どん底。さすがのシャクヤも、この時ばかりは諦めの心が芽生えたという。


「レ……レン様……ユリカお姉様…………」


城の上のヴェスパは、高らかに笑いながら、次の標的を決めた。


「すげぇ!すげぇすげぇすげぇ!!こんだけ分身がいて、一斉に最上位魔法を撃ったら、どうなるんだ!?王都くらいの都市だって、まるごと吹き飛ばせるんじゃねぇのか!?ギャッハハハハハハハハ!!こいつを城にぶち込めば、城ごと崩壊して、全員お陀仏じゃねぇかよ!!ちょうどいい!全員、まとめてぶち殺してやるぜ!!!」


ヴェスパが下に向かって最上位魔法を発動しようとする。

ところが、その瞬間、城に開いた穴から何かが飛び出した。


「えっ」


嫁さんが跳ね上げたトリュポクシルの死体である。【切腹全解放ハラキリ・ティストネーション】の発動が完了しているその遺体が、ヴェスパの前で大爆発を起こした。


ドッッゴオオオオォォォォンンッッッ!!!!!!!


最上位魔法を超えるような勢いの爆炎が、ヴェスパを襲った。すんでのところで、分身を前に出したヴェスパは、なんとか無傷で済ませることができたが、分身の1体は大火傷を負って消滅した。


「ト!トリュポクシルか!何やってんだよ!危うく怪我するとこだったじゃねぇか!!死んでも使えねぇ野郎だなぁ!!」


悪態をついているうちに爆発の煙が晴れる。

すると、すぐ目の前、城の屋根の上にウチの嫁さんが立っていた。


「えっ!勇者!?」


驚くヴェスパは、さらに彼女の手にピクテスの頭部があるのを目にした。


「あれ!いつの間に!?」


僕からの助言どおり、嫁さんは第一にピクテスの頭部をヴェスパから奪ってくれたのだ。


彼女は、黙ってピクテスの頭から手を放し、空中で殴りつけた。ピクテスの頭は、跡形も無く消し飛んでしまった。


「……ごめんね。死体とはいえ、ちょっと残酷だとは思ったけど、魔法を止めるには、これしかないから……」


情け深く、死んでいるピクテスにまで謝る嫁さん。


この瞬間、魔城の内外で猛威を振るっていた魔獣ゾンビと魔族ゾンビが、一斉に動きを止め、ただの死体に戻った。


「お……お前……どうやってここまで?」


ヴェスパが唖然として尋ねた。


「え?ジャンプしてきたんだけど?」


「この高さを?人間が?」


「そんなのは、どうでもいいから、謝りなさいよ。”ハチくん”!」


「は?」


「あなたが、今までどれだけの人たちを裏切り、迷惑を掛けてきたか。そして、ウチの娘に手を出したこと、心から謝るまで、許さないからね!」


嫁さんの言い分にヴェスパは、キョトンとした。

彼女の言葉をあまりにも場違いだと感じたようだ。


「ヒッヒヒヒヒヒヒヒヒ……ヒャッヒャッヒャッ!!!なぁーーんなんだ!あんた!オレは魔王になったんだぜ!!普通、こういう時、勇者ってのはよ!もっとカッコつけたセリフを吐いて、立ち向かってくるんじゃねぇのか!あぁっ!?」


「魔王?……あなたが?」


「そうだよ!オレは魔王だ!いや!この体!この力!オレは既にレベル60を超えている!!オレは大魔王になったんだ!!そんなオレが分身を出して、お前を取り囲んでいるんだぜ!大魔王が31人だ!未だかつて、この世界にこれだけのピンチがあったか!?たった一人の勇者が、31人の大魔王相手に何ができるってんだ!もうオレには針を飛ばす必要もない!大魔王の拳で、粉々に砕け散れ!!!」


先程、失った1体を新たに生成し、30体の分身体で嫁さんを包囲するヴェスパ。そのうちの10体が、一斉に嫁さん目掛けて渾身のパンチを繰り出した。


しかし、その刹那、分身10体は、閃光とともに全て消し飛んだ。


「……

………………

………………………え?」


自画自賛しながら吠えていたヴェスパは、急に言葉を失った。


嫁さんを取り囲んだヴェスパの分身体は、彼が広言するとおり、1体1体がレベル63に届いている。とてもではないが、この世界において、これに包囲されて無事でいられる者はいないはずだった。


