第26話 ソードガントレット改め…

クロムウェルハイド工房内に有る診療所でメルラーナは医者の手によって治療を施されていた、入院している間に冒険者達は目的のミスリル装備を手に入れメルラーナに挨拶に来た後、この地を去って行った、ソルアーノ国初の8次席パーティーを実現させるそうだ、鉱山での戦いから3日経ち、漸く診療所から出る事を許されたメルラーナは、デューテの元を訪れた。




「デューテ御爺ちゃん?居る?」




作業場を覗き込みデューテに声を掛ける。




「ほっほっ!メルちゃん、もう身体はいいのかの?」




何かを製作中だったのか、低い椅子に腰を掛けたまま此方を振り向き応対して来た。




「うん、もうすっかり…って、其れ、私の?」




デューテの前の作業台の上には自分のソードガントレットが置かれていた。




「ほっほっ、そうじゃよ。」


「まだ時間掛りそう?」




ソードガントレットを預けてからもう4日目に為る、これ程時間が掛る物なのかと思い、思わず声に出してしまった。




「ほっほっ、もうとっくに出来とるよ、君が鉱山に潜っている間にの。」


「え?じゃあ今作ってるのは?」


「ほっほっ、いや、メルちゃんが入院中に色々と改造しとったのよ、ほれ付けてみるんじゃよ。」




そう言ってソードガントレットをメルラーナに差し出すと、其れを付け様と手に取る。




「え?少し重い?」


「ほっほっ、当然じゃよ、只の金属の刃からオリハルコン(アダマンタイト)の刃に変わったんじゃもん。」




成程、と納得して新しく成ったソードガントレットを装着してみる。




「…う、何か、付けてみるとより重く感じるかも、それに、少し大きく成った?」


「ほっほっ、篭手はやはり篭手じゃからのう、盾とまではいかんが幅を広げて守れる面積を広くしといたのじゃよ、余り重すぎても支障が出るからのう、もう少し軽くしちゃう?」




腕を大きく左右上下に振り、腕に負担が掛らないか確かめる。




「ううん、大丈夫そう、何か筋力が付きそうだけど。」


「ほっほっ、了解じゃ、では其のままにしておこう。」


(ほっほっ、実は重く成った理由はそれだけじゃなくて篭手にもアダマンタイトを仕込んでおいたのじゃ、防御面も大事じゃからのう、メルちゃんには黙っとこ。)




一度篭手の鉄の部位を溶かし再度鍛え直して2枚の板を作り、間にアダマンタイトを板状にした物を挟んで鍛え直す、更に其れを折り返し鍛錬をする事で硬度を上げる、純正のアダマンタイト程の硬度は無いが鉄製の防具よりは遥かに硬くなっていた。




「ほっほっ、刃を出すギミックじゃがのう、親指と薬指の先と合わせる様に2回叩くのじゃ。」




言われた通りに両手の親指を薬指の先を2回、合わせてみる、コンコンと小さな金属を叩く音がした瞬間、ガシャン!と云う音と共に刃が飛び出した。




「おお!?」




刃はまるで宝石のエメラルドを思わせる様、緑銀色の美しい輝きを放っていた。




「………綺麗。」




メルラーナは其の美しい輝きに思わず見惚れてしまう。




「ほっほっ、あ、因みに手首を外側へ逸らした状態じゃと刃の出るギミック自体が動かないから安心していいんじゃよ。」


「おお!?前のは其れをしたら刃が引っかかって後で大変だったんだ!良かった!」


「ほっほっ、喜んで貰えて何よりじゃ、ほいじゃ他のギミックについても説明しておくかの、まずは刃の仕舞い方じゃ、前の刃を出すギミックを其のまま仕舞い込むように改造しておいた、やってみるのじゃよ。」




