第12話

 もちろんわかっているとは思うが、俺は戦闘に関しては始めて一ヶ月の――言ってしまえばズブの素人である。

 そんな俺がこの世界で戦うにあたって強みになり得る部分は何か、と考えると自分の固有スキルの自由度の高さと素人だからこそのアイデアだと思ったわけだ。


 だから俺もここにきてこの一ヶ月間、ただただ単調に魔物を狩っていたわけではない。


 やってきたことその一が、固有スキルで増えた能力値を自由に速く割り振る練習だ。

 これをやるとどうなるのかというと、必要に応じて能力値を変えることで応用力が上がる。


 例えば、二種類の魔物がいたとしよう。

 片方はめちゃめちゃ硬くて、普通の方法では傷一つつけられないような魔物。

 もう片方はめちゃめちゃ足が速くて普通の人だったら追えないような魔物。


 固有スキルが使いこなせるようになると、スピードに極振りしてまず足の速い魔物を狩り、瞬時に能力値を筋力極振りに変えて硬い敵を狩る、みたいな。


 さらにこのスキルの応用として筋力に五割、スピードに五割、と言った風に割り振ることも出来る。


 それを踏まえた上で編み出した技が「討伐作戦」だ。

 普通なら絶対できないような筋力やスピード、その他色々な能力値を瞬時に変えることによって放つ技。


 あとは簡単だ。アイデアで技を作る。

 能力値は筋力極振り、その上で本来の人間の筋力であれば絶対にできないことをすることで相手の意表を突き、ガードを取らせずに超ダメージを与える。


 本来ハンマーは縦振り。加えて、持ち上げて振り下ろすから攻撃のタイミングが読まれやすい。


 で、あれば。


「討伐作戦その一、達磨落とし」


 ハンマーは右手に持ち、体を右肩が内側に入るようにねじる。ハンマーはなるべく後ろ側へ持っていき足に力を込め――ハンマーを思い切り縦向きに振るっ!


 本来であれば手から抜けてしまうであろうハンマーを筋力で無理やりねじ伏せて、そのエネルギーを――


「っらぁ!」


 オークの上半身にぶつけ、ぶつけた部分のみを吹き飛ばす。


 まだだ、魔物はもう一体いる。で、あるならば。

 体にかかっている回転のエネルギーをそのまま利用、両手持ちに切り替えて筋力5割スピード5割に変更。


「討伐作戦その二」


 足を揃えてハンマーと反対側に重心をかける。勢いをそのまま強めて――


独楽こま回しっ!」


 ハンマー投げの要領で体ごと回転する!

 俺のハンマーはオークのど真ん中に大きな穴を穿った。


「よ、よよよよおお?」


 回転の勢いを殺して楽な姿勢に戻そうとすると、いきなり天と地がひっくり返るような錯覚と、多少の吐き気に襲われた。

 目の前が、グラグラする。

 そしてそれとともに、少しだけ頭がじいんと――まるで打ち付けたかのように痛くなった。


「うげぇ……」


 あまりに勢いがつきすぎていてたった二回の回転で目が回ってしまったらしい。それに、多分頭に血が上りすぎた。

 俺は我慢しきれずにその場に座り込んで、治るのを待った。

 久しぶりに目ぇ回った……気持ち悪い……


「おい、大丈夫か?」


「大丈夫に、見える……?眼球ビー玉……?」


「心配を仇で返すゴミムーブかよ」


 薬屋が心配そうにこちらに向かってきた。詳しくは見てないが、ゴブリンを瞬殺して戻ってきたっぽかった。


「随分と派手にやったなぁおい。一面血だらけじゃねえか。どうやったらこうなるんだよ」


「達磨落としして、独楽回しして遠心力でこうなった」


「だるま落としにコマ回し?なんだそれ?」


「技。自分で編み出した」


「そんな自爆特攻みたいな技、オークなんかに使うなよ……あとでどんな技か聞くから、ちょっと休んどけ。睾丸、残ってるかなぁ……」


 ぐわんぐわんする視界の中、女の子の心配よりオークの金タマの心配をする薬屋にちょっと呆れた。

 だから彼女いねーんだよ。

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