第39話 変化

「お持ちしました」


看守げぼくの一人、イモが室内ろうごくに入って来る。

その手には大きく膨らんだ鞄が握られていた。

彼の差し出した鞄を手に取り、中を検める。


「ご苦労」


中には、街で売っているお菓子が大量にぎっしり詰まっていた。

オメガへのお土産用にイモに言って用意させた物だ。

これだけあればあいつも満足するだろう。


「イモ、褒美はどうだ?」


返事は分かりきっていた。

聞くまでも無い事だが、一応聞いておく。


「いえ、お気持ちだけで結構です」


何時もそうだ。

他の者達は喜んで俺からの恩恵を受けようとするが、イモだけはそれを拒否する。

以前理由を聞いたら、与えられた物ではなく、自らの力で強くなりたいと言っていた。


こういうのを武人気質と言うのだろうか?


俺には全く理解できない感情だ。

貰える物は貰っておけばいいと思うのだが、まあ本人が要らないと言うなら無理強いする気は無い。


「そうか」


菓子の一つを手に取り、包み紙を剥いて口に放り込む。

こういった物を食べるのは久しぶりだ。


転生前は甘い菓子類が好きだった。

だが太るのが嫌で色々と我慢していたのだが、この世界に来てその心配がなくなり――体形などは自由に維持出来た――俺は狂った様に菓子を貪った。


だがそれも最初だけ。

気づけば、俺は余り菓子を口にしなくなっていた。


別にこの世界の菓子類が不味い訳では無い。

平民用の流通品はどうか知らないが、王宮で手に入る菓子は転生前の人気品と比べても見劣りしない出来だ。


実際今口にした物も、かなり美味かった。

だがそれだけだ。

以前の様に、また食べたいといった衝動が湧いてこない。


満たされてどうでもよくなったのか。

単に甘い味に飽きたのか。


――それともこの体の影響か。


肉体は魂の牢獄と言う。

それが事実なら、俺はこの先もどんどん変わっていくのかもしれない。

いや、意識していないだけで、もう既に相当変化している可能性も高い。


思えばラミアルの父親を手にかけた時も、その事に何の感慨もわかなかった。

あの時俺が感じたのは、目的を遂行する楽しみだけだ。

魔族は人間ではないが、人間に近しい姿の生き物を殺して何も感じない程、俺も生前は冷徹では無かったはず。


いずれ見た目だけではなく、心まで化け物になる……か。


「まあ考えても仕方ないな」


世の中なる様にしかならない。

身も心も化け物になると言うのなら、それもまた一興だ。


時計を見ると、約束の時間5分前になっていた。

社会人なら10分前行動をする所なのだろうが、今の俺は4歳児。

5分前でも上等だろう。


「もう時間だな。少し出かけてくる」


そう言い残し、俺はオメガの元へ転移する。

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