リセマライフ
白楼 遵
シカバネラヴソング
ふと手首を見た。
切り傷の切り口まみれ、一部は化膿している。
そのまま視線を腕へ。切り傷、痣、血痕、痣。反対の腕はミミズ腫れになった痕や何かを刺したような痕。
生きているのが不思議なくらい、私の身体はボロボロだ。
私、ニナ。中学三年生。
根暗で無口な私は、三年生になってから、クラスメイトにいじめられた。
最初は無視だけだったのが、陰口で噂を広められ、学校で孤立しはじめた。別にそこまではよかった。
先生だって注意しても根本的な解決には至らなかった。
いつからか、身体的な暴行が始まった。
殴る、蹴るの単純な暴行さえ成長した身体で行えば人を簡単に傷つける凶器だ。
そしてアニメや漫画、いろんな物で身に付いた人を傷つける術を、私の身体で実験しはじめた。
ムチを持ってきて私に打ち、ライターで軽く火傷させ、カッターナイフで手首を切り、エアガンで私の顔を狙って撃つ。その上で更なる暴行を加える。
いかに校則で「危険物を持ってくるな」と言えど、見つからなければ問題無い。先生も見ないような場所、時間に計画的に働かれる暴行。
地獄だ。この時期故の日頃の鬱憤や暗い感情の捌け口に私を使う。敵意ある悪意、害意なき悪意。ありとあらゆる悪感情をぶつけられた。
それでもこの時期に学校に行かないという選択肢は無かった。受験前の追い込み、この時期に休める程私は賢く無い。
いじめはエスカレートする。
それで、私は何をしてたっけ。
あぁそうだ、借りてた漫画を返そうと思ってたんだった。
いじめが嫌で、本の世界に逃げた私は当然漫画も読んでいた。人気のそれも、マイナーなあれも、多種多様な物を読んでいた。
そしてそれを返そうと思って、レンタルショップの入った商業ビルに来たんだ。
返し、借り。帰ろうとしていた私に待ち受けていたのは、防弾チョッキを着た男達だった。
呆然とする私を彼らは手際よく拘束したのだった。
(そっか、私──)
端的に言えば、事件に巻き込まれ、人質であると。
ビルの外からは声が聞こえる。警察、それにヤジ。放送スピーカーから流れる軽薄そうな男の声は身代金の交渉などを行っている。
手首足首を拘束されては動けない。しかし、相手はプロなのかそうでないのか、他は縛っていない。
帰って勉強して、早く漫画を読みたい。脱出を試みる。寝転がり、身体を縮め、伸ばす。私はいもむしのように這う。他の客の冷たい視線も、気にならなかった。
あと少し、あと少しでレンタルショップから出られる。
ずりずりと這う私の行く手を、男が阻んだ。そのまま私の髪を掴んで持ち上げる。
「おう女ァ、お前は立場を理解してないようだな」
金髪の男は私を放り投げ、銃を眉間に突き付ける。他の客から息や唾を飲む音がした。
「この引き金を引いたら、お前は死ぬ!」
「·····へー、そうなんだ」
可笑しかった。
眉間に突き付けられた銃は、あの日撃たれたエアガンよりも怖くなかった。
命を失う事に、恐怖がなかった。
だって私が死んだところで、あいつらは喜ぶか怒るだけ、捌け口が消えたとか、あいつ死んでんじゃんとか、嘲笑されながら言われるのがオチだ。
顔色一つ、冷や汗一つかかない私を見て、男が焦りだす。
「お、お前!?し、死ぬんだぞ!?」
「だから何?」
客も男も、唾を飲み込む。イカれた私を見て、怖くなったのか。
「うるさいぞ」
階下から、七三分けの男が上がってきた。いかにも歴戦の者って雰囲気の男だ。
「い、いやこいつが!銃突き付けても眉一つ動かさないんですよ!」
金髪は必死に七三分けに弁明している。
一連の話を聞いて、七三分けは懐から拳銃を取り出し、銃口を私へと向ける。
「······本当に、死ぬぞ?」
表情一つ変えないまま、冷静に問う。
「死なんて怖くない、むしろ殺しておくれよ」
ニヤリと笑って言ってやった。どうでもよかった。この地獄から、解き放たれるなら。
「最期に言い残す言葉は?」
「終わらせて、このクソみたいな世界を」
笑う私を見て、男は小さく笑った。
引き金が引かれ、銃弾が私の頭を貫いた。
飛び散った血液と無惨にも脳の中身をぶちまけていた。
痛みは無い。きっと脳の痛みを感じる部分が撃たれたのだろう。
客の泣き叫ぶ声。男達の会話。
頭から暖かい何かがでてくる。寒くなってきた。
きっと私はここで死ぬ。
ここでこの地獄は終わりだ。
あの苦しい世界からの解放だ。
片方の口角が上がる。
歪な笑みを浮かべて、意識がゆっくりと遠のいて。
私の人生は、終わりを告げた。
─────────────────────────
「·······ちゃん!行く時間よ!」
······誰か、私を呼んでいる?
