女性に近づけない俺が女性になって異世界に行ったらーなんか長文のタイトルであればあるほどランキングいける気がしたからつけてみただけ―
ちなまるり
第1話
いつも見ているはずの自分の部屋が、まるで電球が切れたかのように暗く感じる。
ドクリ、ドクリと少しずつ速く、しかし粘着質に絡んでくる、ヘドロのような心音。
スマホのバイブレーションのように震え続けて、止める事ができない手の震え。
目の前には、ひとりの男。姉よりも、少しだけ年上の――恐らく、中学二年生ぐらい。
彼が自分に何かを言い続けている。何を言っているかはもう聞き取れない。
初めは聞こえていたが、今では脈を打つ音がかき消してくれている。
怖い、怖い。
呼吸が荒くなる。直で太陽を見そうになったときのような、チカチカする視界と、今にも倒れたくなるような虚脱感。
男が怖いのではない。いや、もちろん怖いのだが、それよりももっと怖いものがある。
彼が話している内容を彼女が隣の部屋で聞いていることが、きっと頭がおかしいであろう内容を聞かれている事が問題なのだ。
螺旋階段のように底の見えない思考の渦。延々と下に、一歩一歩進んでいる。
そして、そんなネガティブな思考から考えついた結論であっても、大筋の予想からは外れることはない、どころかそれより悪い可能性すらあるのだ。
彼は言いたいことを散々言って、部屋を出て行った。
外では、口喧嘩の声が聞こえる。相手はきっと、あの人だ。
右手でスカートの裾をぎゅっと掴む。手の震えをごまかしたかった。
壊れた水道管みたいに勢いよく流れ出てくる涙をもう片方の手で必死に拭う。
何もありませんように。明日になったらこのことを、全ての人間が忘れていますように。
平和な明日が来ますように。
祈って、怯えて。
部屋の隅で震えていた。
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