異次元の英雄は何を見るのか?

一ツ柳八重

第1話 導き

 全ては今この時から始まったのかもしれない。

 夏樹裕、17歳、高校二年生なのは年齢から簡単に想像がつくだろう。

 髪は今どき珍しく長髪で、無地のTシャツ、ジーパンにジャケットと言ういたって平凡ないで立ちだ。

 さて、ここで冒頭に戻ろう。

 全てはここから始まったとはどうゆう事なのか。

 今、僕が置かれている状況はこうだ。

 周りは岩に囲まれており、薄暗く湿っている。脚の裏から感じるのはごつごつして痛い地面の感触に、どこか息苦しくなるような煙が穴の奥から漂ってくる。周りに光源は特になく、ただ明かりがあるとすれば、煙の先何だろう。


「けほけほ」


 その場でせき込むのも仕方がない。

 とめどなく煙がこちらに流れてきている。

 後ろに出口があるのでは? と思う事だろう。

 ない。

 断じて後ろには出口は存在しない。では煙はどこに流れているのか?

 後ろの岩肌に、小さい通気口があるのだ。そこに向かってこの煙は流れている。


「何とかしてこの状態を打開しなければいけない」


 この状態に追い込まれたのは一種の不運だ。

 僕は、長年人が居ない世界に居た。一人だけでその世界に存在したのだ。

 そこは暗くはなく、沢山の花が咲き、果物は自然に実り、川は透き通っていて魚も気持ちよく泳いでいた。日の光は温かく、でも雨は降らず、台風もこない。そんな平和な空間。

 その世界の壁を壊した人が居た。その人は悪魔の力を借り、世界の間を人の命と引き換えに壊したのだ。

 そう、一般的に言う外の世界。悪魔と契約することでしかたどり着けない高次元の世界。

 一瞬にして、空に亀裂が入り、川は血が流れ、魚は死に、草木は黒く染まり、果実は禍々しい奇声を発するようになった。

 そして、僕の耳に声が聞こえ、導かれるまま歩いた結果が、この洞窟にたどり着くという事だった。

 疑問に思った事だろう。そんな人がなぜ高校二年生と分かったのか、と。

 次元の亀裂を渡った瞬間、記憶の補填が行われたのだ。この世界の基本事項と言う物なのだろう。そう解釈した。

 だからこそ、自分が別次元から来たと認識できたのかもしれない。


「とりあえず向こうに行かないと」


 だんだんと苦しくなってきたので、洞窟を進むことを決意する。

 身体をかがめながら、一歩ずつ歩みを進める。

 どこの誰かは知らないが、この世界に呼んだ人が居るはず。声をかけてくれた人がどこかに。

 一歩一歩進むほどに熱さまで感じ、肺と言うのだろうか? 胸のあたりがチリチリと痛みを感じるようになってきた。

 だんだん、オレンジ色の光が強くなってきており、歩いている地面は熱された鉄板のように、感じる程だ。

 壁はところどころ溶けており、上から溶けたものが垂れてくる場所まである始末。


「も、もうこれ死ぬのかもしれない」


 そもそも、この劣悪、死刑宣告された人のような感覚になるのもおかしい事だが、実際人間だと間違いなく死んでいるのだろうと、知識が語りかけてくる。

 それでも、発光源に向かって歩みを進める。

 脚は感覚を失くし、ただ擦りながら、削りながら進んだ。

 壁は触れないから、地面に倒れないよう意識しながら。

 そう言えば服は燃えてない。

 身体だけ燃えている感覚だ。

 それでも歩みを止めず、意識が朦朧としてきた時、目の前が開けた。

 そこは、ドーム状になっており、反対側まで3キロ位あるだろうと認識できた。

 来る道は溶けていたはずなのに、この場所はそこも溶けておらず、溶けているどころかキラキラと輝く鉱石が辺りを覆っていた。

 その光景は初めて見る光景で、神秘的とまで思えるほどだった。

 その中央に、台座があり、その周りは更に鉱石が生えているように見えるほどの空間だ。

 そこが答えなのだと感じ取り、もう動かないであろう足を無理に引きずりながらその場所の前に行き、台座に上がった。

 そこには一振りの剣が刺さっていた。

 全てが黒かったその剣は、誰かが来ることをずっと待っていたのだ、と感じた。

 ここにたどり着いた僕はその場で倒れ込み、そっと目を閉じる。

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