第5話
日付が変わり、異世界生活2日目。
ベットから上半身を起こし、軽く伸びをした。
ベットが固いからか、体がギシギシと鳴る。今までの寝具って素晴らしいものだったんだな。
さて、今日は異世界に来て、どれほど女に近づかれるようになったのか実験しなければならない。
昨日で大体わかったが、わかってしまったのだが…… 一縷の望みにかけてってやつだ。
出来ればそれを午前中に済ませて午後は草むしりか、ほかの依頼か、なんにせよ金稼ぎに充てたい。
さて、そうと決まれば善は急げ。まずはここの宿の朝ごはんを食べるところから始めよう。
「おう嬢ちゃん、おはよう。よく眠れたか?」
「おはよう、そこそこ。朝ごはん」
「はいよ」
相変わらず朝にあったのは店主だ。
まてよ、表に出てるのはいつも店主だけで裏方を女性たちがやっている可能性も──
「今日の朝は男かよー。朝から大きな二つのあの山を拝みたいってのに」
「残念だったなー少し前に奥さんはおっさんと交代したぞ」
「相変わらず立派なお胸をお持ちだったな……個人的にはチビ二人の時もいいんだが」
「ロリコンかよ……ひくわー。そういえば昨日あのちっちゃい子にいち早く反応してたのお前だったよな……ってかあそこにいるの昨日の子じゃないか?」
ないみたいだった。
って言うかあいつら昨日道で堂々と俺にいやらしい目を向けてきた男二人組だ。
仲良しむっつり二人組なんだな。
まあ、俺はおっぱいとかお尻とか、それ以前の近づく近づけないの問題だったけどな!
うーん、やっぱりいつも通り女に近づけない呪いのようなものが作用しているんだな。
世界が変わってもあり続けるなんて、律儀なものだ。
これがいわゆるありがた迷惑ってやつだろう。
間違いない。
……この感じだと、この世界に来ても女には近づけそうにないな。
朝一の牛乳はぬるくてあんまり美味しくなかった。
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宿屋の時点で検証が終わってしまったので残りの時間は金策タイムだ。
とはいえ何時間も草むしりしたら、ここら辺一帯の薬草を全滅させてしまいかねない。
生態系を破壊したいわけではないのだ。それに、この後に薬草を取りたい人が困るだろうし。
早々に武器を買うお金を集めてモンスター退治の方に移行したいが、ここら辺の薬草が関わる生態系を破壊するのも躊躇われる。
掲示板もどきを前にうーんと腕を組んでいると、上から男の声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、何を探してるんだ?」
赤髪の熱いイメージを思わせる髪の毛と優しい顔つきの顔のイケメンだ。
細いが決して華奢ではない、細マッチョって感じで、腰には剣を収めていた。
捻くれた手(少女化)を選択した俺への皮肉だろうか。
まあいい、手詰まりのどん詰まりである以上、話しかけてくれるのはありがたいことだ。
こいつがどんなやつだか知らないが、相談するのは無料だしな。
「金がない。武器買えない。モンスター倒せない。お金貯まらない。負の連鎖……」
「ど、独特な話し方だな。確かに武器がないのに冒険者でお金を貯めるのは大変……うん、そうだ」
目線の高さを俺に合わせ、こう続けた。
「武器を買ってあげるから、俺のパーティーに入ってくれないか?武器代を払ってくれたら、すぐ抜けてもいいからさ」
何この善人。詐欺?裏とかありそうだけど。
取り敢えず目をよく見てみよう。目は口ほどになんとやら。
「……?」
あまりにキラキラした目に目を背けてしまった。
どんだけキラキラしてんだよLEDかよ。長持ちしそうですね。
それはそうと、金の前借りで武器を買える?借金の払い方も保証済み?
現代日本じゃありえないアフターケアだな。大丈夫?内臓売られたりしない?奴隷か?奴隷にされるんか?