ウチの嫁さんを除いては。


「…………な……なに…………が……………………」


動揺を隠せないヴェスパに嫁さんは静かに言った。


「今のが見えなかったの?私はただ、分身を1発ずつ殴っただけよ」


「殴った……?殴っただけで大魔王が消し飛ぶわけないだろうが……」


「ほらほら、そういうところ。やっぱり大した子じゃないわね、あなた」


「なんだと!こいつ!!」


「さて、お次は、あなたが謝る番よ」


「っふっざけんじゃねぇよ!人間ごときがぁ!!!」


ヴェスパは、残り20体の分身を全て後ろ向きにし、臀部に付いた針を構えた。


それらを一斉に射出する。


僕たち一家を襲った時とは、さらにスピードも鋭さも増した巨大な針が、嫁さんに同時に襲い掛かった。


ところが――


ドスドスドスッ

 ドスドスドスドスドスドスッ!!!


針は、余すことなく嫁さんの手で打ち返され、撃ち出した分身の臀部に正確に突き刺さった。


敵ながら、あまりにも痛々しい光景だ。

致命傷を負った分身体は、次々と消え失せてしまった。


「オ……オレは……夢を見ているのか…………?」


瞬く間に分身を全て失ったヴェスパ。全身に脂汗をかいて、肝を冷やしている彼は、声を震わせはじめた。


そして、上空に逃げ出した。


「まだだ!まだ最後の切り札がある!!ピクテスのヤツが用意していたアレだ!!!」


高度1000メートルまで上昇したヴェスパは、とある魔法を発動した。それは、死亡したピクテスが、連合軍をハメるために準備していた最後の罠だった。


既に僕が破壊している王都への転移魔法の魔法陣。実はその下に、もう一つの転移魔法が隠されていたのだ。僕の宝珠システムの検索では、二つが重なって表示されたため、見抜くことはできなかった。


それが今、発動された。


転移魔法は、その上方であれば、遠隔で転移させることができるという裏技があった。この魔法陣は、それを利用し、高度1000メートルの高さに対象の物体を転移させるものだった。


ヴェスパの下方に転移の光が現れ、そこから巨大な岩石が出現した。


「転移魔法は、移動手段だけだと思ってたか!?違うな!アレは、なんでも転移できるんだぜ!ちょっと応用すりゃ、こうして上空に巨大な岩を出現させることもできるんだ!」


いったいどこから転移させたのか、20メートル四方はある岩石が、城の真上から落下しようとしている。どう考えても、これでは魔城もろとも全てが破壊され、吹き飛ばされてしまうだろう。


「この岩は魔法じゃねぇ!!転移してきた物体だ!!魔法を解除する技も意味がねぇだろ!!力を失ったデルフィニウムだって、この大きさには対処できない!これで全部おしまいさ!!勇者もデルフィニウムも、城ごと押し潰されて、くたばりやがれぇ!!!」


凄まじい質量で、自由落下する巨岩。


高度1000メートルから重力によって加速された速度は、地上に到達するまでに、単純計算で時速500キロになる。おそらく数千トンの質量があると思われる岩石が、その速度で衝突すれば、城が破壊されるだけでは済まないだろう。


これは、あらゆる物を木端微塵に砕く超特大砲弾だ。

それが魔城の真上にまで迫った。


しかし、世界最強たるウチの嫁さんは、その大岩に向かって自ら跳躍した。



「人んちに!!石を投げちゃいけませんって!!小さい頃に教わらなかったの!!!」



ドズゴッ!!!!!



この時、嫁さんは少しだけ本気を出した。ただの打撃のみでなく、マナを送り込んで、内側から全てを砕くように撃ち込まれたパンチだった。


その一発で、巨岩は跡形も無く粉砕された。


粉々になった小さな断片が上空に舞い上がる。その上に位置していたヴェスパは、無数に飛来する大小様々な石を一身に浴びてしまった。


「っっごっふぅぉぉっ!!!」


大魔王クラスにまで進化したヴェスパは、なんと高速で飛来した無数の石ころにより、気を失うことになった。


彼は、魔城の最上階にある魔王の部屋のバルコニーに向かって落ちた。


巨大なヴェスパをそのまま落下させれば、城を貫通して中の僕たちに被害が出るかもしれない。そう考えた嫁さんは、彼をバルコニーの上でキャッチした。


トン……


体長7メートルの巨体を片手で軽々と受け止める嫁さん。

最後に彼女は悠然と呟いた。


「私の力に気づけない時点で、あなたは魔王の器じゃないのよ」

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