第64話 リースロートの竜騎士


「リーダー!!」


外壁の頂上付近から誰かが冒険者のリーダーを呼ぶ声が聞こえる、声を聞き取った其の場に居た者達は其方を見た。すると外壁の上で冒険者の1人が叫んでいた。


「リーダー!橋の向こう岸に、ソレと同じ様なモンスターを2体確認しました!!」


「何!?」


リーダーと呼ばれたと思われる男性と数人の冒険者、其れと騎士風の鎧を纏った男女2人が走り出す。

メルラーナも釣られて、付いて行く様に走り出した。


あのモンスターが2体!?1体でも大変だったのに…2体は流石に。


外壁の頂上に辿り着くと、叫んでいた冒険者が出迎える。


「リーダー、彼処です。」

冒険者はリーダーに望遠鏡を手渡し、モンスターを視認した方角を指差す。

列車は既に其の場には無く、遙か彼方に列車の窓から漏れる明りが辛うじて見える。

メルラーナも其方を見てみるが、周囲は夜の闇で何も見えなかった。

線路の脇に等間隔で立っている電灯が線路を照らしてはいるが、モンスターの姿は見えない。

「見えないぞ?本当に居たのか?」

「はい、確かに、電灯の近くを歩いているのを確認しました。」


全員が線路を照らす明りを見渡す。


「!?リーダー!彼処!」

1人の冒険者が何かの影を見つけ、指を差す。リーダーは直ぐ様其方を望遠鏡で覗き込んだ。


「!?アレか!?…確かに似ているが、只のグレイターゾルと云う事は無いのか?」

リーダーの疑問は最もであった、只のモンスターの可能性もあるが、ソレにはグレイターゾルには無い筈の部位が有り、其の部位が異様に蠢いていたのだ。

騎士シグも自身の携帯していた望遠鏡を覗き込み、其の姿を確認する。


「間違いない、霧の魔物だ。」

シグの言葉にリーダーが反応する。


「きり?…霧の魔物だと?君は、いや、騎士達はあの魔物の存在を知っているのか?」

「………ああ、知っている。」

リーダーの質問にシグは口を苦くして答えた。

「な、何て事だ、あんな化け物を、国は認知していたと云う事か!?」

リーダーは怒りに身体が小刻みに震えていたが。


続けて。


「リーダー!こっちにも居たぞ!!」

別の冒険者がもう1体を発見する。


「…くっ!?本当に2体居るのか!?」


先程の1体は突然現われた少女が1人で討伐した様なものだ、我々では1体でも倒せないモンスターが2体も、しかし。


「迎撃用意!町に寄せ付けるな!」


「「「了解!!」」」

肚を括って戦う事を決めた。


「おい彼処!線路を誰かが走っているぞ!?」

「何だと!?」

此以上の問題は増やさないでくれ!


そんなリーダーの思いとは裏腹に、変わり果てたグレイターゾルから逃げている人が、町に向かって必死に走っている、此処からで表情は見えないのだが。


「くそっ!あの人物を保護しに行くぞ!動ける者は付いて来い!」


「あの!私も付いて行っていいですか?」


あの勇敢な少女が志願してくれた。

「有り難いが、大丈夫かい?疲れてはいないか?」

少女は大丈夫です!と言って頷く。

冒険者としては失格だろうな、誰かも解らない、其れも年端も行かない少女の力に頼る事になるとは…。


此処に騎士と冒険者、そして家系と身体能力から忘れがちだが一般人であるメルラーナの、不思議なパーティーが出来上がった。


破壊された門を潜り、橋の上を走り抜けるメルラーナ達の方に向かって、激しく息を切らせて走る男性と、其の男性を追いかけてくる2体のモンスターが、メルラーナ達の眼の前に姿を見せる。


リーダーは最初に逃げてきた男性を保護し、避難させた。

疲労しきった冒険者や騎士達は、残った力を振り絞ってモンスターに挑んだ。


メルラーナが先陣を切ってモンスターを牽制する。


2体同時に相手にするのは流石に無謀過ぎる、しかし橋の上では狭すぎて2体ずつを引き離す等、不可能である事は明白だった。

メルラーナは其の上で、敢えて1体を無視して片方のモンスターに仕掛けた。


「此の2体!さっきのモンスターより明らかに強い!?」


メルラーナの顔に焦りの表情が見える。

冒険者達も騎士の2人も限界が近付いていた。



オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!



「「!?」」


突然、上空から何か、獣が吠える時の咆哮の様な声が聞こえた。


メルラーナ達は眼の前にいるモンスターを気にしながら上空の様子を伺うと。


「ば、馬鹿な、…ア、アレは、竜…だと!?…ドラゴンか!?」

終わった、モンスターだけでも手に負えないと云うのに、ドラゴンだと?


