姉プロジェクト~~地味で陰キャな俺が美少女の幼馴染と付き合うまで

一ノ瀬和人

本編

第1話 男子中学生の日常

カクヨム初投稿になります

よろしくお願いします

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「よっしゃーー! 今日こそは絶対にチョコを手に入れて見せる!! 俺の父ちゃんの兄弟の従姉妹にあたる叔父さんの名に懸けて」


「どれだけ遠い関係性だよ!!」



 中学3年生のバレンタインデー。教室の中心でチョコが欲しいと叫ぶ俺こと小室春樹はやる気に満ち溢れていた。

 高校受験も一段落した俺にとって、もっか重要なイベントと言えばこのバレンタインデー。

 女子からチョコレートをもらうこのイベントこそ、非モテの俺がいまかいまかと待ち焦がれているイベントなのだ。



「守!? 一体いつからそこにいたんだよ!!」


「最初から春樹の後ろにいたよ!!」



 俺の背後から声をかけて来たのは来栖守。茶色の髪をツンツンに逆立て、おしゃれ眼鏡をかけている見た目通りのイケメン。

 俺とは同じ小学校で仲が良く、部活も同じなのでこうして一緒によく話す間柄だった。



「相変わらず春樹は元気そうだな」


「そういう守こそ、バレンタインデーなのに堂々としているな」


「まぁ、僕は春樹とは違って毎年ちゃんともらえるから」


「むっ!! 自慢か? 自慢なのか?? そんなにチョコをもらえるのが偉いのか!! このおしゃれイケメンめ!!」


「その言葉、罵倒になってないぞ」



 俺が守にこう話すのには理由がある。それは毎年守は女子から大量のチョコをもらうからだ。

 毎年バレンタインデーともなれば、俺達とは人種が違うというばかりに大量のチョコを女子からもらいあまつさえ告白をされる。

 まさに非モテの天敵ともいえる存在に変貌するので、毎年この時期になると守にどんな罰を与えるか、学年の男子達で会議が行われるぐらいだ。

 ちなみに今年の放課後は視聴覚室を既に予約してある。放課後はそこに集まって会議をする予定になっている。



「今年は体中を縄で縛りあげた上で、市内を自転車で引っ張る刑を主張しよう‥‥‥」


「何をぶつぶつ言っているかわからないけど。今のお前は怖いぞ、春樹」


「うるさい!! モテ期を満喫するイケイケのイケメンは黙ってろ!!」


「はいはい、わかったよ」



 俺のことを見てため息をつく守。そんな守だが、いつもと少し様子が違う。

 よくよく守のことを観察して見ると両手には手提げ袋を持っていて、その手提げ袋はパンパンに膨らんでいた。



「守‥‥‥まさか、その両手に持つ約束された勝利の剣エクスカリバーは‥‥‥」


「チョコの入った手提げ袋だけど、それがどうしたの?」


「畜生!! 守に先を越された!!」



 毎年の事だけどこの光景を見るとクラス内でのヒエラルキーを感じてしまう。

 思えば毎年毎年この時期にモテ男である守のことを見ると、常に陰鬱な気持ちにさせられてきた。



「おいおい、何をそんなに僻んでるんだよ」


「僻むだろ!! そんな大量のチョコを見せびらかしてきて!! 俺への当てつけへのつもりか!!」



 そう思うのも無理はない。だって守が手提げ袋いっぱいのチョコを毎年もらえるのに俺はといえば義理チョコ1つ。

 その差は天と地‥‥‥いや、宇宙空間と地底ぐらいの差があるはずだ。



「そんなにバレンタインのチョコをもらってもいいことないよ。お返しが面倒だし」


「はい! 早速出ました!! イケメン特有の非モテ男子にマウントを取る行為!!」


「さすがに被害妄想だろ」



 あきれた様子で守は俺の事を見ているが、そんなのに構っている暇はない。

 それよりも俺と守、昔は同じだったのに一体どうしてこうなってしまった。

