巷で流行りと噂のパーティー追放とやらに合ったみたいです
葉月卯平
傭兵ガルムは困惑した
――なんでこんなことになっているのだろう。
傭兵ガルムは思案した。
事の起こりは朝、傭兵ガルムが日課の素振りを宿屋の裏側で行っていた時である。
「傭兵ガルム! 貴様の横暴さには辟易した! お前はこの街でパーティーメンバーから追放する!! 魔物はびこる森の中でないことに感謝して、手持ちのアイテム一式置いて行け!」
傭兵ガルムは毎朝1000回の素振りを日課としている。もちろんそれ以外にもいろいろと行い、いつでも戦闘できるようにしているが、今回の乱入者がたまたま素振り中にきてだけのことである。
「おい! 素振りをやめて話を聞け!」
ごちゃごちゃとわめきたてているが、傭兵ガルムは歯牙にもかけない。
というのも、素振り1000回、途中でやめてしまうと数がわからなくなてしまう。また最初からやり直してもいいのだが、どうにもすっきりしないしあと100回ほどだったので、とりあえずきりの良いとこまでやってしまおうと考えたのである。
「僕をバカにするのもいい加減にしろ! 」
外から何やら炎が飛んでくるが傭兵ガルムはそんなことは気にしない。
気を引きたいがためのちょっとした魔法だ。授業中に飛んでくる消しゴム程度の威力でしかないことを知っているからだ。
実はこの青年が傭兵ガルムの朝の日課を邪魔してくるのは初めてではない。3日に1回は必ず起きるこれもまた彼にとっての日課のようなものである。
「1000! 」
最後の一回をこれまた覇気を込めて振り下ろし、そこでやっと傭兵ガルムは青年のほうを向いた。ここで更に無視をすると3日に1回の頻度が3時間に1回の頻度に変わるのだ。傭兵ガルムは経験からそのことを知っていたし、戦闘中にこの状態を引き継ぐと、攻撃に対する反射で誤って青年を殺しかねないと自覚していた。
「で、なんだ坊主。」
傭兵ガルムはまさしく歴戦の戦士という風貌をしていた。身体は大きく鋼のように固く、戦闘を行うのに邪魔になる髪は短く刈り上げられている。そして――傭兵ガルムと言われたら一番に挙げられる特徴であるが――その貌には大きな傷跡がこめかみから口の際まで走っており、その傷がある側の目は黒く使い込まれた眼帯で隠されている。隠されていないほうの眼は鷹のように鋭く、薄い唇は酷薄さを醸し出しており、一言でいうと、とても恐ろしく大体の人間は目が合うとおびえる。
傭兵ガルムの邪魔をした青年も例外ではない。付き合いがそこそこ長いので悲鳴を上げたり逃げ出したりはしないが、それでも一瞬動きが止まる。それでもすぐに稼働するのは、傭兵ガルムが自分に手出しはしてこないと知っているからだ。
「う、うるさい! いいかっよく聞け! 貴様の横暴さには辟易した! お前はこの街でパーティーメンバーから追放する!! 魔物はびこる森の中でないことに感謝して、手持ちのアイテム一式置いて行け!」
「あぁ?なんだって?」
青年は律義にもう一度同じセリフを言い放った。傭兵ガルムは意味が分からず問い返した。ガラが悪いのはしょうがない。そもそも傭兵ガルムは品行方正な騎士様ではないし、さらには日課を止められて気分もよくなかった。そのうえで意味の分からないことを言い募られて、優しく問い返すほど傭兵ガルムは優しくできてはいない。いつもなら簡単に聞き流しているうちに他の仲間が青年を回収するが、今回は聞き逃せない言葉に思わず反応してしまった。
「す、すごんだってこれは決定事項だからなっ! 前の街で仲間にした2人だってそういっている! リリカ! エリー! 君たちからも言ってやってくれ!!」
いつも反応しない傭兵ガルムが反応したことにビビりながらも、青年は退かない。これまでは仲間が青年に反対していたために最終的におとなしくなっていたが、つい最近新しく加わった新メンバーが傭兵ガルム追放に賛同したのであろう。
「はぁ、あなた一人で何とかできないのですか? 勇者ともいう方が少し情けないですよ。」
「ボク、魔法も使えない奴と会話したくないんだよね。」
勇者の後ろから出てきたのは件の新メンバーである賢者エリーと魔術師リリカであった。傭兵ガルムはどういったいきさつでこの二人が仲間になったかは知らないが、とりあえず二人に自分が嫌悪されていることだけは知っている。まぁ、だからと言ってこの二人が青年を支持しているわけでもない。単純に利害の一致で今この場にいるのであろう。
「さて、傭兵ガルム、あなたのこれまでの献身は聞き及んでおります。この情けない勇者様が先の街、つまり私たちの街に来るまで無事だったのは偏にあなたの存在あってこそ。そこには感謝しています。死んでしまっては元も子もないですから。ですが、この街につくまでの何度かの戦闘であなたはもう必要ないと判断いたしました。ここから先は私たちが勇者をフォローし、魔王討伐へと向かいます。この先あなたの力は不要です。ですので、あなたはここで、私たちに関わらず傭兵家業に戻ってください。」
「っていうか、魔法も使えない奴が勇者一行っていうのも気に食わないし、こっから先、あんたにばっかり魔物倒されたら僕たちの名声に傷がつくじゃないか。百歩譲って勇者と聖女は魔王討伐に必要だから許すけど正直それ以外は僕たちの邪魔でしかないんだよね。勇者と聖女の盾はあの出来損ない一人で十分」
「あらリリカ、そんな本当のことを言ってしまって……」
「魔法使えない奴に気を使って説得しようとしてもしょうがない。はっきり・簡潔に理由を説明して、それでも理解しないようなら排除すればいい」
「あなたって本当に魔法使えない人嫌いよね。でもそういうことなのでここでメンバーから外れるのが賢い選択だと思いますよ、傭兵ガルム。」
「嫌いとかそういう情すらない。道端の石は無視するけど目の前の邪魔する意思は排除するのが普通」
傭兵ガルムは困惑した。こちらを置いてけぼりで二人が話している内容にいろいろ突っ込みたいが、突っ込みどころが多すぎてどこから手を付ければいいのかわからないぐらいだった。
青年は二人にけなされていたと思うのだが、気づいていないのかそれともそれ以上に傭兵ガルムを追放したいのか勝ち誇った顔で傭兵ガルムを見ていた。
「そういうことだからなっ!おまえが泣こうが喚こうが、追放は決定だ! アイテム整理する時間ぐらいはくれてやるから、半鐘後にギルドの食堂まで持ってこい!! それから、聖女に言っても無駄だからな! あぁ、そのあとすぐ僕たちは街を出るがついてくるんじゃないぞ!! 」
これで聖女は僕のものだ! とか賢者と魔術師でハーレムだ! とか欲望丸出しで小躍りしながら去っていく青年とその青年を汚物を見る目で見ながらも後に続く賢者と魔術師を見ながら傭兵ガルムは彼らの多大なる勘違いのうち最も重要な一つを訂正した。最も3人には聞こえていないだろうが。
「俺、お前らの仲間じゃねぇんだけど……」
傭兵ガルムは彼らの勘違いを解けるのか?
がんばれガルム、負けるなガルム。
君を信じてくれる人がすぐそばにいるぞ!!
▼次回
「聖女様の恋情」
傭兵ガルムは彼女と真実の愛をつらぬけるか?!
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