冒険者達は此処に来て完全な敗北を覚悟する。


「おりゃあああああああああああああああああっ!!」


上空で次に聞こえたのは、人の叫び声であった、空から人が降って来たのだ。

暗くてどんな姿をしているかは解らなかったが、降ってきた人物は、其のままモンスターを真上から突っ込み、脳天を目掛けて足蹴にする、地面に叩き付ける様に、背中から倒れ込むモンスター、降って来た人物はモンスターを踏み台にして高く飛び上がると、空中で身体を捻り、華麗に着地した。


「ヘェ?本当にcategory4だよ、少佐殿の言っていた通りだな。」


降り立ったのは青く短い髪をした、赤い鎧を纏い、長い槍を肩に添えて2体のモンスターを睨み付けている若い少年だった。


「あの真紅の鎧、空から降りてきたと云う事は、あのドラゴン、アレに乗ってきたのか?…では、…だとしたら、あの少年、まさか。」

シグが少年の姿を見て驚いている。


赤い鎧の少年は、間髪入れずに持っている槍を構え、蹴り倒した方とは別のモンスターに突っ込む。

モンスターは少年を危険視したのか、迎撃態勢に入る…が。


「遅ぇよっ!!」


ザシュ!


モンスターの胸を、少年の槍が一突きで貫く。

だが此のモンスターをたった一撃で倒せる筈が無い事は、此の場に居る全員が解りきっていた事である、そして其れは槍を突き刺した本人である少年も認知している事でもある。


「…さっさと消えちまいな。」


そう一言呟くと。


ズドドドドドドドドドッ!!


槍先が見えなくなる程の速度で、何十、何百と、数え切れない突きが連続で繰り出される。


「「「!?」」」


留まる事を知らない突きは、徐々に速度が上がって行く。

最初は貫かれた傷が刺した先から再生されていったのだが、徐々に其の速度はモンスターの再生能力を上回り、削り取られ始めた。


そして、突き初めてから凡そ3分後…、モンスターは再生される事無く、粉々に散った。


ザワザワ。


周り響めきが止まらない。

少年は何も無かったかの様な表情で。


「まず一匹。」


ウガァァァァァッ!!


「おっと、仲間がやられて気でも狂ったか?」


少年目掛けて襲い掛かるモンスターの攻撃を、最小限の動きで躱す、躱す、躱す。


「オラッ!隙だらけだぜ!!」


ドシュ。


少年の槍が、もう1体のモンスターの腹部に突き刺さる。

再びあの連打が始まるのか?と思われたが。

少年は槍の柄を両手で握り、力を入れ、真上に向かって力一杯振り上げた。


モンスターの身体から槍が抜けると、遙か上空へ投げ飛ばされた。


少年は左手を天高く掲げ。


「トゥウェイル!」


グア。


上空で旋回しているドラゴンが、少年の声に呼応する様に答える。


「ブレス!!」


と叫んだ。


「ブレスだと!?ま、待て!其奴はフィアンマトゥリスを吸収した奴と同じモンスターだぞ!?」

冒険者達に先程の悪夢を思い出させる、が。


ドッカァァァァァンッ!!


「…は?」


上空で爆発が起きた。


あの少年、ブレスって云わなかったか?ドラゴンのブレスって、炎だろ?爆発したよな?どう云う事だ??


モンスターは木っ端微塵となって散り散りとなって消えて行った。


メルラーナを含め、其の場に居た全員が、まるで自身の目で見たものが幻覚でも見たのではないか?と云う様な表情で立ちすくんでいた。

其れもその筈、10人掛かりで行使した、第肆階級弌位の魔法ですら全く効かなかったと云うのに、ブレス一撃で粉々に砕け散った光景を目の当たりにした事で、夢でも見ているのではないのか?とまで思う者も出てくる程の驚きであった。

そんな中で、2人居る騎士の1人が少年の前に出て。


「あの、貴方は、リースロート王国から来られたのですか?」

そう少年に尋ねる。


「お兄さん、敬語は要らねぇですよ、俺はまだ16だし、畏まって喋られちゃ調子が狂っちまうっす。」

少年は騎士の質問に答えず、敬語で話すのを止めるように促した。


「あ、ああ、解った。」

じゅ!?16だって!?先程の少女といい、此の少年といい、一体何がどうなったら其の若さであれだけの強さを…?


「あざっす、じゃ、質問の答えっすね?お兄さんの想像通り、俺はリースロートから欠片のモンスター…ああ、貴方方には霧の魔物、と呼んだ方が馴染みがありますね、其の霧の魔物の討伐を任されたっす。

当方、リースロート王国軍、火竜騎士団・第七師団所属、第九一三きゅういちさん小隊小隊長、ハシュレート=ドーントロス中尉と申します、以後お見知り置きを。」


周りのざわめきが更に騒々しくなる。


「や、やはり、リースロートの竜騎士。」

其れに、少尉と言ったか?騎士階級は通常ならば貴族階級、爵位と併用しているものだが、リースロートは違うのか?まさか軍階級とは…。


「自分より年下で自分より強いのが気に成りますか?」

う!?顔に出ていたか?まるで心を読まれた様な気分だ。

「云っておきますけど、俺の小隊が所属している大隊の隊長は、今確か12才で、俺より遙かに強いですよ。」


「「「…なっ!?」」」


周囲が驚きを隠せないのを余所に、竜騎士ハシュレートは。


「さて、自己紹介も済んだ事だし。」


そう言ってメルラーナの前まで進み、地面に膝を付いた。


「メルラーナ嬢、お迎えに上がりました。」


「…はい?」


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