第20話 嫌がらせ

全身が痛む……もうボロボロだ……


何故だ?

どうしてこうなった?


――ラミアルを殺し損ねていたからか?


――オメガに直接引導を下さなかったから?


――レーネを殺さず、放置したのが不味かったのか?


――有象無象を吹き飛ばし、テオード達をさっさと殺さなかったから?


――それとも、調子に乗ってラスボスを気取ったせいか?


いいや、どれも違う。

あの女だ。

あの糞女神が、余計な横槍を入れたからこうなった。


あの女が!

あの糞女が!!


腸が煮えくり返る思いだ。

殺したくて殺したくてしょうがない。


だが……悔しいが……俺にはその術がなかった。


今の俺に出来る事は一つだけ。

そう、只一つ。


それは――嫌がらせだ。


女神がこの状況下で干渉してきたという事は、奴はきっとハッピーエンドをお望みなのだろう。

ならばそれを邪魔させて貰う。


俺は命砕きライフクラッシュを発動させる。


制限など一切なしの発動。

すぐさま俺の肉体は膨大な魔力で満たされる。


この魔力で強力な魔法を使う事さえできれば、奴らを葬る事も出来だろう。

だが強力な魔法には長い詠唱が必要となる。

今の俺に詠唱を短縮させる術がない以上、妨害されるのは目に見えていた。


だが奴らを殺すのに、魔法を唱える必要などない。

俺は只ひたすら命砕きライフクラッシュで魔力を膨張させる。


ネッドが振り返り、驚愕の表情で此方を見た。

どうやら異変に気付いた様だ。


俺はゆっくりと体を起こし――不敵に笑う。


「残念だったな、ネッド。俺はまだ生きているぞ」


俺は両手を広げ、奴を挑発する。

最早魔力は十分に溜まっていた。

後は止めを刺させるだけだ。


俺が死ぬとき――奴らも死ぬ。


「駄目よネッド!」


剣を構えるネッドをレーネが制止する。

流石に魔法使いだけあって、気づいた様だ。

俺の身に宿る異常な魔力に。


だがそれは無意味な制止でしかない。

止めを刺さなくとも、その気になれば自ら暴走させる事もできるのだから。


「今のそいつの魔力は異常だわ。殺せば……辺り一帯が消し飛んでしまう。だから……」


「なっ!?」


ネッドが驚愕に目を見開き、顔色を変える。


「くくく、逃げようと思っても無駄だぞ。俺の膨れ上がる魔力による破壊力増大は、お前らの逃走速度よりも早い」


俺は命砕きライフクラッシュで更に魔力を蓄積していく。

破壊の範囲拡大は、確実にネッド達の移動速度を超えていた。

優しい俺は、態々それを奴らに伝えてやる。


さあ、どうする?

俺に止めを刺すのか?

それとも一か八か逃げ出すのか?


まあどちらでも構わんがな。

止めを刺さないと言うなら、際限なく魔力を蓄積し続けるだけだ。

この大陸……この世界そのものを吹き飛ばしてやるのも、案外悪くはないかもしれん。


「くそ……どうすれば……」


ネッドが、苦虫を噛み潰したかの様な表情で苦悩する。

別に奴に深い恨みがあるわけではないが、女神への意趣返しだ。

精々苦しんで貰おうか。


「どうした?迷っている間にも、俺の魔力はどんどん膨れ上がっていくぞ?」


俺は更に煽る。

さあ、早く選ぶといい。

どう死ぬかを。


「どけ……奴は俺が殺す」


ネッドを押しのけ、イモータルが俺の前に立った。

奴は手にした赤い剣を俺に向ける。


「父親の敵討ちか。いいだろう。さあ来い」


「ちょっと待ちなさい!そんな事をしたら全員死ぬのよ!」


レーネがイモータルの肩を掴む。


「その気になれば、奴はいつでも自爆できる筈。それをしないのは、俺達が苦しむ様を見て楽しんでいるだけだ。どうせ誰も助からん」


よく俺の性質を理解しているな。

流石何年も俺の傍に居ただけはある。


「それは……」


「死ね!グヴェル!」


レーネが躊躇って手を離すと同時に、イモータルが剣を振り上げる。

その手にした赤い刃が鈍く輝く。

まさか自分の生み出した剣に止めを刺されるとは、作った当時は思いもしなかったな。


剣が振り下ろされる。

その刃は俺の命に終止符を――


「…………」


だが振り下ろされた剣は、薄皮一枚の所で停止しまった。

見ると、イモータルは驚愕に目を見開いている。

それもそのはずだ。

何故ならイモータルの剣を止めたのは、奴の体から溢れ出すオーラだったからだ。


オーラはイモータルの腕と剣に絡みつき、その動きを止めていた。

やがてそれは一か所に集まり、人の姿へと変わっていく。


――それは俺のよく知る男の姿だった。


「とう……さん……」


「オメガ……」


そこには……死んだはずのオメガの姿があった。

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