でも、現状では一番いいアイデアだし、LEDアイだし……
「その話、乗った……!」
「契約成立。それじゃ、武器屋に行こう」
二人並んで大通りをてとてと歩く。
俺の歩幅に合わせてくれているのだろう。歩くのはかなりゆっくりめだ。
となりを歩く赤男くんはそこそこ身長が高いので、まるで兄弟みたいになっている。
「そういえば赤男《あかお》 」
「あかおって……もうちょいマシな呼び方ないか?」
「じゃあ、名前何?」
「俺の名前?ロートだよ」
ロートか。お薬でも作ってそうですね。
「じゃあ、薬屋」
「ど、どこに薬屋要素があったんだ……?」
異世界にはないんだな。いや、あったらあったで怖いんだけどさ。
でも、俺の中でばっちりこいつの呼び名としてはまったからこれで決定だ。
「うるさい。薬屋って言ったら薬屋」
「ま、まあいい……のか?それで、なんか言いたそうにしてたけど、どうした?」
「武器、何を買うつもり?」
「そりゃあまあ、剣を買うつもりだけど」
やっぱりか。危ない危ない、俺のしたいことは剣ではできない。
俺の固有スキルは剣なんかじゃ発動してくれないのだ。
「マイナーなものがいい」
「マイナー?でも、マイナー武器は扱いにくいぞ?」
「私なら大丈夫」
「これが根拠のない自信ってやつか……?」
失礼な。根拠も理由もあるっていうのに。触ったことは一度もないけどさ。
とはいえ、このままでは本当に剣を買いかねない。そうしたらせっかくの固有スキルが宝の持ち腐れだ。そろそろ固有スキルについて話そう。
「マイナー武器を持っている時だけ世界で1番強くなる。そういうスキルを持ってる」
「なんだそのスキル。聞いたことないし、言ってる内容が頓珍漢が過ぎるぞ」
「本当のこと。信じて」
これに至っては信じてもらうしかない。
俺の選んだ固有スキル『珍道の踏破者』は、マイナー(定義は使用者率が3パーセント以下)の武器を使うと、現在戦っている相手の合計値より総合的に上昇効果、という、なんとも分かりづらいスキルだ。
簡単に言えば、マイナー武器さえ持ってたら相手より強くなるよ!って効果だ。
鑑定とか、インベントリとかの地味なスキルが沢山あったが、これが一番面白そうだった。
ちなみに固有スキルだが、ダンジョンをただ登りきるだけでなく、完全踏破すると貰えるようだ。
因みに今までこの世界で完全踏破した人は一人もいない。……バイ、神様wiki。
そして俺は完全踏破する方法を知っている。……バイ、神様wiki。
これはいわゆる神様wiki無双では?
「もう、わかった。分かりましたー。変な武器買ってやるから、そんな目で俺を見るな。周りの視線が怖い」
「言質はとった」
「恐ろしいお嬢ちゃんだな……」
これで俺の無双街道まっしぐらである。
金の返済なんてちょちょいと終えて、女と近づけるような何かをしなければっ!
「おい武器屋、寝てんのかー?はたらけぇー!」
「はたらけー」
薬屋が武器屋に入って早々に失礼な事をしたので、俺も乗ることにした。
よいこは真似しないでね。
「言われなくても働いたるわっ……て、なんだ?そのチビ。ついにガキでも作ったか?」
「作ってないし、もしこいつが子供だとしたら俺何歳で孕ませてることになるんだよ」
「それもそうだな。で、お前名前なんだ?」
「シルヴァ。ども」
怒鳴りながら中から出てきたのはヒゲもじゃで背の低いおっさんだった。男か……
ヒゲもじゃおっさんはこちらを向いて、少し高い程度の背丈のくせに俺に向かってチビと言い放ってくれやがった。
俺の男の時の体の方が身長高いからな?
覚えてやがれチビひげおっさんめ。
「シルヴァちゃんな。で、どうした?ロート。久しぶりに来たと思えば、入口の真ん前で営業妨害しやがって」
「俺とおっさんの仲じゃん?」
「……」
「待ってすごい可哀想な奴を見る目をこっちに向けないで向けるならシルヴァにしてっ!?」
「可哀想な奴じゃない。どっかの誰かと違って、常識があるから」
「今の絡みのせいで否定ができない……っ!」
薬屋は存外残念イケメンらしい。イケメンざまぁ。
ん、待てよ?イケメンは自然と女が寄ってくる。俺は自然と女が離れてく。
俺が薬屋の近くにいれば、良い事しかないのでは?
薬屋の力が強ければ、俺にも女が寄ってくるって事だし、俺の力が強ければ、残念イケメンをもっと残念にできる。
勝ったな。誰と戦ってるかはわからないが。
俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「で、武器屋に来たってことは武器買うんだろうな。ただの冷やかしだったら承知せんぞ?」
「まーかせろって。もちろん武器買うさ。この武器屋で一番買われない武器はなんだ?」
「一番買われない武器か……またなんでそんなのを?」
「いーからいーから。教えてくれりゃあ、それ買うから」
「そんじゃあ……こいつかな」
すると、大きな金属の塊、片方は平たくてもう片方は鋭く尖った鈍色に輝く──つまりはハンマーを出してきた。
持ち手の部分まで完全に金属製の、めちゃめちゃ重そうなものだ。
「ウォーハンマーだ。作ったは良いが、買う奴が一人もいねぇ。これを買うなら金額をまけてやるよ」
「お、じゃあそれで。いくら?」
「最大限譲歩して……金貨三十枚だな」
えっと、金貨一枚は一万円だから三十万円?うっわ高いな。
心なしか薬屋もげっそりしている。
「三十枚ね……分割払いで」
「月五枚の半年越しの支払いが安パイだな。それで良いか?」
「それでよろしく頼む。……これから忙しくなりそうだなぁ……」
三十万の半年払いか。先は長くなりそうだな。
俺は借金のことはあまり気にせずに、これからの無双生活に年甲斐もなく胸を膨らませていた。
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