おかしい。
私は死んだ筈。
じゃあ、なんで。
「リナちゃん!行く時間よ!」
目が醒めた。寝ていたようだ。
今までの事は夢?いや、ちゃんと15年分の記憶はあるし、何があってどうなって、どんな結末かまで覚えている。
なのに何故。
そして、何故私はリナと呼ばれた?
私はニナ。中学三年生のニナだ。それに母の声だって、あんなに優しくない。もっとハスキーで冷たい声だ。
パタパタとスリッパを鳴らしながら母──とおぼしき人物が来た。
「リナちゃん!バス遅れちゃう!」
バス?なんだ、今日は出かけるのか?
なぜか母は屈んで私の服を脱がせる。理解不能な行動、意味も分からない。私はもう中学生で、上背もある方だ。何故母は屈んだ。
「早くしないと、幼稚園遅れるよ」
······幼稚園!?何故、何故幼稚園!?焦った私は自分の手を見る。確かに、以前の私より遥かに小さい。なのに怪我の多さは以前から少し減っただけ。
「······うん!きがえる!」
できる限り、幼稚園の園児らしく振る舞ってみよう。何故こんな事が起こったのか分からない内は。
幼稚園に行く直前に鏡を見れた。
確かに幼稚園児だ。身長約105センチ程度か、急に小さく低くなった視界に驚きを隠せない。
バスに乗り、幼稚園へと向かう。
窓に寄りかかり、目を瞑る。中学生だった頃の私の癖だ。ついこのまま寝てしまって降りるバス停を寝過ごした。
周囲の園児がうるさくて寝られたものではなかったが、気持ちの整理はついた。
このまま人生を過ごそう。きっとこの傷は転んだのだろう。きっとここは楽しい人生を描けるのだろう。
段差の高いバスから降り、園へ入る。
幼稚園も、地獄だった。
中学と同じくカーストが存在し、私は当然最下層。トップの女の子にシンデレラもかくやの勢いで罵倒され、取り巻きには殴られ、蹴られ、つねられた。
なんとも陰湿、腹のたった私は罵声を理屈に沿って連ねた。
幼稚園児の小さな頭では理解できなかったのか、意味わかんないを連呼する相手に追い討ちをかけたら暴力で返された。おまけに泣き出した彼女は先生も味方につけ、一方的に私を悪者にしたてあげる。
居場所を失ってさ迷う私に、男子が通りすがりに叩いたり、蹴ったり。あげくスカートを捲ったりしてきた。
それ以上に疲弊して声さえ挙げられない私が癪なのか、さらに純粋な暴力は加速する。
どうしたって、私は虐められる。
家に帰ってきた。
母はニコニコ笑顔だが、私は暗い表情。
(いっそ、死にたい······)
どす黒い感情が胸中で渦巻く。
そこでふと私は気がついた。
あの時、私は確実に死んだ。
でも今、
つまり、死んだら別の私に変われる?
