悪役会議

葉月卯平

悪役会議

「議題 “負けフラグ”について」




――では、改めてヒーローに対する対策会議を行う。




――まずは過去の敗因を洗い出し、共通点がないか確認いたしました。お手元の資料をご確認ください。




会議室に集まった10名ほどの悪の幹部たちは、そろって手元の数枚の資料に目を落とす。


いつものごてごてとした装飾のついたマントや兜は外しており、若干の違いはあれど皆、シャツにパンツまたはスカートといったいたって普通の姿である。




――今回は地球人のプレゼンテーションというのに習い、全員で情報共有および意見交換ができることを期待してこのような形をとっております。


――1ページ目には直近3か月の戦闘結果と敗因と考えられるものをまとめてあります。2ページ目をご確認ください。


――こちらは地球人の中で信仰されている“フラグ”特に“負けフラグ”“敗北フラグ”というものについてまとめたものです。




会議室の中には2つの資料を相互に眺めたり、隣の人物と顔を見合わせたりする様子がうかがえる。




――これは……




――はい。お気づきになられたかと思いますが、我々の敗因とこの“負けフラグ”というものがひどく類似していることがお分かりになるかと思います。




――いや、だがこれは……この負けフラグというのはいわゆる力のない地球人による想像というか妄想というか、そういった類のものであろう?




――確かに似ている点はいくつかあるが、我々の敗因すべてをこの“負けフラグ”とやらに紐づけるのは少し無理やりでは?


――もちろん、類似点が多いというだけで我々の敗因と“負けフラグ”をこのように取り上げたわけではございません。3ページ目をご覧ください。




カサッ


一様に紙をめくる音がする




――なんと……




――はい、こちらに乗せているのは“負けフラグ”に対をなす“勝ちフラグ”と呼ばれるものです。そして同時にあの目障りなヒーローたちやその周囲の者たちの言動も直近3か月のうち可能な限り聞き取り調査を行い乗せております。残念ながら戦闘前の彼らの言動までは調査できず、比較対象に乗せられておりませんことはお詫びいたします。




――なるほど。すべてが、とは言えないがどうやら我々の敗北とこの“負けフラグ”とは何かしら関連がありそうだ。そしてあいつらの勝利ともな。




――ご納得いただきありがとうございます。さらに次のページをご覧ください。


――半月ほど前の公園占領事件、先日のお化け屋敷事件は皆様ご存知だと思われます。




――あぁ、我々が出るまでもない小さな作戦だったが……珍しくヒーローたちが出動する前に作戦が終了した案件であったな。あれの指揮は誰がしたのだったか……




――あの2つの作戦は開始と撤退の合図のみワタクシが行いましたが、現場には言っておりません。伝えたのはただの2点【二人一組で行動すること】【相方が“負けフラグ”と同じ言動をとりそうになったらすぐに阻止すること】です。




――なんと、あの戦闘員だけでか?




――はい。ちなみに今回は半年前の作戦と全く同じものを用いています。戦闘員10名で行い、半数を半年前の作戦で生き残った者、もう半数を新人で構成しております。


――戦闘後の聞き取りによりますと、何名かが“負けフラグ”に類する言葉を言いそうにはなっておりましたが、寸前で止めることに成功したとのことです。


――アンケートによりますと今回用いられそうになった“負けフラグ”としましては「これが終わったら俺、プロポーズするんだ」「今回の作戦は完璧だ」「今度こそあいつらも」などが多かったようです。


――同様の実験を基地周辺に限って行いました。5ページ目をご確認ください。直近2週間の基地周辺とそれ以外の戦闘結果、基地周辺の1か月前の戦闘結果の比較をのせてあります。




――これはまた……




――2週間とはいえはっきりと戦闘の敗北数が減っているな。勝利はそこまで増えていないようだが




――はい。まだまだ“負けフラグ”の回避メインとなってしまっており戦力増強のための施行や“勝ちフラグ”の検証までは……ただ、途中撤退・敗北時のこちらの損害が減少しております。


――まだまだ検証数も少なく、敗北との因果関係がはっきりしておりませんが、今後も検証を続けてまいります。




――なるほど、ぜひ詳しくまとめてまた我々に情報共有してほしい。




――みな、我々の現状はひどく厳しいと言わざるを得ない。だが、彼のように敗北を研究するというのは大事なことであったと今回の会議で理解できたと思う。ぜひとも皆もそれぞれの視点で勝利のための敗北の研究を行い、今後に生かす情報を共有してもらいたい。




――今回の会議はここまでといたします。貴重なお時間ありがとうございました。皆さんの持ち場に戻ってください。




――最初は面倒だと思っていたが、なかなかどうして有意義だったぜ。




――ちょっと私も部下の戦闘状況について調べてみるわ




――過去のあいつらの敗北もちょっと調べてみるか




――俺は地球人のことをもう少し調べてみるよ




皆それぞれ思い思いのことを仲の良い者と話し合いながら会議室を後にする。






――今日はお時間をとっていただきありがとうございました。まさかワタクシの突拍子もない考えに総帥様が興味を持たれるとは思っておりませんでした。




――お疲れ。なかなか良い発表だったよ。それに君の考えは凝り固まった幹部の中では決して出てこないものだ。彼らに柔軟な発想をしてもらうためにはこれぐらい突拍子もないほうがいいんだ。実際に効果も出ているからね。これからも頑張ってくれよ。


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悪役会議 葉月卯平 @pharm23101

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