第53話 地下大神殿・第四層・常闇の森



ギュレイゾル達が巨神ローゼスを埋葬している間、メルラーナとリゼ、そして冒険者達は、3メートルはある長身の、背中に翼が生えた青い肌をした魔人に案内され、地下大神殿第四層・常闇の森まで降りてきていた。



「…な、…なんじゃこりゃー!?」

メルラーナを含め、初めて来た者達の略全員がそう叫んでいたと云う。


抑も、四層への降り方が衝撃的であった、一層と同じく、冒険者や魔人達が全員乗っても有り余る程の巨大な台座が有り、其れに乗る所までは同じだったのだが、台座自体が何かに固定されている訳では無く、宙に浮いていたのだ。

垂直にゆっくりと降りる台座は、一切の振動が無く、静かに降下して行く、周囲では冒険者達の会話の声だけが聞こえていた。


降り始めてから一時間程が経過した頃、辺りの気温が下がって来ている事に気付く。

「さ、寒い。」

冒険者の誰かがそう呟いて居るのが聞こえた、最初はひんやりとした空気が肌を撫でる様な涼しげな感覚だったのが、降りていく程に段々と気温が下がって行き、肌寒く成って来ていた。

メルラーナ自身は寒いのに多少は成れている、まさか其の理由が、自身が魔人であったと云う事実から来ているものだったとは、今までは知る由も無かった。


更に暫く降りて行くと、急に眼の前に巨大な空間が現われた、巨大、と云う表現は恐らく間違っているだろう、三層と同様で広すぎて大きさが解らないのだ。

只、辺りは暗く、先が全く見えない、底の方から淡い光が周囲を照らし、冷たい空気が木々の匂いと共に、風に乗って吹き抜けて来る。


底に近付くにつれ、辺りが明るくなってきた、発光源の解らない青白い光が周囲を染めている。

台座がゆっくりと底に辿り着き停止したのを見計らって、数人の魔人が先に降り、散らばる、辺りを警戒しているのだろう、ギュレイゾルに指示をされていた魔人の1人がリゼの手を取り、台座から降りる様に付き添う、魔人はメルラーナに付いてくる様に促し、冒険者達と共に台座から降りたのだった。


「こ、此が、常闇の森…?」


メルラーナが呟く、以前、リゼが言っていた言葉を思い出し、風景を照らし合わせていた。


大きな木に真っ暗な空、遠くには壁の様なものが見え…なかった、遠すぎるのだろうか?其の上、此の暗さだ、普通の人間の眼には見える筈は無い、リゼの眼には見えるのだろう。


魔人達が移動を開始し始めた、リゼの住む町?に向かうのだそうだ。

メルラーナと冒険者達は、魔人に付いて行く。

此までとは打って変わって、道と云う道が無く、巨大な大木から伸びる木の根が地面を割って出て来ており、歩き難い事この上ない、其の上森の中は湿気が強く、木々や根には苔が生い茂っていた、其の苔を踏み乍ら歩く訳だが、此が兎に角よく滑る、気を抜けば滑って転んでしまいそうだ…。


ズル。

「キャア!」

ドサ。

思っていた矢先に、足下を滑らせ地面に尻餅を突くメルラーナ。

「い…たた。」

「大丈夫か?」

アンバーが手を差し伸べ、其の手を握ると引っ張り上げて助け起こしてくれた。

「はい、有り難うございます。」

「なに、あれだけの激戦を繰り広げたのだ、本当ならばもう少し休んでいてもよかった位だろう。」

そう言ってメルラーナの斜め後ろに位置取りを変え、再び歩き出す。


魔人達は此処で生活しているから普通に移動しているがこういった場所にも慣れているのだろうか、冒険者達の足取りは軽く、難なく歩いている、リゼに至っては久しぶりの森にはしゃいで居た程だ、此の中で苦労して歩いているのはメルラーナだけであった。


暗く湿った森の中を歩く事小一時間、辺りの青い光が強くなってきた、進む先を見ると、其の光が更に強くなって周囲を照らしているのが解る、足下は更に湿ってきており。


パシャ。

「ん?パシャ?」

と、まるで水溜りを踏んだ時の様な音が、メルラーナの耳に飛び込んで来た、足下を見ると、思っていた通りの水溜まりに足を突っ込んでいる、しかし其れはずっと先まで続いており、進むにつれて段々深くなってきた。

