きっと差し伸べる手を元カノは振り払う
にわとり。
0-1 元カノジョは再会に憂う
薄暗い夜道。
俺は整理しきれない心を落ち着かせるために、おもむろに外を彷徨っていた。
シャワーを浴びれば多少は気がまぎれると思ったが、そう簡単には忘れらるはずもない。頭に浮かんだのは、今日の放課後のことだった。
端的に言えば、俺は失恋をした。
同じクラスの女子で仲が良かった西宮だ。趣味が一緒で良く話をしていた。
長く綺麗なロングヘアと、しっかりとした性格で時折みせる優しい笑顔に気付けば好きになってしまっていた。振られた理由は「好きじゃない」
その一言だった。
「……寒っ」
三月下旬ということもあってか、怖いぐらいにひんやりとした風が肌をなぞった。
「…コンビニか」
ふと、前を見てみるといつもお世話になっているコンビニが暗い夜道をぼんやりと照らしているのがみえた。
せっかくだしなんか買って帰るか。俺はそう思い、つかつかとおぼろげに光る店へと足を進めた。
やがて店内へと入った俺はまっすぐ食品コーナーに向かった。そしておにぎりやパン、カップ麺などといったものを適当に眺める。期間限定の商品などもありどれも美味しそうだった。
「あれ?伊槻じゃん」
「…ん?」
どれにしようかと頭を悩ませていると不意に横から俺の名前を呼ぶ声がしたので俺はそちらへと顔を向けた。
「和奏か?久しぶりだな…」
「うーす、てかほんとに久しぶりだね」
みるとそこにはざっと一年振りの顔が映った。パッと見男のような短くさっぱりした髪型と女性らしい綺麗な出で立ちがそこにはあった。
灰色のパーカーに黒いズボンを着ており、いかにも部屋着にっぽい服装だ。
「…なんかあった?」
「いや、特に何も。なんでだ?」
「なんか、元気無さそうに見える」
静かに放たれた言葉に俺は心の中を見透かされたような気がして思わず肩をぴくりと震わせてしまった。どこか探るような眼差しとその声音の中には、心配が含まれているのが分かったが教える程の義理は無い。そもそもこいつには、関係のないことだ。
「……別に。それより何か買いに来たんじゃないのか」
「あ、そうだ。紅鮭は__とあった、あった」
和奏は少し背伸びをしながら目的のものを手に取るとそれをひょいっとかごに入れた。
なんとなく居心地が悪くなり早く立ち去ろうと考えた俺は、さっとカップ麺を手に取り、会計をしてもらおうと矢継ぎ早にレジに並ぼうとしたが…「ねぇ…」と呼び止められた。
「せっかくだし、ちょっと話さない?」
「…はぁ?」
和奏はそんなことを言ってあははとおどけて笑うのだった。
コンビニの入り口の脇で俺達は、おにぎりをほおばっていた。
というのも、話をしながらじゃカップ麺は食えないってことでやむなく俺もツナマヨのおにぎりを購入した。…久々に食うと美味いな、これ。
って、そうじゃなくて。
俺は隣に人一人分くらいのスペースを空け、同じようにもぐもぐと咀嚼している和奏に話しかけた。
「結局話ってのはなんなんだ?」
…ってかご飯粒ほっぺにくっついてんだけど。
「あー、最近学校どうなのかなーって」
若干ためらいがちにどこか遠く前を向いたまま、聞いてきた。
「…割と、うまくいってるよ」
「本当かなあ」
「うっせ。別に関係ないだろ」
「まあ、実際そうなんだけどさ」
俺がぶっきらぼうにそう答えると飄々と和奏はそれをさらりと受け流した……いや、聞いたのそっちじゃん。あ、ご飯粒気付いたのね。ならいいわ。
「好きな子に振られでもしたのかなあって」
「……っ」
「あ、図星っぽい。あはは、わっかりやすいなあ」
急に核心をつく一言に俺は動揺を隠し通すことが出来ずそして和奏は再び肩を震わせた。…この野郎
「……けどそういうところ変わってないね」
「どういうと__」
どういうところだとツッコミがちに聞こうと思ったが、その言葉は白い息となって消え失せていった。
なぜなら、ほんの一瞬だけ和奏の表情が陰りその瞳には深い悲しみと黒く淀んだみたいな憂いが混ざったような色が浮かんでいたからだ。その目は、ただただ前を見据えていた。
俺は返す言葉を失い、その横顔に見惚れて思考を奪われる。静かに和奏の髪が揺れ、そしてゆっくりと目が合った。
「キスでもする?」
「はