第18話 アズリアが開いたルーンの可能性
爪撃から放たれる追尾する遠隔攻撃はかまいたちの類いらしく、一定以上の距離を取っていれば届かないのか竜も放ってこなくなる。その上連続して放たれることもなく一定の隙が出来る。
「隙を見せたら相手に近寄る……ここッ!」
それを逆手に取って、爪撃がギリギリ届く攻撃範囲に踏み込み竜が爪を振るったら範囲外に退く。飛んでくる爪撃がかき消え、隙が残るその間に地面を蹴って最大速度で竜の足元に接敵する。
ここから先は時間との勝負だ。竜の鱗に肩口から流れた自分の血を使って
「我月に願う、光妨げる夜の闇。
鱗に刻んだ
これで精霊竜の視界は封じた。
「面白い手を使ったじゃない。でも視界を塞いだだけじゃ精霊竜の攻撃は止まらないわ。それとも……あの
最初に放った突進からの振り抜きによる全力攻撃では鱗にヒビを入れただけだった。なら火力を上げることが出来たら?でもどうやって?
その疑問に対する解答はこうだ。アタシは独特の刃紋を描くクロイツ製大剣の刀身に、先程と同じく自分の血で火を生み出す「
確証はない。もしかしたら7年使ってきた愛用の得物を失ってしまうかもしれない。だけどアタシの全力が通らない相手の硬度を撃ち破るにはこれしか方法は残されていない。
アタシは
「…………出来た」
火の魔力を宿した刀身はまるで炉に入れたように白と赤に燦燦と輝いていた。刃の周囲には陽炎が立ち昇り、顔を近づけると焼けそうなほど熱い。
本来なら金属というものは焼きを入れると柔らかく脆くなる。そうやって鍛治師は金属を加工しているのだから。だからこの剣が実は脆く、竜に振るった途端にポッキリと折れてしまう可能性だってある。
だけど握りから「大丈夫だよ」と大剣の気持ち、意思が伝わってくるのは気のせいかもしれない。それでもアタシが竜に一撃をくれてやる勇気を貰えたのは確かだった。
「……ありがとな相棒。
安心しな、折れる時は一緒さ……行くぜッッ!」
まだだ。まだ竜の鱗を砕くには不足している。「
今度は視界に入った水晶のような樹木の枝に飛び移りながらより高い位置を目指していく。そして闇に覆われた竜の頭部であろう箇所を見下ろせる枝に辿り着くと、そこから勢いをつけて飛び降りながら白熱化した大剣を振りかぶる。
「これが今!アタシに放てる最強の攻撃だあぁぁッッッッ喰らえッッ!」
火の魔力を帯びた刃を全体重を乗せたその一撃が精霊竜の頭部に命中すると同時に、竜を覆った闇が消えていく。刃と鱗が激突したその衝撃に耐えるために大剣を握る指に力を込める。多分小指は骨が折れているだろう。
一撃が命中した頭部の鱗が甲高い破砕音を立てて砕かれると、剥き出しになった箇所から大量の血を噴き出しながら竜の身体から力が抜けその場に倒れ伏していった。
魔力が霧散し普通の黒い刀身に戻った大剣は折れも曲がりもせずアズリアの足元に転がっていた。
「はぁ……はぁ……やった……のか」
「はい。見事ですアズリア様。我の鱗を撃ち破った最後の攻撃は見事の一言に尽きます」
「なっ⁉︎りゅ、竜が、しゃ、喋ってるの?」
「はい。我はドリアード様の守護を司る精霊竜、名をネモと申します。以後お見知り置きを」
「あ……うん。その、頭、思いっきり叩き斬ったんだけど……その、無事、なのかなって」
「いえ。全くもって無事ではありません。ドリアード様から癒して戴かなければいずれは」
「だよねえ!し、師匠ぉ!早く竜、ネモの傷を!」
「やれやれ。せっかく器を広げて一段階人間の上の階段を登ったばかりだというのに騒がしいわね。まあ、それでこそあの
倒れ伏した精霊竜が傷も癒えないうちから自己紹介され、しかも自分の一撃で死にかけてると知ると先程まで生命を失う覚悟で戦っていたことなど頭の片隅にもなかった。
だが、アズリアは気付いていないだろうが。
元来、精霊竜の鱗とは。
人間界で言うなら
魔力が満ち満ちている精霊界の恩恵があるとはいえ、アズリアの最後の一撃はその鱗を破壊したのだ。
覚えているだろうか。
精霊界を訪れた初日に、水晶の樹木を全力で叩いた時には傷一つ作ることが出来なかった。
だが、ドリアードの一見無茶な試練の内容の
ほとんど、と釘を刺したのは、一部の試練はただアズリアを困らせたかっただけなのは秘密だ。
そう、
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