顎を引き、頷いて試してみる、小指を手の平にある小さな穴にはめ込み、押し上げると、出した時と同様、ガシャン、と云う音を立てて篭手の中に納まって行った。


「おお!」


「ほっほっ!次はのぅ!」




ま、まだあるのか、いったいどれだけ仕込んだの?そんな事を思い乍ら苦笑いを浮かべてしっかりと最後まで聞くのであった、腕の甲冑が広がるギミックと飛び道具が仕込まれたギミックを教えられた、飛び道具と言っても弾は空気らしく、装填の必要が無い素晴らしい装置だった、遠当ての代わりに使えるかも、遠当てって何気に疲れるからなぁ、全身をねじ込まなきゃいけないし威力が弱いし、お父さん位に成れば使い勝手がいいんだろうけど、私のじゃなぁ。




そして最後に教わったギミックは。




「ほっほっ、一応付けてみたんじゃが、腕の裏側の中央付近に摘み様なスイッチがあるじゃろ?」




確かめると確かに摘まめる部位が存在し、更に摘みの先に穴が空いていた、此れは?と尋ねると。




「ほっほっ、これはフックショットと言っての、ハンターギルドに所属しとる奴らがよく好んで使っておる装置じゃが、其のスイッチを摘まむと穴の部分からワイヤーフックが飛び出して標的に刺さるのじゃ、ワイヤーが出ている状態でもう一度摘まむと戻って来る、摘まむ強さで戻って来る速度を調整出来るのじゃ、此れで遠くの物を引き寄せたり、自身の移動にも使えるのじゃ、実は言うと改造前にも機能としては搭載しておったんじゃが、壊れておってのう、今回を機に修理と使用し易くしておいたんじゃ、ほれ、メルちゃんが言うとった、ガウ=フォルネスが財布を取り返した時の行動、それで思い出したんじゃよ。」




メルラーナは瞳を大きく見開き驚いた様子で。




「そんなの、付いてたんだ、知らなかった。」




更に何か思いだした様に、急に浮かない表情になり少し考え込んだ。




「ど、どうしたんじゃ?」




メルラーナの表情が暗くなったのを見たデューテはオロオロし乍ら心配になって声を掛ける。




「…ねぇ、デューテ御爺ちゃん?」


「ほっ?」


「ガウ=フォルネスって、………何なの?」




鉱山に入ってから、あの巨人と戦ってる最中まで、一切姿を現さなかった、宿主を守ってる訳じゃないの?あの時、出て来てくれなかったら間違いなく殺されていた、死の直前までは出て来ない?ううん、そんな事ない、此れまではそう云う状況に追い込まれなくても出て来てくれていた、では何故?もしかして試されたとか?




「ほっほっ、神器は専門外じゃからのぅ、儂には解らんのう、しかも見た目が水の塊ではのう、完全に儂の理解を越えた、正に超常の存在じゃもの、まるで魔法じゃわい、もう何が何やら、兎に角、解らぬものを何時までも考えていてもしょうがないのではないかの?今は心に留めておく位にしておいた方がいいんじゃない?まだ旅路の先は長いんじゃし。」


「う、うん」




険しい表情をして渋々頷く。


(無理矢理自分を納得させた感じじゃの?仕方ないのう、解らない事を解らないまま先へ進むのは不安じゃろう、ジルの奴、何時まで放っておくつもりじゃ?)


メルラーナは大きく頭を左右に振り、深呼吸をし、頷いた。




「うん、此の解らない事だらけの状況を教えて貰う為にリースロート王国へ行くんだもんね、サーラさんって人に会えば全て解るって言ってたし。」


「ほっ?サーラちゃんに?…ほっほっ、成程のう。」




以外な所を突っ込んで来たデューテは、何故か妙に納得をした表情をしていた、メルラーナは少し疑問を抱く。




「デューテ御爺ちゃん、サーラさんって人知ってるの?」


「ほっほっ、知っておるよ、何度か此処を訪れて来た事もあるしのう、何より、リースロートでは其の人を知らぬ者は居まい。」




な、何ですと!?そ、そんなに有名人なのか!?て事は行けば直ぐに解るのかな?これは、少し幸先が良く成ったかも?知れない…?て云うかお父さん、サーラさんって何者か位教えて置いてくれても良かったんじゃないでしょうかねぇ?いやホント、こちとら訳が解らない状況に放り込まれて混乱しかしてないのに、何か、そんな事を考えてると段々と肚が足って来た。


(ほっ?…こ、…此れは、ひょっとして?怒ってらっしゃったりなんかしちゃったりしてる?と、止めないとヤバいのでは?)


