王子の取り巻きの父親に転生しました

製本業者

夢の世界《プロローグ》に転生しました

 木々の間を、白銀の巨体が滑るようにして走り抜ける。密集とまではいかないまでもそれなりに並んだ喬木がまるで灌木のように見える巨体にもかかわらず、馬の駆足キャンター並の速度で走り抜ける。

 手に持った騎槍ランスで、進路を塞がんと走り寄る槍兵をまさに鎧袖一触となぎ払っていく。速度は一向に衰えない。

 だが当初付き従っていた、やや小ぶりとは言え人に倍する大きさの僚兵達アテンダントは、林の中でのこの機動スピードについてこれずにいた。所詮は数合わせのお仕着せ、練度もへったくれもありはしない。

 だが一旦落伍すると、今度は振り切って追従する事も能わず、敵の僚兵達と剣を交えている。

 元々単騎がけと言う事もあり、僚兵の数は最初に幕僚から与えられた手勢のみ。結果、次第次第に数をへらし、今や字義通り単騎での突進。


 いた。

 巨人の中で、彼は足先に力を加える。同時に、更に走る速度を上げていく巨人。

 最初から、それが罠だと言うことはわかっている。だが、コレを食い破る以外に勝機は無い。

 彼は、自分が戦場において有能ではないと言う事実を知っていた。その一方、ごく最近まで自分は幕僚としては不遇だと思っていた。

 だが、それもいまとなってはどうでも良い。自分だけの問題では無い、国自体の存在が危ういのだ。もはや、奇跡を起こすしかない。新たなグローヴが現れたが、一切躊躇無く踏み込んでいく。

 踏み込むと同時に、鋼索ケーブルが張られているのに気づく。配下の僚兵を攻勢に投入した代わりの防御であろう。ジャンプするか、ランスで切り裂くか、それとも剣を抜くか……

 だが、そのいずれもせず、逆に身を沈めながら突っ込む。重心を低くして突っ込む巨大な質量に、ケーブルは抗いきれずに破損していく。

『ほう、頭でっかちアームチェア セオリストだと聞いていたが、なかなかやるでは無いか』

 前方から聞こえてくる、大地から響くような声。そこには、敵王国騎士団の紋章が入った青の陣羽織サーコートを纏い、手に斧槍ハルバートを掲げた巨人の姿があった。

「策は読めていたさ。貴様らの策は」

 勢いを殺さず、騎槍を脇に固めて突き進む姿は、機体の色もありまさに流星シューティングスターそのものだった。

 負け惜しみでは無い。

 脇腹をつかれるという懸念は、何度も上申してきた。ただ、幕僚としての力量を認められなかったというだけで、今回の進軍で敵が林を抜けてくる可能性は、既に指摘している。

 迎え撃つように青い巨人は、わざとカーブを描きながら前進すると共に、大きく斧槍をなぐように振り払う。

 だが、軌跡は見えている。軽く跳ねる様に躱すと、騎槍を巨体ごと突きつける。

 ガキンと大きな金属どうしのぶつかり音が周囲に響き渡る。

『なんと』

 騎槍により斧槍が弾かれたことで、青い巨人の体勢が崩れる。今だ。

 すれ違う瞬間、突き出した騎槍を引き戻すので無く、わざと大きく振り払うように回す事で強引に姿勢を変える。

 騎槍の根元は、見事に体勢の崩れた青い巨人の足を払い……巨人は、巨大な振動音を響かせて倒れる。

 とった!

 前傾姿勢で後ろに滑る巨体を立て直しながら、騎槍を脇に構えようとして……

 気がつくと、陣中鎧メイル姿で草原に飛び出して、倒れていた。

『惜しい、惜しいな。見栄さえしっかりしていればもっと重用されていたやも知れぬが』

 ゆっくりと立ち上がる、青い巨人から声が響く。

『単騎がけ、成功すれば確かに奇跡も起きよう』

 そのとき、いつの間にか現れた僚兵達の持つ三叉矛トライデントにより巨人の足下が絡め取れてる事に、今更ながらではあるが気づいた。そう、敵は僚兵を伏せておいたのだ。いくら魔力により常人では扱えないような力を発揮できるといえど、僚兵には叶わない。

「クソ、後一歩。あと一歩で、奇跡が……」

 怨嗟に満ちた言葉を遮るように、そして断罪の剣が振り下ろされたが如く響く、低い声。

『確かに、赫奕たる戦果を上げる予定が、勝利にとどまってしまった。

 その功は大したものだと言えよう。敵ながらあっぱれだ。

 だがな』

 斧槍が、その言葉と共に持ち上げられる。

『だが、起きない奇跡は、当然という』

 白銀の巨人に振り下ろされる斧槍と共に響く声。


 その瞬間。

 彼は目覚めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る