「え?川?」

だが流れている気配は無い。

「い、池?」

と呟いた時。


「此処から先は船に乗って移動する。」

先を歩いていた魔人達が何時の間にか止まって、メルラーナと冒険者達を待っていた、其処には7~8人が乗れる程の大きさの船が10隻以上、木にロープを縛り付けられ、水の上に浮かんでいる。


此処から先が湖と云う事なのだろうが、想像していた湖とは全く違うものだった、多少は少なくなってはいるが、見える範囲でだが大木はずっと先まで立っている、リゼに聞いていた通り、水から光が漏れていて、周囲はハッキリと見える程に明るい。


言われるがままに船に乗り込むメルラーナと冒険者達、水面を覗き込むと、水その物が光っているのでは無く、底が光っている様に見える、船に乗って更に進んで行くが、湖の水面から突き出す木々が無くなる事は無く、其れ処か一本一本が太く、高くなっている、更に湖の底は段々深くなっていた、湖の中に生えている木の方が成長している、と云う事なのだろうか。


船に乗って移動し始めてから2時間程が経過した頃。

一本の木の太さは既に船を横に3隻程並べて、同じ位の大きさになっていた。


「おうちだー!」


リゼが唐突に叫び出す。

着いたのか思い、メルラーナは周りを見るが、其れらしき物は無かった。


ああ、木の上に家があるって言ってたっけ?

リゼが言っていた言葉を思い出し、空を見上げると。


「ふぁぁっ!?」

思わず変な声を上げてしまった、其の声に釣られて冒険者達が各々に空を見上げると。


巨大な大木を利用して、木々の上に作られた無数の家が建てられていた。


「おお。」

「こ、此が魔人の集落なのだ?」

「す、すげぇ。」

「綺麗…。」

「エルフの森の集落みたい。」

「それよりでかいだろ、規模が違うぜ。」

「青い光に照らされテ、妖しさを全開にしているナ。」


見上げると、大木の遙か高い場所に、木材で作られた小屋の様な建物が見える、真上に見える建物は、足場と思わしき木で遮られて視難いが、此処から繋がった橋の様な物の先にある、周りの大木に眼を移すと、辺り一帯には大小様々な家々が無数にあり、巨大な集落を形成していた。


冒険者達が感想に浸り、思い思いの事を口走っている中、一本の大木の水面に作られた船着き場が見えて来た、集落に上がれる場所は此処だけなのだそうだ。

それぞれの船を連結させて船着き場に止める。


「成程、船通しを繋いで其れを渡って船着き場に上がるのだな?」

納得したアンバーは、連結している船と船の間を渡り、船着き場へと向かう、他の冒険者達も其れに習い、次々と移動を開始した、全員が船着き場へと上がると、魔人は大木を指差し。


「彼処から上へと登って来い。」

差した先を見ると、階段が設置されており、大木を巻き込む様に螺旋を描いて上へ上へと続いている、其の幅は、人1人が漸く通れる程の広さで、手すりが無く、足下をすくわれると忽ち湖まで急降下してしまう作りになっていた。


「こ、此登るの?…此は一寸…怖いかも?」

「こいつぁ、侵入者対策って所だろうナ。」

下から見た限りでは、あの集落のある高さまでは200メートル以上はあるだろう、空からの侵入は何かしらの対策がされているとして、下からの侵入は此処からしか出来ない、大勢で来られても一気には通れないし、勢いよく行進すれば下手をしたら落下する事になるだろう、所謂難攻不落と云うやつだ。


メルラーナは階段を一歩一歩、滑らない様に確実に踏みしめ、恐る恐る登って行く。

階段の上り初めて、集落まで後半分程の所まで来た時、何を思ったのか、メルラーナはふと下を覗き込んだ。


「ひっ!」

小さな悲鳴を上げる。


飛竜に乗った時と比べれば何という事の無い高さの筈なのだが、あの時は飛竜に跨がっていたし、エアルにしがみついていたので恐怖心はあったものの、同時に安心感もあった、だが今は手を掴む場所は無く、座る事も出来ない、更には自身が先へと進まないと後から来ている人達が止まってしまう、此処に居る者達は別に急かしている訳では無いのだが、勝手に急がないといけないと云う思い込みに追い詰められて、勝手に恐怖心に襲われてしまったのだった。


「こ、こんなの、モンスターと戦ってる時の方が全然怖くないよぅ。」

等と愚痴を言い乍ら、其れでも一歩一歩足を運び、進むのであった。

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