アンドロイドに愛が分かるわけがない!
筑前 煮太朗
第1法則 扉は開かれた
街に溢れ返る人、人、人。その横にはアンドロイド。
「ご主人様、あまり人の顔を覗き込むのはマナー違反ですよ!」
もちろん、俺の横にも。
「はいはい」
俺は隣を歩くカノジョに適当な相槌を返し、空を見上げる。このいつも、そしてどこまでも晴れ渡る人工的な空が、途方もなく、空虚な気持ちにさせる。
大きなビルは規則正しく立ち並び、車は一定の間隔を空け、自動で走る。道路は自己修復機能を持ち、常に平坦、凹凸など何処にも見られない。
道端に植えられた木々は二酸化炭素を吸い、酸素を吐き出す人工木々で、その葉はどの季節になろうと青々と光を反射させる。
ベンチに座った老人は、介護用アンドロイドに見守られながら、その葉をニコニコと見つめていた。
世界はもう、アンドロイドに乗っ取られている。と、昔の偉い人は言った。それでも、人々はアンドロイドを手放さなかった。いや、もう手放せなかった。
端正な顔立ち、素晴らしいプロポーション、従順な性格。カレらカノジョらは、人々に愛される
俺、
実家を出る時に親から買ってもらったのが、俺の横を歩き、そして同居しているアンドロイド、RL-800。名をリーリヤ。
親に買って来なさいとお金を渡された1年前、俺は生まれて初めてアンドロイドショップに足を踏み入れた。
壁際のガラスの中には汎用型アンドロイドが並べられ、フロアの真ん中では展示用の業務特化型アンドロイドが料理を作り、その腕を惜しげもなく見せていた。
「いらっしゃいませ」
人となんら容姿は変わらない。ただカノジョの左手首に付けられた輪っか。その機械だけが、カノジョをアンドロイドだと認識させる。
「お探しものはございますか?」
接客用アンドロイドはその目をしっかりとこちらに向け、要望を聞いてくる。
「最新の汎用型アンドロイドですね。では、こちらになります」
カノジョが別のフロアに向かい前を歩き出した時、ガラスの中で箱に入り、目を閉じたメイド服姿のリーリヤと、俺は出会った。
大特価!RLシリーズ2世代前、120万円!NAME リーリヤ。
そう書かれ紙が貼られたガラスの向こう。そこで眠るカノジョは、それはもう綺麗だった。
髪色は白に近い白銀。その髪は肩口で切り揃えられ、美しく光を反射する。肌はきめ細やかで白く、薄いピンクの唇には穏やかな微笑みが浮かぶ。手は形よく、その指は細くしなやかで、傷1つなく身体の前で組まれていた。
雪の精霊。俺は子供の頃に読んだ御伽話を、ふと思い出す。
「……これにします」
俺は最新型を見ることもなく、接客用アンドロイドにカノジョを下さいと頼んでいた。
「こちらは確かにお安くなっておりますが、2世代前のモデルです。当店と致しましては、学生のお客様にはお勧めしかねます。というのも、この商品は返品返金、また交換も受け付けていないのです。それでもよろしいのですか?」
「はい」
俺のその言葉を聞くと接客用アンドロイドは「承りました。ありがとうございます」と一礼し、ガラスの鍵をタッチで解除する。
「起動まで、少々お待ちください」
そう言うとカノジョはガラスの戸を開け、リーリヤの左腕に付けられた輪っかにプラグを差し込み、スーツの胸ポケットから出した小さな端末と繋げると、なにか入力し始めた。
5分も経たないうちに、ピーと機械的な音が鳴ると、眠っていたカノジョはゆっくりと目を開く。
「おはようございます。ご主人様」
エメラルドのような色と輝きを持ったリーリヤの目が、俺を見つめ、微笑んだ。
「おはようござまいます……」
俺は女慣れしていないのもあるだろうが、つい情けなく挨拶してしまう。
それでも彼女は穏やかに、まるで俺の全てを許すように、微笑みを崩さない。これが人類の心を掴んで離さないアンドロイド……
「申し訳ありません。ただいま充電が切れております」
「……」
こうして、1年前、リーリヤと2人の生活は始まりを告げた。
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