第8話 アズリア、価値観の違い
「ちょ、ちょっと待て。本当にこれを?アズリア一人で?」
鉱山街に詰めていたランドルの部下に伝令をしてもらって、ランドルの旦那が馬車でここに来るまでは7日ほどかかると思っていたんだけど。
どうやら伝令に持たせたアイアンリザードの数とゴールドリザードが気になったのか、死骸を王都まで運搬する馬車に先行して馬を走らせてやってきてまず口から出たのがその台詞だった。
「いや……酒の席ってこともあったし、まさか本当にここまで手際良く依頼を終わらせるとは想定外だった」
「ああそうさ、アイアンもゴールドも胴体部分はほとんど傷つけてないから高値で買い取ってくれたら嬉しいんだけどねェ」
「いや、高値で買い取るのはもちろん喜んで買わせてもらうんだが……」
「だが?もしかして鉱夫への報酬が不満とかか?」
「それも違う」
……ん?
じゃあ何をそんな歯切れの悪い言い方で誤魔化そうとしてるんだろうね。
そういや、ランドルはアタシの大剣見て思わせぶりな事を言っていた気がするけど……もしかして帝国の斥候か何かだと勘違いしている?
それとも、ここでも
「えーと……アズリア、さすがにこの討伐数と獲物のレベル考えたら、行き倒れ助けてやってメシ奢ったくらいじゃ……俺のほうが足が出るんだ……」
「へ?」
「最初はメタルリザードが二、三匹だと思った。さすがに雇われの兵士じゃアイアンは厳しいけど、冒険者組合でまともな連中を雇えば対処出来ないわけじゃない」
「えーと……ランドルの旦那?」
「でもアイアンがこの数だと組合でも対処出来る冒険者は限られてくる。しかもゴールドがいたとなれば組合に加入している冒険者総出で何とか倒せるかっていう話になる。当然、依頼料は総額で金貨じゃ済まなくなるだろう」
なんだろう。
旦那とアタシの会話には何か決定的なズレが生じているように思えるんだけど。
えっと、アタシは行き倒れ助けてもらった上に食事までご馳走になった御礼に、リザードの死骸を旦那に引き取ってもらったお金で財布がホクホクに。
旦那は助けた行き倒れに鉱山からリザードを排除してもらって鉱山も無事に採掘を再開できて、しかも金鉱石の層まで見つかって大満足。じゃないのかねえ。
「問題なのはこの依頼の基本報酬だ。こんな危険な依頼だったら大金貨3枚でも少ないほうだ」
「だ、大金貨ぁ?」
「何を驚いてる?ゴールドリザード討伐なんて冒険者組合に依頼したら大金貨どころか白金貨がどれだけ飛んでいくことやら」
ここで通貨について説明する。
国ごとに通貨が違うので一概には言えないが、ここシルバニア王国では小銀貨や銀貨が王国民が通常使っている貨幣で、小銀貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚、大金貨10枚で白金貨1枚という両替制度になっている。
ちなみに先日アズリアがランドルにご馳走になった夕食の値段は小銀貨5枚、宿代が銀貨2枚となっていた。
さらに言えば、アイアンリザードの皮や肉を合わせた死骸の買取価格は金貨3枚は下回らないとされている。
「い、いやいやいや!アタシはリザード買取ってくれる報酬だけで事足りるからさ!」
「そんなわけにはいくか。ゴールドリザードは蜥蜴じゃなくもはや竜種扱いだ。竜退治の依頼をいくら行き倒れを助けたからって無報酬でやらせた、なんて噂が広がったら信用問題でウチが破産する」
そう言われてもなあ……確かに財布にいくらあっても困る事はないんだけど、旦那が深刻に思ってるほどリザードが強くなかったんだよ。
それで命の恩人から大金貨3枚貰うのは、何か間違ってる気がして断っちまったけど。旦那は引き下がらないなら妥協案を出すしかない。
「な、なら報酬の代わりに一つ頼まれてくれよ」
「あまり無茶な頼み事なら聞けないが、他ならぬ恩人の頼み事だ、無下にはしない」
「それじゃあさ、アタシが王都に滞在している間、アタシの宿代を融通してくれたら……その、助かるなぁ、って」
お?旦那、少し悩んでる。
まあ、得体の知れない旅人がどれだけ滞在するかわからないのはさぞかし不安だろうし。アタシとしてはリザードの買取金で王都の美味い料理をある程度堪能したら次の街に旅立つつもりだけどね。
「よし、わかった。アズリアが王都に滞在する間は俺の客人としてウチの屋敷の離れを用意させる」
は?
何で宿代を肩代わりする話が、ランドルの客人になって屋敷に迎えられる話になってんの?
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