第80話 姉の受難 7
春樹からの相談を受けた翌日、私は春樹を引き連れて美容院へと向かった。
どうしてそんなところに向かったのか、理由はもちろん春樹の髪形にある。
あのどこのギャルゲーの主人公だよってツッコミたくなるようなダサい髪形をこの際だからバッサリと切ってしまおう。
そう思い春樹の反論を全てねじ伏せて、行きつけの美容院に向かっていた
「はい!! 着いたわ!! ここが私が行きつけの美容院よ!!」
春樹を連れてきたのは私が行きつけの美容院。玲奈の髪を整えてもらった場所でもある。
中に入り私と春樹が会話をしていると、いつも私の事を担当しているお姉さんが来た。
「あらあら? お久しぶりですね。
「えぇ、その‥‥‥ちょっと髪を整えてほしくて」
「姉ちゃん?」
気まずい。つい最近玲奈を連れてきた手前、まさかこんなに早くここに来るとは思っていなかった。
現に目の前のお姉さんも私のことを見て驚いてる。いや、私と春樹の事を交互に見た後、何かを察したかのように笑っていた。
「そんなにおしゃれをしちゃって。もしかして今日は彼氏さんの前だから張り切ってるの?」
「彼氏!?」
「ちっ、違うわよ。こいつは彼氏じゃなくて、私の弟よ。お・と・う・と!!」
やっぱりこの人勘違いしてる!! きっと私が彼氏を連れて来たと思ってるんだ。
これはまずいことになったわね。1秒でも早く誤解を解かないと。こんなダサい奴の彼氏に思われる。
「弟さん!? この子が!? 美鈴ちゃんの!?」
「そうよ。私とは似ても似つかないけど、一応血のつながっている弟よ」
「へぇ~~、そうなの~~。この人が‥‥‥美鈴ちゃんの」
店員さんは私の弟だということで、春樹の事を物珍しく思っているように思える。
いや、違う。きっとこの人は初めてこのお店に来た時の私と比べているようにも感じる。
「今日私がここに来たのは自分の髪を整える為じゃないの」
「そうなの?」
「えぇ、髪を整えて欲しいのは私の弟。こいつの髪を整えてちょうだい」
「ちょっ、姉ちゃん!?」
「そいつの髪形があまりにもへんてこりんだから、まともな髪形にしてほしいの」
「あらあら? 今度は弟さんの髪を整えるのね」
「店員さん!!」
お姉さんはニコニコと笑っているけど、大体の事は察しているように思える。
思えば私は玲奈もここに連れて来たんだ。私がここに来た目的を察されてもおかしくはない。
「ふふっ、そうですか。なるほど。わかりました」
「何とかできそう?」
「もちろんですよ。私に任せて下さい。整えがいがありそうです」
その後色々なごたごたがあったが、春樹はお姉さんに連れられて散髪台へと行く。
春樹を座らせるとそのままお姉さんは私の方へと来た。
「ねぇねぇあの子、もしかして玲奈ちゃんの件と何か関係があるの?」
「まぁ、そうね。色々と事情が複雑なのよ」
「そうなの」
それだけ言うとお姉さんは微笑む。
まるで私の苦労を見透かしているように微笑んでいた。
「玲奈ちゃんだけじゃなくて、弟さんの方も手伝っているのね」
「ちょっ!? 別に私は2人の仲を取り持ってるわけじゃ‥‥‥」
「あら? 私は2人を格好良くなることを手伝ってるって話しただけで、仲を取り持つなんて話は一切していないんだけどな」
「ぐっ!!」
このお姉さん、わかっていてやっている。
現に先程から微笑みを一切崩していない。私の事をからかっている証だ。
「ごめんね。別にからかってるつもりはないの」
「人が悪いですよ」
「ふふっ。なんか2人の為に色々と動いている美鈴ちゃんが、すごく可愛くって」
「別に私は大したことはしていませんよ。お互いの気持ちが重要ですから」
そう最終的にはそこが重要になってくる。
正直私なんて必要ない。これはあの2人の問題だからだ。
「美鈴ちゃん。もしかして弟さんにも手助けをしているの?」
「そうよ。全く手がかかるわ」
「ふふっ、お姉ちゃんも大変ね」
「本当よ。全く手のかかる弟と妹を持ったものだわ」
「弟と妹か。私もあんな兄妹欲しかったな」
「弟ならいつでもあげますよ。むしろ引き取ってください」
「そういう冗談は大丈夫よ。私は戻るわね。春樹君の所に」
それだけ話してお姉さんは春樹の所に行ってしまう。
冗談のような冗談じゃないような大人の余裕に思わず私もブスッとしてしまう。
「この怒り、春樹に後でぶつけないと」
とりあえずこの後ケーキセットを春樹に奢ってもらおう。
そう心に決めて、私は春樹が髪を切り終わるのを待つのだった。
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