まるで人生リセットボタンの痛みを伴ったバージョンだ。漫画みたいで信じられないが、そうとしか思えない。
母は今夕食の準備中で私気にしていない。
私の今いる家はマンションの11階。飛び降りれば死ねる。
「······バイバイ、ママ」
小さく言い残す。
たった一日だったけど、楽しかったよ。
ベランダのフェンスをよじ登り、落っこちる。
独特の浮遊感、死が迫る感覚。
加速し、次第に地面が近づく。
アスファルトの地面が眼前に来て。
そこから先は何も覚えていない。
「────はぁ!?」
目が醒めた。腕を見る。
やはり切り傷まみれ、今回もどうやら地獄のようだ。
「エナ?学校遅れるわよ?」
「······分かった、行く」
もういいや。
何度でもやり直せる。
人生を何度でもキャラクターを変えてプレイできる。キャラを変えてコンティニューするには死亡する必要があるけど。
リセット機能を得た私は、何度人生をやり直すのか。
───────────────────────────────
それからというもの、私はすっかりリセット狂になってしまった。
ちょっとでも辛いとすぐにリセットする。
お陰で死が怖くなくなってしまった。それに死ぬ前の記憶は全て持つから、ニナとしての人格や記憶が主体となっている。
ある時、小学生でリセットした。
三ヶ月ちょっとだった。楽しい人生を途中まで歩んでいた。しかしクラスメイトの悪い男子が家に押し掛け、大事に飼っていた金魚を遊び半分に解剖して殺した。
私はその男子を殴った。初めて殴った。
そして、親が仕事で家を出ている内に、包丁で同じように自分の腹を裂いた。想像以上に人体は固く、おまけに痛みで手が震えて上手く裂けなかった。裂けたら裂けたで、出血で頭が録に働かず、最終的に腸をいじりながら死んだ。
ある時、社会人になるまで生きてみた。
楽しく落ち着いた高校生活、友人と遊んだ大学生活。そして就職したら、上司はハラスメントばかりしてくる人間だった。
常にセクハラ発言を投下し、パワハラで精神を削りにくる。残業に次ぐ残業で過労死。タイピングで麻痺した指、途切れない頭痛は死に方の中でも最悪の部類に入った。
ある時、中学生まで人生を歩んだ。
中学生になり、初めてバカとつるんだ。そして、いよいよ犯罪に手を染めた。とはいっても万引きだ。コンビニで万引きを繰り返したら店を出た途端警察がいた。友人はすぐに捕まった。
私は友人を裏切って逃げた。路地裏も表通りも使って逃げた。しかし逃げ切れないのはわかっていたので、近くの川に入水した。着水の際、右半身を強く打ち、録に動かず溺死した。
いつからか、私は自ら望んで最悪の死を選び始めた。
ただ死ぬんじゃない、惨く、酷く、辛い死。見た者全員の気分を害するような死へと。
ある時は薬で狂乱し、ある時は虐める男子生徒の前で舌を噛んで包丁で首の動脈を切った。暴力団に身を売り、慰み者にされた後、生きたまま身体を裂かれて内臓を引きずり出された。
最悪の死の後には、最高の人生が待っている。
リセット回数は300回を越えた。
最悪の死を選んでも、最高の人生は巡って来なかった。
最悪の死に続く、最悪の人生。楽に死にたい。でも身体が言う事を聞かない。選んでしまう酷い死は私の感情を殺す。
どれだけ最悪の人生を最悪の死で閉じても、同じ事の繰り返し。
いつしかリセットする意味も忘れ、生きる希望も潰えた、死んでも別の人間になってまた死ぬ、生きる屍。
私の中に残ったのは、磨耗した精神を抱えた、屍の私。
ただ死を求めて希望を失った、いつかと同じ私だった。
────────────────────────────────────
あぁ、これで何回目のリセット?
今回の私は誰?
ニナ?エナ?マナ?誰でもいいや、どうせここでもリセットする。名前なんて邪魔なだけ。
スマホを開けば、LINEに入った新着メッセージ。
「既読つかない」
「生意気」
「何様のつもり」
······やっぱりだ。
ここでも、私は。
どこまで行っても、行き着く先は地獄。痛みにも苦しみにも慣れた筈なのに、どこか奥底の方でジクジクと何かが痛む。
この痛みはずっと消えないだろう。私が私である限り。
「サナー?学校遅れるわよー?」
お決まりのこの言葉は、私を地獄に連れて行く死刑宣告。
「わかった、行く」
こうやって返すあたり、死刑囚にも慣れたけど。
登校時はあまり前を見ない。出来る限り下を向く。妙な奴に目を付けられても困る。暗い自分を勝手に演出していじめられやすくなってしまうが、結局一番被害が少ないのだ、この姿勢が一番適している。
クラスの席は廊下側の一番奥、四隅の一角にあった。いじめられる最高の席。休み時間になるや否や、数名のケバい女子がこちらに来た。
「ねぇ、既読無視とかひどくない?」
「私たち、善意でメッセージ送ってあげてるのに」
望んでいない。勝手な善意の押し売り程面倒なものは無いと思う。
「まぁいいや·····私たち友達だよね?」
この後の展開が見えた。友達だもんね、とかいう最悪で意味不明な理由から繰り出される言葉は、一つ。
「友達だから、お金貸して?一万円」
そら来た。友達だもんね一万円貸してくれるよね発言。この手の人種は確実に金を返さない。聞いてものらりくらりと避けられるか、暴力に訴えるか。
そんな相手に、渡したくなかった。
「······嫌。絶対、嫌」
声が震えた。
なんで?
