第13話 褒美

いい勝負だった。

あと一歩というところだったが、まあライバルとの本格的な初バトルとしては悪くない結果だ。

頑張った褒美を、ネッドにはやるとしよう。


本棚から古く分厚い本を引っ張り出す。

本はラグレに取り寄せさせた、500年ほど前の書物だ。

とにかく古い物をと注文して持ってこさせた本だが、書かれた内容に関しては糞だった。


ブルームーン建国より遡る事300年、当時の小国の貴族の片思いの日記。

それがこの本の正体だ。

延々片思い相手へのポエムが綴られており、軽く目眩を起こしそうな程しょーもない内容だった。

正直、良くこんなくだらない物が500年も保持されていた物だと、逆に感心させられる。


ラグレは当時の文化や習慣がわかる貴重な資料だ等と言っていたが、廃棄して良いかと尋ねた所、顔色一つ変えずお好きにどうぞと返って来た辺り、奴もその内容がゴミ以外何物でもないと理解はしている様だ。


まあこの際内容はどうでもいい。

重要なのは、古いと言う点だ。

何せ内容は全て書き換えるのだから。


今回ネッドにくれてやる褒美は俺に、関する書物だ。

奴は俺の事を知りたがっていた。

だからその願いを叶えてやる事にする。


もっとも、内容は適当に考えた出鱈目だがな。

まあ設定に沿って慎重に小道具を用意するので、まず気づかれる事もないだろう。


俺は本を開き、内容を書き換える為だけに新しく生み出したオリジナルの魔法を発動させる。

この魔法は俺が3日3晩徹夜で開発した、無機物インクに一時的に生命を与える魔法である。

本が古くてもインクが新しいと違和感が生じてしまうので、それを避けるため態々新魔法を開発して、インクも当所の物を流用出来る様にしたのだ。


魔法が発動すると文字がうねうねと動き回りだす。

インクが一斉にミミズの様にのたうつ様は、見ていて少々気持ち悪い。

俺は本を放り出したくなる気持ちをグッと堪え、ミミズ――ではなく、インクに魔法で指令を与える。


頭の中のイメージ通りに内容が編纂され、ゴミの様な恋話から俺の偽経歴書へと生まれ変わっていく。

俺は出来上がった内容に念の為一通り目を通すが、特に粗は見当たらなかった。


「ふむ、問題なしだな」


初めての試みだが、どうやら上手く行った様だ。

しかし生まれ変わったと言っても、内容は俺の嘘話でしかない。

そう考えると、結局は糞本のままだなと苦笑する。


内容を書き換えた本は、王立魔法学院の図書館の奥へと仕舞い込んだ。

その際、図書館内の目録も魔法で書き換えておく。

一覧にない書物が棚に有ったらおかしいからな。


漫画とかだと、巨大な図書館内の全書物を把握してそこから不自然さに気付き――


そんなふざけた司書が登場したりするが、図書館勤務の人間のステータスは全てチェック済みで抜かりはない。


あとはあの幼馴染の女が、本を見つけるのを待つだけだ。

口先だけでネッドとの約束を反故にしたりしないとは思うが、一応念のため見張っておくとしよう。

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