3-8 2人の悪女
若手の使用人が全員屋敷から消え去ったその日の翌朝―
「ライザッ!!何もかもアンタのせいよっ!この悪女めっ!」
朝早くから怒り猛ったカサンドラがまだ眠っていた私の寝具を引き剥がすとヒステリックに喚いた。
「何するのよっ!人がまだ眠っている時にっ!それにねえ、ライザッ!私は今迄どれ程貴女に嫌がらせを受けて来たと思っているの?しかも貴女のメイド達だって人の事を馬鹿にして・・・貴女の方が余程の悪女よっ!」
私は奪い返された寝具をカサンドラからもぎ取ると言い返した。
「そう・・・・だから仕返しで叔父様に言ったのね・・・?私がこの屋敷の若い男達に次々と手を出してるって・・・。」
手を出してる?そんな言い方は私はしていない。ただ父にカサンドラは様々な男性従業員達と恋仲になって来たと話しただけなのに?
「でも事実でしょう?自業自得よ、私が話さなくてもいずれ父にバレていたわよ。」
「うるさいっ!貴女が余計な事を話さなければ・・・うまくいっていたのに・・!それどころか学校まで辞めさせられたのよっ!」
髪を振り乱しながら、カサンドラはますますヒートアップしてくる。しかし・・・。
「え?学校を辞めさせられた?」
それは少し驚きだった。だが、カサンドラの頭ではあの学校の授業についていけるはずは無いのだからそれは彼女に取ってはありがたい話であっただろう。だから私は言った。
「何よ、良かったじゃない。どうせあの学校の授業はカサンドラには難し過ぎてついていけなかったんだから・・それに友達だっていなかったでしょう?むしろ辞めさせてくれた事を感謝した方がいいんじゃないの?」
肩をすくめながら言うと、突然カサンドラは手を上げると私の右頬を平手打ちして来た。
パンッ!
乾いた音が部屋に響き渡る。それはほんの一瞬の出来事だった。
「な・・何するのよっ!」
ジンジンと痛む右頬を押さえながら私は抗議した。
「それはこっちの台詞よっ!私が・・・何の為に辛い思いをしてまであの学校に通っていたと思うの?あの学校には・・・素敵な男性教師が沢山いたのに!もう・・会えなくなったじゃないのっ!折角うまくいっていたのに・・・。」
そしてカサンドラは両手で顔を覆うと肩を震わせた。え・・・?ちょっと待って・・?ひょっとするとカサンドラは男性教師とも・・・?
「ま、まさか・・・カサンドラ・・貴女、学校の先生にまで・・・?」
私は青ざめた顔でカサンドラを見上げた。
「ええ!そうよっ?!何がいけないの?教師と恋愛しては駄目なの?大体叔父様がいけないのよっ!社交パーティーには参加させて貰えた事は無いし、私の年齢ならとっくにお見合い話がきていたり、婚約者がいてもおかしく無いのに、そんな話すら今迄一度も出た事が無いのよっ!だったら自分で手近な男を狙うしかないでしょう?!なのに・・ライザ、あんたのせいで・・・全て露呈してしまったのよっ!」
「そんな事知らないわっ!自業自得でしょうっ?!」
もうこれ以上カサンドラの乱れ切った男の話を聞くのはうんざりだ。母といい、カサンドラといい、この2人は血の繋がりが無いのに、男にだらしないのはまるで親子のようだ。
「うるさいっ!兎に角あんたのせいで何もかも滅茶苦茶よっ!今迄あんたに渡した金貨を返してよっ!確か既に13枚渡しているはずよっ!」
カサンドラは手のひらを差し出してきたが、私はそっぽを向いた。
「そんな事は知らないわ。大体金貨はここにはないから。疑うなら探してみたら?」
「無い?一体どういう事よ?」
カサンドラは腕組みをした。私はそんな彼女を見て口角を上げた。
「本当に馬鹿なカサンドラね。いい?ここの屋敷にいる人間は皆私の敵なのよ?そんな敵地で大事なお金を置いておくはず無いでしょう?現に貴女の2匹の飼い猫は既に悪さをしているのよ?以前は私のスケッチブックにインクをわざとこぼしたし、昨日は歩いていた時、いきなりバケツで水を掛けられたのよ?」
そう、それは昨日の事だった。私が外の敷地の渡り廊下を歩いていると、突然2人のカサンドラのメイドが現れて、バケツの水を人の身体にぶちまけてくれたのだ。勿論私は激怒したが、彼女達は庭の水まきをしていただけだと譲らず、謝罪も無かった。どうせカサンドラの差し金に違いないはずだが。
「ふん!そんな話は知らないわ。それよりも金貨を早く出しなさいっ!」
「私の財産を管理してくれる然るべき人に預けてあるのよ。だから無理ね。」
こんな事もあろうかと私は町で財務管理を仕事にしている人物に預けてあるのだ。
「く・・・っ!お、覚えていなさいっ!そんな風に強がっていられるのも後一カ月なんだからねっ!」
それだけ言い残すとカサンドラは身を翻して出て行った。1人残された私は溜息をついた。
後一カ月・・やはりそれはエンブロイ侯爵と私の事を言っているのだろうか?でも・・・まだ何か忘れている重要な事があったはず・・・。
そしてその一カ月後・・・とんでもない事が起こるとはこの時の私はまだ何も気づいてはいなかった―。
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