 目が2つに鼻と口が1つづつ、そして二足歩行の人間に生まれたのにどうして守とこんなに差が生まれてしまったのかわからない。



「守と俺、どうして差がついたのか‥‥‥慢心、環境の違い。いや、そんな単純なものじゃない。もっと恐ろしいものの片りんを見てしまったから‥‥‥」


「うん、とりあえず春樹が馬鹿なことを考えていることはわかったよ」


「馬鹿な事だと? いいか、守。これは今年1年を占う上で最も重要な‥‥‥」


「春樹、もう少し声のボリュームを下げなよ。周りに迷惑だよ」


「あっ!?」



 周りを見渡すといつの間にか俺達2人に視線は集中していた。

 恨みや僻みだけでなくその他色々とヘイトを込めた視線を向ける他のクラスメイト達を見て、俺は慌てて口を塞ぐ。



「気をつけなよ。春樹は推薦で高校入学が決まってるかもしれないけど、他の人達はまだ一般受験が控えているんだから」


「あぁ、確かにその部分は俺が悪かった」



 周りを見渡すと参考書を見ている人が多数いる。去年とは違い、目下受験シーズン。

 しかも一般入試前なので、周りははピリピリとしていた。



「推薦が決まったと言えば、守もそうだよな?」


「そうだよ」


「しかも俺と同じ高校じゃなかったっけ?」


「うん。また春からよろしくね」



 さわやかな顔をしているのに、なんてことを守は言うんだ。

 よく考えろ。小学校からずっと同じ学校だったのにまさか高校まで一緒だなんて。

 ここまで一緒だと腐れ縁を通り越して、俺に恋しているんじゃないかとさえ思ってしまう。



「悪いな、守。俺は男性よりも女性の方が好きなんだ」


「何を考えてるかわからないけど、また春樹が馬鹿なことを考えているのだけはよく伝わった」



 どうやら俺の気持ちは守にも伝わっていたようだ。

 以心伝心とはこのことを言うのだろう。だから俺の事を好きになるのはやめてくれ。

 俺は女性が好きなのだから。



「それにしても、まさか高校まで守と一緒になるとはな」


「俺だけじゃなくて、もう1人一緒の子もいるでしょ?」


「それって玲奈のこと?」


「そうだよ! 玲奈ちゃん!! 確かあの子も僕達と同じ高校なんだよね!!」


「そういえば‥‥‥そうだな」



 守が視線を向ける方向には背が高く童顔で可憐な少女。俺の幼馴染である三日月玲奈がいた。

 家が隣同士ということもあり、小学生の頃までは玲奈と仲良くしていた。

 だけど中学に入ってからは全く同じグループに所属していたため、昔よりも親しく話すことはなくなってしまったのだ。



「春樹と玲奈ちゃんって幼馴染だろ? いいよなぁ~~あんな可愛い子が幼馴染で」


「そうか?」


「そうだよ!! 何を贅沢言ってるの!? 春樹は?」


「別に贅沢は言ってないけど‥‥‥」


「充分贅沢だよ!! 玲奈ちゃんの何が悪いのかむしろ教えてほしいよ!!」


「おっ、おう」



 守の余りの迫力に押されてしまい、俺は1歩後ずさってしまった。

 玲奈の事になると守は熱く語りだす。こいつは玲奈教に入信しているのかと思える程の玲奈信者だった。



「ちなみに守が思う玲奈の魅力って何だと思う?」


「それはもちろん、あの凶悪的に大きい胸」


「発言が俗物的だな!!」



 とてもイケメンのセリフとは思えない。

 守にかかれば女子なんてより取り見取りの選び放題なのに。やたらと発言が残念である。



「そういう発言をしてるから、一部の女子から嫌われるんだよ」


「だって玲奈ちゃんって、あんなに背が高くてモデルみたいにスレンダーな体形なのに、体の一部分が凶悪的に大きいって反則だろ?」


「おっ、おぅ。確かにな」


