邪龍騎士デスナイト、異世界へ。

押尾円分

第1話 聖龍戦隊ドラゴンファイブ49話 デスナイトの最期!


 邪龍騎士デスナイト。

 魔界に君臨する邪龍帝国、最強の騎士!

 赤黒の鎧に闇の剣デスカリバーを武器に戦う強敵だ!


 ――……。


「聖龍戦士共っ、まだだ! まだこの俺は死んでいない!」


 崩落が始まる地底闘技場に邪龍騎士デスナイトの叫びが木霊する。

 しかし迸るような叫びとは裏腹に、デスナイトは満身創痍であった。

 赤黒の鎧はひび割れ、左目は潰れ、全身は黒炎で焼かれた為煙が立ち昇っていた。

 だが、肩で息をしていようとも、重傷であろうとも、闘志には一切の怯み無し!


「レッド! 早く逃げないとっ! このままじゃあ僕達も生き埋めになる!」

「そうだ! そんな奴放っていけばいい!」

「…………」


 聖龍戦士のグリーンやイエローが避難を促す。

 しかしレッドはそれに答えず、無言でデスナイトを見つめていた。


「どうした! 俺は、俺はまだ死んでいないぞ! 負けていな……ぐうっ!?」


 闘志に怯みはなくとも、体力には限界がある。

 闘志に身体が付いていけず、デスナイトは膝を折った。


「ま、まだだ。皇帝に見限られようとも俺は、俺は、貴様らとの勝負だけはッ!」

「……みんなは先に行ってくれ。俺はデスナイトと決着をつける」

「そんな、デスナイトは放っておいたってもう……」

「ここはレッドの言う通りにしよう」

「でもブルー!」

「その代わりレッド、すぐに戻ってこい!」

「……わかった」


 レッドの力強い返答に、ブルー達はその場を後にする。

 それを眺めながらもデスナイトは剣を杖代わりにして立ち上がり、嗤った。


「ククク、ハハハハッ! この場に残ったのはレッド、貴様か!」

「最後の勝負だ。デスナイト」

「ああ、最期だ……征くぞ!」

「トオッ!」


 デスナイトが必殺剣であるデスカリバーを振るう。

 その太刀筋は満身創痍とは思えない程、鋭く重い必殺の一撃!

 レッドはそれに真っ向から斬り込み、刀身を滑らせながらデスナイトを斬る。

 勝負は一瞬だったが、邪龍騎士デスナイトの全てが籠められた濃密な瞬間だった。


「……ククク、強い、強いなぁ貴様は」


 既に剣を握ることさえデスナイトには叶わない。

 デスカリバーは手から滑り落ち、デスナイトは糸が切れたように仰向けに倒れた。


「初めに会ったときは取るに足らぬ弱者とばかり思っていたが……見誤ったな」

「いや、俺達は弱かった。お前に負けた時、みんなそう思ったよ」

「……だがお前達は強くなった。何故だ?」

「俺達が強くなれたのは人々を守りたい。誰かを想う気持ち。それが俺達を強くした」

「……誰かを想う気持ちか。ククク、聞くだけ損だったな。俺には理解できん」

「お前も、今度は誰かの為に戦ってみろ。そうしたらわかってくれると俺は思う」

「……時間を取らせたな。さあ行け。道連れが貴様など御免だ」

「ああ。あばよ、デスナイト」

「……」


 デスナイトは何も返さない。

 ただ無言で、崩れゆく地底闘技場の中瞳を閉じる。

 岩盤が崩れ、大岩が降り注ぐ。

 溶岩が溢れ出し、闘技場の装飾を飲み干し強者達の夢の跡をさえも流していく。


 ――人々を守りたい。


 もう、デスナイトには崩落する地底闘技場の轟音も聞こえない。

 溶岩の熱さえも、何も感じない。

 ただレッドから聞いた言葉を反芻するのみ。


――誰かを想う気持ち。それが俺達を強くした。


 ……ククク、ハハハッ。

 全くもって理解出来ない感情だ。人々を守り、誰かを想う気持ちなど……。

 だが、まあ、頭には留めておこう。


 邪龍帝国の地底闘技場は、邪龍騎士デスナイトの墓標となった……

 



 ……はずだった。



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