まおう少女育成計画

第23話 契約

私の名はラミアル。

魔族の真祖たる、誇り高き純血種トゥルー

混血である混血種レッサーとは一線を画する魔力を持ち、やがては魔族の国を動かしていく輝かしき存在。


それが私。


なのに――


「なんで!?何でまた失敗するのよ!?」


「焦らなくていい。お前はまだ子供なんだから、いずれ上手く行くさ」


「でもお父様!!」


父は焦るなと言う。

だが、私はもう16だ。

同年代でライバルとも呼ぶべき者達が次々と成功させていく中、私だけが失敗を続けている。

こんな現状で、焦るなと言われても無理があった。


それに――


混血種レッサーですら多くの者が成功させているのに、純血種トゥルーの私が未だに成功させる事が出来ないだなんて……」


純血種相手ならいざ知らず、劣等種にまで後れを取るなどプライドがそれを許さない。

私は悔しさから、ぎりっと歯を食い縛る。


「ラミアル。魔族に純血も混血も無いよ。みんな同じだ。そこに貴賤はないといつも言ってるじゃないか」


そんな物は綺麗事だ。

純血種と、それ以外では明確な差がある。

実際責任ある立場は全て純血種が就いていた。


これは何も別に、混血種レッサーが不当に差別されているからそうなっている訳では無い。

純血と混血には、その身に秘めたる魔力に大きな差があるのだ。

魔力至上の魔族社会において、魔力の多い純血種が混血種を従えるのは自然な流れなだった。


そして私は純血種。

優勢種たる私が、劣等種に劣るなど許されない。


「あ、待ちなさい!」


綺麗事を並べる父が煩わしく感じ、私はその場を走り去る。


扉を抜け。

通路を駆け。

大扉を乱暴に蹴り飛ばして、屋敷の中庭へと飛び出した。


「我が名はラミアル!魔獣よ!我が魔力に応え、契約を成す為我が前に姿を現せ!」


屋敷の中庭に飛び出した私は、魔法を発動させる。

自らの僕として仕える魔獣を召喚する為の魔法を。


――召喚魔法。


それは魔族だけが行う事の出来る魔法だ。

呼び出した魔獣を強制的に支配下に置くこの魔法は、魔獣とはいえ相手の意思を無視した強制の隷属効果ゆえ、外法として人間からは忌み嫌われている魔法でもある。


基本的には全ての魔族がその資質を有し、魔族は下僕を従えて初めて一人前と認められる。

そのため、召喚魔法の習得は、事実上成人の儀にあたる事を意味していた。


私の手から魔力が放たれ、中空に魔法陣が描かれる。

だがそれは一瞬光り輝いた後、まるで最初から何もなかったかの様に霧散してしまう。


「何でよ!何で成功しないのよ!!魔力だって足りてるし、構成だって間違ってない!なのに何で!!これじゃまるで――」


――隷属種スレイブじゃない。

そう興奮して口にしようとしするが、咄嗟に言葉を飲み込む。


隷属種スレイブとは、人間との混血を指す言葉だ。

敵対種である人間との間に生まれた卑しき存在。

それが隷属種スレイブ


純血種の自分が隷属種の様だなどと、例え冗談であっても口にする事は出来ない。


召喚は基本的に魔獣を召喚する物であり、そして呼び出される魔獣は自身の系譜によって決まる。

獣型の混血種なら獣型の魔獣。

爬虫類型との混血種なら爬虫類型の魔獣をと言った風に、混血元の系譜にあたる魔獣しか呼び出す事が出来ない。


ただし純血種はだけは別だ。

純血種は魔獣と混血していない為、魔獣との血のつながりは存在しない。

だがその強大な魔力ゆえ、系譜を無視してどのような魔獣でも呼び出し使役する事が出来た。

長い歴史の中には、異世界から魔獣を呼び出した者すらも存在している。


「はぁ、私とした事が……いくら失敗続きとはいえ、あんな者達と自分を混同しようとする何て。どうかしてるわ」


ただ上手く行っていないだけだ。

それは在り得ない被害妄想だと自分に言い聞かせる。


そう、在り得ないのだ。

純血種でありながら、魔獣を召喚できないなんて事は。

隷属種でもあるまいし……


魔族であっても、人間との混血である隷属種だけは魔獣を召喚する事ができない。

それは血の系譜も無ければ、純血種の様な高い魔力を持ち合わせていない為だと言われている。


私は気を取り直し、再び詠唱を開始する。

上手く行かないというのならば、成功するまで繰り返すのみだ。

それこそ、自分の魔力が尽きるまで。


「我が名はラミアル!魔獣よ”我が魔力に答え、契約を成す為我が前に姿を現せ!」


再び魔法陣が現れ、一瞬だけ光ってやはり霧散す――いや、しない!?


私は思わず目を見張る。

魔法陣は一瞬その形を崩すが、再び輝き始め、そしてその中から深紅の魔獣が姿を現した。


「やった……成功……した……」


遂に……遂に成功したのだ。


サイズは子犬サイズと小さい。

恐らくは子供だろう。

だが成功は成功、これでやっと私も一人前だ。


感極まって涙を零す。

そんな私に向かって、魔獣が口を開いた。


「やあ、僕の名前はグゥベェ。僕と契約して“まおう少女”になってくれないかい?」


そう言うと、魔獣の4つの目が赤く怪しい輝きを放つ。


私はその言葉に迷わず――

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