「それにバレー部のキャプテンになるほど運動神経がよくて学年でも指折りの頭脳ってきたら、天は玲奈ちゃんに何物を与えているって話だよ!!」


「そうだな。守の意見はわかった」



 玲奈の事を熱く語る守の事を見て、ドン引きしながらもちょっとほっとしていた。

 どうやらこいつは無類の男好きではないらしい。これで俺のお尻は安泰だ。

 よかったよかった。



「もう凄いよね、玲奈ちゃん! さすが学園の女神様。この学校だけじゃなくて、近隣の学校の生徒が玲奈ちゃん目当てに来る理由もわかるよ」


「学年屈指のイケメンである守がべた褒めなんだからそうなんだろうな」



 玲奈のことを崇拝している守のことはおいておいて、玲奈はその容姿や性格から学園の女神様と呼ばれている。

 だが、俺は玲奈は女神様だと思ったことはない。だって女神は



「守、玲奈は2学園の女神なんだからな。そこんところ忘れるなよ」


「そんなことわかってるって」


「本当にわかってるのかよ」



 わかっていない気がしてならない。実は過去俺達の学校には学園の女神と呼ばれた人物がいた。

 だが初代学園の女神と呼ばれたその人は、現在この学校にいない。

 その人がどういう人だったのかいなくなってから何をしているのかということを俺はよく知っているが、ここで話すべき内容ではないので割愛させてもらおう。



「確かに玲奈は凄いよな」


「春樹もようやく玲奈ちゃんの凄さに気がついた?」


「あぁ、あいつは凄い。だってあんなに可愛いのに、今まで浮いた噂も一切きかないだろ? 玲奈の理想が高いせいもあるうけど、きっと完璧主義者なんだろうな」


「はぁ!? 春樹、何言ってるの!?」



 そう言うと眉間に皺を寄せて、俺のことを睨む守。

 先程の笑顔とは裏腹な顔に俺も思わず驚いてしまう。



「どうしたんだよ、守? そんなに俺のことを睨んで?」


「そりゃ睨むだろ? 玲奈様の彼氏って噂されている人間にそんなこと言われれば」


「何度も言うけど、俺は玲奈の彼氏じゃないからな」



 あくまで俺と玲奈は幼馴染だ。家が隣同士だから昔はよく遊んだだけで、今もお互いに話すことはあるけど昔ほど親しくはしていない。



「ほっほ~~、毎年バレンタインデーにチョコをもらっているくせに。いまだに彼氏じゃないと嘘をつくのか」


「だからあれは義理だって言ってるじゃん」



 本人も渡す時に家が隣同士だからしょうがなくあげる義理の中の義理チョコと言われ渡されている。

 なので俺は勘違いはしないようにしている。

 でも俺は義理でもいいから玲奈からチョコをもらえるのがうれしかった。



「義理ねぇ~~」


「何がおかしい?」


「いや、家がお隣だからってそんなに毎年義理チョコを渡すものなのかなって思って」


「俺も一時期はそう思っていたよ。でもある人からの言葉で俺は変わったんだ」


「ある人?」


「そうだ」



 それは中学に上がった頃、玲奈が俺の事を好きなんじゃないかって思っていた時期のことである。

 入学式の日に告白しようとした俺の前に現れた、サターンという名の学園の女神様が俺に言ったありがたい言葉だ。



『あんた、変な勘違いするんじゃないよ』


『もし玲奈のこと泣かしたら、生きているのが嫌になるような地獄を見せてやるからね』



 今思い出しただけでも身震いする。あの姿は学園の女神様じゃない。

 悪魔契約をしたデーモン、いや冥府の門に立つサターンだ。



「守、お前は何か勘違いをしている」


「何を勘違いしてるの?」


「玲奈はな、俺のことを好きなわけじゃない!! 毎年チョコを1つももらえない俺のことを哀れんでくれているんだ!!」



 そうなのだ。俺は今までモテ期というものが1度も来たことがない。

 人生には3度モテ期があると言われているが、きっとそれは都市伝説なのだろう。

