『忌み子』と言われ故郷を捨てた紅髪の女剣士アズリアの魔術文字(ルーン)探索記
灰
第一章 シルバニア王国編
第1話 アズリア、行き倒れる
「……は……腹がぁ……も、もう限界だぁぁ……」
ここはラグシア大陸最大の国家であるシルバニア王国、その王都シルファレリア……のかなり手前、王都を円状に取り囲むよう建造された城壁の入口から伸びる街道────さらにその脇の茂みで。
そんな場所に、うつ伏せに突っ伏しながら何とか前に進もうとズルズルと手足を動かしながら、グゥゥゥゥと腹を盛大に鳴らして空腹を訴えている一人の女がいた。
女は旅人よろしく
肌の色は
外套から覗かせているのは肌や髪だけでなく背中の大剣と同じく黒い籠手や脛当てが見えるのだが、奇妙なのは防具を着けているのは左半身のみ、右手や右脛には防具の類(たぐい)を装着しているようには見えなかった。
一見、傭兵とも思われるような格好だが、残念ながらここシルバニア王国は隣国との関係も良好であり戦の火種になるような噂を聞かないため、傭兵がこの国を訪れる理由はない。
だとすれば冒険者か、もしくは一人旅という結論となる。
「…………もうダメだ……目が霞むぅ……無理ぃ……」
空腹ながら、何とか身体を動かして
いわゆる行き倒れというやつだ。
街道から逸れた場所なので、このまま誰にも気づかれなければ空腹のまま餓死してしまっていたかもしれない。
────だが、捨てる神あれば拾う神あり。
女が意識を失って行き倒れてからしばらくして、
荷台には貴族位が持つ紋章、と呼ぶには簡素ではある紋様が刻まれていることから、それなりの地位や立場のある商人かギルドの幹部なのだろう。
最初は面倒事になると見て見ぬ振りをしようかと馬車に乗っていた主人に報告するのを
さすがにそれが原因でくたばってしまうとしたらそれこそ目覚めが悪い、と結局は馬車に乗っていた主人へと報告するのだった。
報告を受けた馬車の主である商人の男性は、護衛と思われる数名の武装した男らを引き連れて馬車を降り、倒れていた女に近寄るのだった。
「ふむ。本当にただの行き倒れみたいだな」
「……それでランドルの旦那、どうするんですかい?この女」
「さすがに放置は出来んだろ。まずは目が覚めてから話を聞こうと思うんだが」
「面倒事になって後で奥さんに叱られても知りませんぜ」
「まあ、その時はその時だ。それに……」
「それに?」
ランドルと呼ばれたその商人の男性は、その女が背中に金具でぶら下げていた剥き出しの巨大な剣にふと視線を落とす。
「いや、何でもない。それじゃ馬車に運んでくれ」
「何か、俺たち……人攫いしてると誤解受けませんかね」
「それは心配するな。門番には私からきっちりと説明しておくよ」
「へえ……お願いしますよ、ランドルの旦那」
行き倒れであろう女の頭と脚を、二人の男がそれぞれ持って馬車に運び入れる途中で、彼女が背中に背負っていた大剣を止める金具が緩んでいたのかドスン!と鈍い音を立てて地面に落ちた。
それを見た手が空いていた別の男が、自分の背の高さほど長い女の持ち物である立派な大剣を、馬車に乗せるために拾い上げようとするが。
「……お、重ッ!な、何だこの剣は?も、持ち上がらねぇぇぇ……お、おい!手を貸してくれっ!」
商人の護衛をしているのだから筋力はそこらの一般人よりはあると自負している男だっただけに、一度は地面から持ち上げるものの。
大剣の重さに耐えられずに再び地面に落としてしまう。
地面に落ちた時の音はもはや武器ではなかった。
その後、二人がかりで何とか大剣を持ち上げて馬車に運びいれたのだったが、そんな重すぎる得物を背負って王都を訪れようとしていた行き倒れの女に興味が湧かないわけがなかった。
「おい……こんな重い武器を持ち運んでるなんて、一体何者なんだ、この女……」
……もちろん良い意味で、だけではなく今のところ悪い想像を含めて、という話でだが。
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