第6話 褒美とお仕置き

「はははは、どうした?そんな攻撃では俺に掠すらせる事も出来んぞ?」


テオードとパールが同時に切りかかって来る。

俺はその全てを指先で弾いた。

レイダーがいないのは、俺の一撃を受けて既に転がっているからだ。


まあまだ死んではいないが。


彼我の実力差は明かだった。

だが彼らは諦めない。


「四神連斬!」


テオードの手にした剣が、同時に4つの軌道を描く。

流石に能力を使わず、これをすべて躱すのは難しい。

奴の剣が俺の肉を切り裂いた。


中々優秀な技だ。


「やるじゃないか、テオード。値千金の攻撃だったぞ」


いい攻撃だ。

だが耐えられない程の痛みではない。


初めてこいつを見た時は、ネッドの引き立て役程度にしか考えていなかった。

だが俺に手傷を負わせるとは、よくぞここまで成長したものだと感心する。

そういえばこいつが急激に成長しだしたのは、オメガに負けたあたりからだったな。


敗北は人を強くするとは言うが。

その分かりやすい典型例だな、こいつは。


「流石にやらせんよ」


再びテオードが四神連斬を放とうとしたので、突っ込んで間合いを潰して頭突きをくれてやる。

流石にそう何発も喰らってやるつもりはない。


テオードが吹っ飛んでしまったので、俺は素早く間合いを詰める。

常に誰かの側にいないと、いつレーネの4属性融合魔法カルテッドストームが飛んでくるか分かったものではないからな。


ある程度魔法を中和できる力があるとはいえ、流石にあれは無理だ。

糞痛いのは目に見えているので、封じさせてもらう。


「どうした、テオード。もうおねんねか?この俺にでかい口を叩いた割に無様だな」


「くっ……舐めるな!」


俺の挑発に乗ってテオードが起き上り、剣を振るう。

俺は素早くその足を蹴り飛ばし、地面に転がしてやった。

背後からパールも切りかかって来るが、体を捻って躱し、襟元を掴んでぶん投げた。


「ぎゃっす!」


「ははは、良い声だ」


どんな時でもちゃんと"す”を語尾に着ける所は、ポイントが高いと言える。

ヒロインでないのが実に惜しい逸材だ。


「くそ……」


テオードは憤怒の表情で必死に立ちあがる。

それを見て思う。


虐めとは――面白いものだと。


昔は虐め等、なにが楽しいか理解できなかった。

だがやってみてわかる。

これはこれで楽しいものだと。


よくよく考えれば、無双系のゲームも、究極的に言えば弱者を叩き潰す虐めに他ならない。

弱者を虐めて爽快感を得る。

元居た世界でそういったゲームが人気だった事を考えれば、虐めは人間が生来持つ愉悦なのかもしれないな。


だがまあ、俺はやはりRPGやシミュレーションの方が好みだ。

今はそっちに集中するとしよう。

俺は起き上がって来たテオードに掌をむける。


「ストップ、休戦だ」


俺は休戦を申し込んだ。

ネッドとラミアルの戦いがかなり白熱してきた。

そろそろ観戦に集中したい。


「ふざ……けるなよ」


「大まじめだ?休戦中は生きながらえる事ができるんだ。そう悪い話でもなかろう」


ここまで来たら。こいつら全員の命は2人の勝負にベットする事にする。

ネッドが勝てば全員生還。

負ければ皆殺しという訳だ。


「お前達はネッドを信じて、そこでおとなしくしている事だな」


「その言葉を信じろと」


「この大一番で、そんな萎える嘘はつかんよ。付く理由もない」


レーネが飛行魔法を唱えている事に気づき、魔法を足元に打ち込んだ。

ネッドへの加勢に行くつもりだろうが、邪魔はさせん。


こいつはネッドのヒロイン担当だ。

余程の事がない限り殺すつもりはないが――


「レーネ、邪魔をすれば全力でお前を殺す。それに俺が全力で戦うという事は、ネッドの加速を邪魔する事になる。それでは勝てる勝負も勝てなくなってしまうが、それでいいのか?それが嫌ならネッドを信じてここでじっとしている事だ」


「くっ……」


殺すという脅しだけでは、ネッドの所に駆け付けかねない。

だがその足を引っ張る事になるとなれば、この場に留まらざる得ないだろう。

自分のせいで愛する相手が死ぬのは、誰だって嫌だろうからな。


「レーネ、ネッドを信じよう。奴の狙いが何かは分からないが、だがこのままでは全滅してしまう。今は堪えるんだ」


ナイス援護だ。

テオード。


自分の命なら問答無用で捨てるこいつも、大好きな妹の命となれば話が変わって来る。

妹の為なら迷わずプライドを捨て、生き延びる可能性が高い方を選ぶ。


正にシスコンの鑑の様な男だ。


その言葉に賛同したのか、その場の者達の動きが完全に止まった。


「ふ、始まったな」


俺は独り言を呟き、口の端を上げる。

ラミアルが自身の体への負荷を無視し、膨大な魔力で肉体を強化してネッドを仕留めにかかったのだ。

それをネッドは3重加速トリプルアクセルで迎え撃った。


ネッドはラミアルの凄まじい連撃を凌ぎ切る。

本当によく成長したものだ。

ネッド達の奮闘を見て、俺は目を細めた。


それは素晴らしい攻防だった。

だが、決着は直ぐにやって来る。


先に限界を迎えたのはラミアルの方だった。

途端に動きが鈍る。


ネッドの勝ちだな。

そう確信する。


だが――


「は、はははは!なんていいタイミングだ!」


思わぬ出来事に大声で笑う。

ネッドの魔法剣が、あと一歩で時間切れになったのだ。


あと一秒。

いやほんの一瞬、魔法剣の効果が長く維持できていればネッドの勝ちだった。

どうやらラミアルは、豪運の持ち主だった様だ。


「残念だったな。ラミアルの――」


テオード達に死刑宣告を下そうとして、言葉を止める。

ネッドが再び3重加速トリプルアクセル発動させたからだ。


何処にそんな力が残っているというのか?

そんな疑問など吹き飛ばすかのように、ネッドは動きの鈍ったラミアルを切りつけ続ける。


魔法剣無しのネッドの力では、そう大きなダメージを通す事は出来ない。

だからネッドは攻撃し続けた。

目や鼻から血を流しながらも、その動きを止めようとしない。


恐らく彼は、この攻撃に全てを賭けている。

そう、自らの命すらも。


「ふ……ネッドの勝ちだ。約束通り俺は撤退させて貰う。ではな」


勝負はついた。

俺はネッドの勝利を宣言し、空間に穴を開けてその場を去る。

行先はネッドの元だ。


飛んだ先にラミアルはいない。

しぶとく生き残ったアムレが、連れて逃げてしまった様だ。


「しかし、無茶をする」


うつぶせに倒れているネッドをひっくり返し、しゃがんで心臓の部分に手を当てた。

心音がだいぶ弱まっている。

このままでは確実に死ぬだろう。


「これは当座の褒美だ。受け取れ」


俺はネッドの体に生命力を送り込んだ。

全快させてやりたい所だが、この世界の回復魔法は回復までにかなり時間を要する。

レーネ達もすぐに駆け付けるだろうから、応急処置だけで済ませるとしよう。


「さて、これで大丈夫だろう」


俺は立ち上がり空間にな穴を開ける。

向かう先は当然――ラミアル達の元だ。


「敗者にはきちんと、破滅ペナルティを受けて貰わんとな」

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