あれだけ自分で自分を殺しておいて、あれだけ自分に非道い事をしても湧きださなかった恐怖が、今更私を襲うの?
「······はぁ?何その言い方?喧嘩売ってんの?」
強引に私を立たせ、鳩尾に膝を入れてきた。
思わず咳き込む。あの日自分の腹に入れた包丁より痛くない。
なのに、なんでこんなに体が震えるの?
あの日、自分で自分を殺して、感情も殺した私が、なんでこんなに恐怖を感じているの?
一番最初の記憶が、呼び起こされる。
受け入れたくない。こんな人生、嫌だ。
筆箱の中にカッターがある。もうここで終わらせよう。首の動脈を切れば終われる。何度も切ってもう慣れた。
だけど、それより先に相手の蹴りが来る。痛いのが、くる。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。でももう遅い。
目を瞑る。
痛みは、五秒待っても来なかった。
おそるおそる目を開けると、一人の男子生徒。気弱そうで、頼りない。
だけど、相手の蹴りを受けた。私の代わりに。
「え────」
驚きの声が出た。相手は決まり悪そうにどこかへと去っていった。
「大丈夫?」
男子は、微笑みながら言った。
私の頬を、涙が伝った。
「え、えぇ!?ご、ごめん!?」
慌てる男子。
「うぅん、違う、違うの······」
今まで、誰も助けてくれなかった。皆私を見殺しにして、行ってしまった。
他力本願と言われるかもしれない。でも私は。
誰かに、傍にいてほしかった。
この人は、私なんかのために、わざわざ蹴りを受け止めてくれた。
「ありがとう」
泣きながら笑って、笑いながら言った。
こんなに嬉しいありがとうなんて、言った事も無かった。
あの人は、
そして私は、徒空くんに、惚れてしまったのだ。
毎晩徒空くんを思って足をばたつかせ、毎朝おはようと声をかけてくれる徒空くんを眺めて胸を高鳴らせる。
私今、最高に幸せ。
だから私はもう負けない。その一心で動いた。行動を変えた。声を出した。すると、いじめられる事が無くなった。誰にも冷やかされない。楽しい、嬉しい、幸せ。
でも、モヤモヤは晴れない。胸の奥底の靄が晴れないのだ。
きっと、徒空くんに会うまでのリセット。あれだけ自分で自分を殺した私なんかが徒空くんと一緒にいててもいいのか。
モヤモヤは増えるばかり。
(······でも)
きっといつかは、打ち明けなければならない。
それなら、と。
私は彼を、昼休みの屋上へと呼んだ。
───────────────────────────
「どうしたの、サナちゃん?」
約束、守ってくれた。
それだけで幸せの絶頂。でもモヤモヤ。
(·······打ち明けよう)
ダメだったら、飛び降りよう。
一度ネガティブな感情を振り払う。そうでもしないと、飛び降りちゃうから。
「あのね、徒空くん」
彼は、静かにこちらを見ていた。
「信じられないかもしれないけど────」
何て言えばいいんだろう。適切な言葉が浮かばない。でも、ありのままを伝えよう。
「私、私だけど私じゃないの」
徒空くんは目を丸くしていた。当然だ。私だって分からない。だから、順を追って話そう。
「──私、何度も自殺した。一番最初の記憶だと、最初は事件に巻き込まれて殺されたの。でも、その記憶を持ったまんま幼稚園児になって······飛び降りて死んだ」
徒空くんは、何も言わない。電波系かと思われただろうか。でも、口が止まらない。
「一番初め、殺される時、何も怖くなかった。······いじめられてた。殴られたり、焼かれたり、切られたり、撃たれたり······地獄みたいで、もう······っ」
涙が出てた。嗚咽混じりの声だった。
「バカになりたくて、クスリもしたし、犯罪だって犯した······でも死んだから、ノーカウント······バカだ、私······死んだら全部リセットとか、思ってた······罪悪感も抱かないで、のうのうと······」
徒空くんは、歩む。私に向かって。
「そうやって、自分に言い訳して······最悪の死に方で死んで、他の人を傷つけて······なのに、今、徒空くんと一緒で、幸せ······こんな私に、幸せになる権利なんて無いのに······」
徒空くんは、私を見てる。無理だ、きっと。こんな私が幸せだなんて、おこがましかったんだ。