溜まっていたものが噴き出す様に表情が険しく…成って…?な?何か、笑ってる?




「ふふ、ふふふ、ふふふふふ。」




何やら物凄く満面の笑みを浮かべて嗤っていた。


(あ、コレ、あかんヤツじゃ、怖い。)




「ほっ!?そ、そーじゃ!!メルちゃん、ソイツに名前を付けてやってくれんかの?」


「ふふふ、…ふ?…え?な、名前?」


「そう名前じゃ、ソイツは君の為に作られた君の篭手じゃ、因みにじゃが、もう其の篭手はソードガントレットでは無く、何方かと云えばシールドブレードに近しい装備と成っとる、まぁ中間かの?敢て分類分けをするなら、ソードガントレット改め…、エスクレットブレード、と云う種類の防具にさせて貰おうかの。」


「…エクスレットブレード?」




嗤いが止まり、聞き為れない言葉に少し困惑する。




「ほっほっ、エクスはエクスード、盾の意味を持つ言葉じゃ、レットはガントレットから其のまま引用してみたんじゃが。」


「エクスレットブレード…、私の…篭手、…そっか、…名前、名前かー。」




篭手に視線を落とすと、素直に名前を考え込み始めるメルラーナ。




(ほっ、良かったのじゃ、止まったみたいじゃ。)


「名前かー、うーん、難しいなー。」


「ほっほっ、外の空気でも吸いながらじっくり考えるといいんじゃよ。」




と云う訳で、外に出て来た訳だが、何も思い付かない、武器の名前、いや篭手か、の名前なんて考えた事も無いしなー。




ヒュオー




急に冷たい風が頬を撫でる。




「ひっ、さ、寒い。」




薄着で出て来た訳では無いのだが、大分冷える、高い所は気温が下がるって聞いた事あるけど。




「………あれ?そう云えば、此処って山の中腹って言ってなかったけ?」




おかしい、雲の上まで来てるのに中腹?、こ、この山どれだけ高いんだ?ふと空を見上げる、澄んだ空気に真っ青な空そして、頂上の見えない絶壁の様な山が見える、山を見上げて惚けていると。




「高いなー、何処まで続いてるんだろう、…ラスタールとラスティールって名前似てるよね?似せたのかな?うーん、似せるかー、ラスティ、そのまんまだな、ラタール?変だな、ラ、ラ、………ん?…似せる?」




ふと脳裏に何かが過る、あの時確か、盾を拾ってから、フォルちゃんが出て来て、出て来てくれたのは良かったんだけど、全然攻撃が出来なかった、…もしかして、拾ったのが盾だったから?盾だと防御に徹してると攻撃が出来ない訳で、それに私自身が盾で攻撃する術を知らない訳だから?だから攻撃に転じ様と前に出た時に急に衝撃を受けた?持っている物に対して能力が変化するって事?でも小剣を持ってた時は何も起きなかった、つまり武器じゃ無い?まさか、…盾?ううん。




ひょっとして、フォルちゃんって、………防具?




全て想像からの発想だけど、何となく、そんな気がした、思い出したら肚が足って来たけどデューテ御爺ちゃんの言う通り、今はまだ触れないでおこう、それよりも名前かー。




(エクスレットブレード…だっけ?とラスタールを合わせてみる?エクスラスタ?ラスエクス?うーん、ラスレット?エクスタール??何か違うな?二つの名前を合わせてるだけだからかな?何より可愛く無いし)




工房の外壁通路を彷徨い乍らふとデューテの言葉を思いだす。




(私の篭手、…か、自分の名前から取ってみる?ラーナ…とか?…何か変な感じだな、トゥルーネームは流石に色々と拙いだろうし、ファミリーネームとか?ユース、ファスト?ファスタル?…ファル、…お?いいかも?いいねファル、フォルちゃんと似てて。)




両手を空に掲げ身に着けた篭手を見つめる。


「今日から君はファル、宜しくね。」








第2章 ラスティールの鼓動   FIN

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