第11話

 一ヶ月の学習期間を経て、ついに下の階層に行くことになった。


「ここが……二階層っ!」


 風景なんも変わらないんだけど。


「変わった感じしない……」


「仕方ないだろ?ここはまだ二階層、もうしばらくはこの代わり映えしない森のまんまだよ」


「面白くない」


「まあ、俺も最初はそれ思ったけどな。でも、景色が変わらないからって油断してると痛い目見るぞ」


 確か、階層が下に行けば行くほど魔物は強くなっていくんだとか。

 魔物は強くなるのに風景は全く変えないってのも、一種のトラップかも知れないな。


「むう、わかった。ここからは本気と書いてマジ」


 ふんすと、息を吐く。

 いくら楽勝だったとはいえ、ここは迷宮内。

 死ぬ可能性だってゼロではないんだから、切り替えなければ。


「その調子で頼むぞ?よし、じゃあ二階層探索開始だ!」


「おー」


「気の抜けた返事だなぁ……」


「気張り過ぎても、ミスるだけ」


「……それもそうかもな」


 薬屋は俺の言葉に少し思うところがあったのか、ふむ、と短く考え事をしたようなそぶりを見せた。


「ま、いくか」


「うん」


 俺は二階層に足を踏み入れた。


「グギャ、」


 グシャリ。ゴブリンは死んだ。


「キュ……」


 グシャリ。コボルトは死んだ。


「ブヒッ!」


 グシャリ。オークは死んだ。


 見事に餅つきだ。

 一階層と対してやってることが変わってない。

 振り上げて、振り下ろす。

 上げさえすればハンマーの自重で勝手にエネルギーが出来るから、降ろす時の手は添える程度だ。


 オークとか、二階層とか、別にこの程度なら警戒するに値しなくないか?一階層との変化が全くわからん。

 もちろんまだまだ魔物より薬屋の方が能力値高いから薬屋ヘイトプレイは続行している。


 というかこの能力なかなか使い所がない。

 ないっていうか、未だ薬屋より強い魔物が現れないから全然薬屋以外にヘイト向けてない。

 ごめんな薬屋。


 このままヘイトプレイ続けてたらそのうち本当に嫌いになってしまいそうなのが人間の怖いところ。

 なんでもないときは薬屋にラブコールを送って行こうじゃないか。媚びていけー?


 薬屋大好き薬屋大好き……

 って、これはただの自己暗示、自己催眠か。


「何考えてんだ?」


 ふと、俺の様子が気になったのか、薬屋が話しかけてきた。

 何を考えているかって?うーんなんと説明したらいいものか……


「えっと」


「うん」


「薬屋のこと、好きになりたいなって思って」


「うん……うん!?」


「どうやったら好きになれるかなぁって考えてた」


 ん?なんで薬屋固まってんの?俺、変なこと言った?


「ってことは……もしかして俺のこと、き、嫌いだったり、するんですかね……」


 尻すぼみした言葉。不安?嫌いだったらわざわざ一緒にダンジョン行かないわ。


「別に嫌いじゃない、今は。ただあとあと嫌いになるかも知れないから、今のうちに好きになっておこうと思っただけ」


 久しぶりに長文言ったー!

 なんかよくわからんけど誤解してるみたいだから、解いておいた方が後々楽だろう。


「そ、そうか……よかったのかよくなかったのか、いまいちわからんな……」


「人生なんて、そんなもん」


「チビが人生語るなよ」


「今間違いなく薬屋のことが嫌いになった」


「誠に申し訳ございませんでした」


「よしよし、ひかえおろー」


 なんだかんだでこいつとくっちゃべるのは楽しいからな。

 これからも出来るだけ仲良くしていきたいものだ。


 ぴくり。右斜め前から何かの音が聞こえた。葉を踏む音?

 ここにきてから、耳が良くなった。

 聴覚という面においては変わっていないかも知れないが、聞こえる音がなんの音なのかがわかるようになった。

 これは正直索敵においても嬉しい成長だ。


「来た。右斜め前。足音は一、二、三……五体?だと思う」


「相変わらず優秀なお耳だな」


 まだ遠くにいて相手は気づいていないが、戦闘体勢に入る。五体が敵の場合は俺二、薬屋三で倒していくことになっている。

 ちなみに偶数の場合は同じ数、奇数の場合は一体薬屋が多く狩るって感じだ。


 来たのはゴブリン三匹、オーク二匹の混成部隊。珍しい形だ。

 多種族同士だったら基本的に殺しあうもののはずなのに。


 レアものめっけ……っと。


「違う魔物同士が一緒に戦っている?おかしいな……俺がゴブリンをやるっ!お前はオークを頼む!」


「りょーかい」


 薬屋の悪口を心の中で吐きながらハンマーを構えるっ!

 イケメン死ね!クソが!


「ちなみに」


 ニッコリと顔だけこちらを向けて、薬屋は話してきた。


「女子に言うのもなんだと思って今まで言ってなかったけど、唯一オークの睾丸だけは買い取られるんだよね。媚薬の材料として」


「セクハラ?」


「まあ、シルヴァだし。別にいいかと思って」


 中身男だしな。俺も別に気にするほどじゃない。

 でも、普通の女の子には言うなよ。絶対だぞ。シルヴァちゃんとのお約束だからな。


「ようやく餅つきが終わる」


「餅を爆発四散させるのがお前の中の餅つきなの?怖いわぁ……」


 その時、ちょうど良く魔物たちはこちらを向いた。

 お前らにはこの時のために考えておいた作戦の餌食になってもらおう。にしし、と悪い笑みが浮かぶ。


「討伐作戦その一、達磨だるま落とし」


 それじゃ、金タマ残してシミにしてやろう。


 俺は、ハンマーを構え直した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る