 守とは違い非モテな俺にはそんなラッキーチャンスは来ない。そう思っている。



「玲奈ちゃんが、春樹のことを哀れんでる?」


「そうだよ。生まれてから今まで、俺は玲奈以外から1度もチョコをもらったことがないんだ」



 そうだ。この非モテな青春時代は小学校の時から始まっていた。

 バレンタインデーの時限定だが、朝は誰よりも早く登校して帰りは誰よりも遅かった。

 そして休み時間になれば女子に対して猛アプローチをかけるが誰からももらえず、結局その日はトボトボと玲奈と一緒に家に帰りその帰り道に義理チョコをもらうのが常だった。



「あれだけ多くの女子がいたと言うのに、何故‥‥‥‥何故俺はモテないんだ!!」


「でも俺が記憶だと、小学6年生の時にチョコもらっただろ?」


「確かにな。下駄箱に何個かチョコが入っていたのを覚えてる」


「だろ? あれはもらったうちにカウントされないのか?」


「守、お前はあの悲劇の真実を知らないからそんなことを言えるんだ」


「悲劇?」



 どうやら守は本当に何も知らないみたいだ。

 そんな守に対して教えてやらないと。あの黒い雨ブラックレインと呼ばれたバレンタインの話を。



「あぁ、そうだ。どうやらあの下駄箱や机に入っていたチョコは‥‥‥いたずらだったみたいだ」


「いたずら?」


「そうだ。後で玲奈がそう言ってた。『春樹の上の下駄箱の来栖君と間違えてたって女子達が話してたよ』って言ってたんだよ!!」



 いや~~あの時は悲しかった。まさか全部守宛てのチョコだったとは。

 あの時は守のことをどう呪い殺してやろうかと真剣に考えた。



「玲奈ちゃんが本当にそう言ってたの!?」


「そうだよ!! あの時は真剣にへこんだんだ。そんなにチョコが好きなら、上履きの中に溶かしたチョコレートを入れてやろうかさえ考えた」


「こわっ!? あの時春樹はそんなこと考えてたのかよ!!」


「もちろん。だけどそんなことをしてどうなる? 俺の非リア充がなくなるわけじゃない!!」


「いい心がけだ。人を恨んでも何も変わらないからな」


「そうだ。だから呪術の本を図書館で探して、守に20年後円形脱毛症になる呪いをかけた」


「もっと酷いからな!! それに20年後って、意外に現実的な年齢だな!! というかうちの小学校にそんな本があること自体が物騒だよ!!」



 一通り話し終えたからか、守は息を切らしていた。

 ぜぇぜぇと息を吐く守は疲れているように見える。



「なるほどな。それであの時美鈴さんは玲奈ちゃんに‥‥‥」


「なんだよ、守? そのしらけた目は?」


「別に。なんだあれ、そう言うことになってたのか」



 何か感慨深いことがあったのか、守が遠い目をしている。

 あの時嫌なことでもあったのか? いや、それはないだろう。

 この超絶ハーレムのリア充人生を満喫している人生勝ち組のこいつに限って、悩みを抱えることなんてないはずだ。



「とにかく、今日は1年の中で非モテの俺が唯一他の非モテに対してマウントを取れる日なんだ!!」


「あっ、そう」


「つまらなそうに言うなよ。チョコの数が物をいうこの日は1個は必ずもらえる俺の天下なんだ」


「そうか。頑張れよ。俺は先生が来たから、席に戻る」


「あぁ、頑張るさ。守も見てろよ!! 俺の活躍を!!」



 守と別れて席に座った俺は浮かれていた。なぜなら必ず玲奈からチョコをもらえると思っていたから。

 だけど俺の威勢がいいのはここまで。結局この後何もなく学校生活を過ごす。

 この日頼みの玲奈からは1度も話しかけられることはなく、結局チョコを1つももらえずに学校を去るのだった。



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