そう思う私を、徒空くんは。
ゆっくりと、優しく、抱き締めた。
「僕は、サナちゃんがどんな死に方で死んだか、わかんない」
優しい声で。
「その罪も、サナちゃんが永遠に背負わないといけない」
少し悲しげな声で。
「でも、僕は一緒に背負える」
私は、弾かれたように彼の顔を見る。
「ゆっくりでいいから、教えてくれないかな?僕が、一緒に背負うために」
そして。
「僕が、サナちゃんの味方になるために」
涙が、溢れた。
優しい笑顔で、徒空くんは私を見る。
あの時の、軽蔑も嘲笑も無い、青空のような笑顔で。
涙でぐちゃぐちゃの顔を笑わせて。
「······うん!」
初めて、昼休み以降の授業をほったらかしにした。保健室に行ってしまって授業に出席しなかった事はあるが、こんな風に友達と話して昼休み以降の授業をほったらかしにしたのは初めてだ。
300回以上に渡るリセットの軌跡を、彼は嫌な顔ひとつせず聞いてくれた。
「僕がリセットできるかはわかんないけど────」
そう言って、彼は。
「来世に行ってしまっても、僕はサナちゃんの味方だよ」
嬉しくて、嬉しくて。
泣き止んだのに、また涙が出てきた。
─────────────────────────────────────
楽しかった一学期は光のように過ぎ去った。
一緒にテスト勉強をしたり、遊びに行ったりと、デートのような事までした。
そして今日。
終業式が終わった放課後、私達はマンガを借りに商業ビルに来ていた。
「いやー、僕が来るとどれ借りればいいか分かんなくなっちゃうから」
「あくまで私の主観的な感想だけどね」
おすすめのマンガを借り、帰ろうとした時。
防弾チョッキ姿の男がいた
私も彼も、息が自然と上がった。
(私のバカ!なんで、なんで最初のリセットみたいな───!)
「ん?カップルか······はぁ」
ため息を付いた。
瞬間。
私を庇って前に立っていた徒空くんが、頭から血を流して倒れた。
「────とそら、くん?」
真っ赤な血が、流れていた。
「や、いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
叫んでいた。
やめろ。
やっと手に入れた、やっと見つけた私の幸せを、奪わないでくれ。
ドクドク流れる血。彼が助からないのは、経験上分かった。分かってしまった。
「やめて、くれよ······そんな泣き顔······」
「徒空くん!喋っちゃダメ、ほんとに死んじゃうよ!」
嫌だ。助からないなんて嘘だと思いたかった。
でももう、手遅れ。
「······笑って、くれ·······最期に、みたい、な······」
涙がとめど無く溢れる。だけど、笑って。笑顔を作る。
「······あ、りが······」
途中で、言葉は途切れた。
「とそら、くん!徒空くん!徒空くん!!」
失ってしまった。私の、大事な人。
「別れ、終わったか?······女、お前は人質だ」
まるであの日のプレイバック。だけど。
(彼は、来世でも味方だって、言ってくれた───!)
だったら。
私は。
死を、厭わない。
思いっきり、舌を噛みきる。
ショックで舌の根が持ち上がる。
このまま気道を塞いで窒息死───
────しなかった。
途中で舌の根が戻ってしまう。
(な、なんで······?)
でも、考えてる暇は無い。窓の方へ駆け出し、飛び降りる。
しかし、ここは三階。
(───!?身体が!?)
最も衝撃を吸収してしまう体位になる。
着地。受け身を取ってしまって、左腕だけが犠牲となる。
「なんで、どうして───」
どうして私を、死なせてくれないの?
「こ、この女ぁ!」
ビルから慌てて別の男が飛び出してくる。
弱そうで、銃も拳銃。
走りだし、男にぶつかる。
半ばひったくるように、拳銃を奪う。
「なっ·······クソアマ!」
罵声をぶつけてくるが、気にしない。
冷たい感触。堅い引き金。
彼と同じ死に方で、リセットする。
「待っててね、徒空くん······今から、そっちに行きます」
にっこり笑って、涙を流して。
さよなら、この幸せな世界。
引き金を引いた。
リセマライフ 白楼 遵 @11963232
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