第14話

 暗くて深い、闇の中だ。

 俺はふわふわと浮かんでいる。


 近づかないように。

 離れないように。


 俺はその場から動けない。

 手足の自由があるだけだった。


 俺は男の体だ。

 シルヴァではない。なぜだろうか。


 闇の中に黒い光が見え始める。

 なんだか、微かに声も聞こえる。


「……で、は……のっ!?」


「い……ごめ……」


 詳しくは聞こえないし、見えない。

 見たくもないし、聞きたくもない。


 耳を塞いで目を閉じた。


 でも俺はそれを見なければならない気がほんの僅かにした。

 そして、それを感じた瞬間に、頭の中に言葉が、映像がドロドロとしたようなものが、内側から噴き出てくるような感覚とともに流れ込んできた。


 さっきと変わらずかすれてるし、光も黒くてよく見えない。

 でも、声と映像は止まらずに俺の頭の中で鳴り続ける。


 嫌だ、見たくない。

 俺の望みに反して、その声と光はどんどん鮮明なものになっていく。


「あんたの……顔……っ!」


「……い……さい」


 二つの声があるうち、片方の女の子の声は聞いたことのない声だった。

 なのに無性にその声は俺の恐怖を煽った。


 もう一つも女の子みたいだけど……男の子?声変わり前の、それでも女子っぽい声だ。


 光も少しずつ鮮明になっていく。

 瞳孔が開き狂気の走っている目。怒りで震えた拳。口角だけが釣り上がった不自然な顔。


 まだだ、まだこの時間は終わらない。なぜかわからないが、不自然にも俺はそれを確信していた。


 場面が切り替わる。


 あの女の子だ。

 目は血走って、手のひらには爪で突き破ったでたろう赤い線が5本、こちらに向かって勢いよく向かってくる。

 向かう先には赤いランドセルを背負った小さな背中。


「絶対に、絶対に許さないぃぃぃぃっっ!!」


 最後にその声を聞いて俺の恐怖は限界を迎え、目の前が真っ暗になった。

 意識もどんどん消えて、記憶も消えていく。


 そうして今日も。


 ここで見たものから目を背ける。

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