第9話 ラストゲーム

「首都の制圧、完了いたしました。人質は全て言われた通り収監しております」


ラグレが報告をしてくる。

まあ様子は見ていたので、一々報告されなくとも知ってはいたが。


「うむ、ご苦労。しかしラグレ、随分と顔色が悪いようだな?」


ラグレの顔色は青を通り越して、蒼白に近い。

まさか自分が魔獣を指揮して、この国を落とす羽目になるとは思いもしなかったのだろう。


「い、いえ。そのような事は」


そろそろ潮時だな。

こいつで遊ぶのも飽きてきた。


「体調がすぐれない様だな。お前には休みをやろう、永久としこしえにな」


「は?あの……それはどういう意味で?」


「首だと言ったんだ。お前は」


「そ、そんな!お待ちください!私は陛下の為、忠実に働いてきました!王都も陛下の指示のもと、ちゃんと制圧しております!なのに!」


普段落ち着いた雰囲気のラグレだが、事の重大さから、なりふり構わず大声で唾をまき散らす。


「俺が貴族達を始末した時の事を覚えているか?」


「お、覚えています。それがなんだとおっしゃるのですか!?」


俺の問いに、ラグレはヒステリックに答える。

取り乱すのは分かるが、生き延びたいなら此方の機嫌を損ねる様な言動はNGだ。

まあ何をやっても、俺の気は変わらないから別にいいがな。


「あの時、お前は自らの手を汚す事を拒んだ。その瞬間から、お前は忠臣ではなく持ちつ持たれつの協力者になった」


「わ、私の立場上……手を出すわけには!!家をまもっ――!?」


俺の殺気に当てられ、ラグレは言葉を飲み込んだ。


「俺への忠誠より、保身を取ったんだ。お前は俺の臣下ではない。そうだろう?」


「そ、そんな……私は」


ラグレの表情は崩れ、体を小刻みに震わせる。

どう足掻いても、この状況を覆す事が出来ないと気づいたのだろう。


「もはやお前に利用価値はない」


まあ実は最初っから無かったんだが。

それは言わないでおこう。


「家臣でもない。利用価値もない。つまりお前を生かしておく理由はない訳だ」


「ひぃ!?い、いやだ!私は死にたくない!」


「ポチ」


ラグレはよろめきながらも、その場からなんとか逃げ出そうとする。

俺はパンパンと両手を叩き、ペットを呼んだ。


「ひゅあああああぁぁぁ」


悲鳴が響き。

ぐちゃぐちゃバキバキと玉座の間に音が響く。

かつてラグレと呼ばれた男が、ぐちゃぐちゃに砕かれポチの腹の中に納まった音だ。


「お、およびでじょうが?」


どすどすと大きな足音を立てて、巨人が此方へと寄って来る。

その皮膚は腐って破れ。

その裂け目から、解けた肉や体液がジュクジュクと溢れ出していた。


ポチにはパワー偏重の改造を施したのだが、少々やりすぎてしまった。

自身のパワーに肉体が耐え切れず、既に崩壊が始まってきている。

そう長くはもたないだろう。


「いや、もういい。用は済んだ」


「はいぃ」


命じる前にラグレは始末されてしまった。

ポチが気をまわして先に始末したわけではない。

今のぽちにそんな知能は残っていないからな。

単純に腹が減って、本能的に口にしたのだろう。


「いや待て。ポチ、王都の正門をお前に任せる。出来るな」


人質を勝手に喰われても敵わんので、こいつには王都の正門でも守護させておくとしよう。


「おばかぜおぉ」


腐臭と汚物をまき散らしながら、ドスドスと音を立ててポチは玉座の間から出て行く。


「さて。ネッド達には急いで貰うとしよう。でないと折角改造したポチが駄目になってしまう」


魔法を発動させる。

それは大陸全てに俺の声と姿を届ける、オリジナル魔法。


「やあ、親愛なる諸君。我が名はグヴェル。魔神グヴェルだ。これから君達と、一つゲームをしようと思う。それは――」


ゲームが始まる。

世界の命運をかけたゲームが。

まあ勝者はもう決まっている出来レースではあるが、精々最後まで楽しませて貰うとしよう。

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