虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

1-14 買い物とスケッチ

　画材屋さんへやって来た私は店内をくまなく見渡した。初めて訪れた画材屋さんには様々な素材のスケッチブックが置いて有り、色鉛筆も綺麗に棚に色別に並べられている。その様子はまるで雑貨屋さんのようにも見えた。

「うわあ・・・同じ水色でもこんなに色々な種類があるのね・・・。」

感動のあまり、ブツブツ呟きながら色鉛筆を眺めていると若い女性店員が声を掛けてきた。

「お客様、色鉛筆をお探しですか？」

「はい、そうなんです。実は・・・お恥ずかしいことに今持っている色鉛筆は12色しかないもので・・・。」

「どのような絵を描くために色鉛筆をお求めですか？」

「そうですね・・・出来れば風景画とかを描いてみたいのですけど。」

きっと風景画なら・・・ジュリアン侯爵は喜んで買い取ってくれるかもしれない。

「まあ、風景画ですか？それなら・・・こちらの色鉛筆などはいかがでしょうか？」

女性店員が進めてきたのは72色の色鉛筆だった。

「こちらの色鉛筆は水に濡らすと、まるで水彩画のような風合いが出せるのですよ？」

「え？！そ、そんな色鉛筆があるのですかっ？！ぜ、是非それを下さいっ！」

私が速攻でその場でこの色鉛筆を買ったのは言うまでも無かった―。

画材屋さんを出た私が次に向かった店は服飾専門店だった。この時代・・・裕福な貴族や金持ちの平民家庭では専属のデザイナーがいたり、既製品のドレスを購入するのが定番となっている。

しかし、中には爵位はあるけれども貧しい貴族令嬢や、一般平民は当然ドレスを買う余裕は無い。そこで自分でドレスを仕立て、服飾品を飾り付けるのが定番になっていた。だが、私にはあいにくドレスを仕立てる技術が無い。誰も教えてくれる人がいなかったからだ。けれど針と糸で縫物をする事位は出来る。来月開催されるダンスパーティーなど、ドレスが無い私は惨めだから参加など支度は無いのだが、母の顔を立てる為にいやいや出席せざるを得ない。

それならいっそ、ドレス代位払って欲しいと母に訴えたいのだが、ドレスは高額であり、とてもではないが母のヘソクリで購入できるような代物ではない。

　私は早速店内へと足を踏み入れた。

「うわあ・・・・何て素敵な場所なんだろう・・・。」

中へ入ると、そこには見本とサテン素材の美しいカラードレスが飾られている。ベアトップのドレスは胸元に同色系のレースのモチーフが縫い付けられ、スカート部分はオーガンジーのオーバースカートが縫い付けられている。

シンプルだけども、美しいデザインのドレスに私の目はすっかり釘付けになっていた。

私はスケッチブックのデザイン画を見ながら、買い物かごの中に次々とリボンやサテン生地、花のモチーフやレース生地を入れていく。

こうして服飾小物を見ているだけで、リメイクドレスのデザインが頭の中に浮かんでくるから不思議だ。

そして気付けば買い物かごいっぱいに服飾小物がいれられていた。

「ありがとうございましたー。」

女性店員に見送られ、私は紙の手提げバックに一杯に入れられた服飾小物を見て、すっかり幸せな気分になった。

「さて、買い物も済んだし・・・お天気もいいし、今度は風景画でも描きに行こうかな。」

そして私はぶらぶらと町を歩きながら、いつの間にか、植物園に来ていた。

植物園の中には色とりどりの花々が咲き乱れ、とても美しい風景だった。

「・・・・。」

私は暫くの間、その美しさに見惚れていたが我に返った。

「そうだ・・・この植物園の風景画を色鉛筆で描いてジュリアン様に観て頂きましょう！」

そして私は早速手近なベンチを見つけ、腰を下ろすと太陽が真上に昇るまで一心不乱に絵を描き続けた―。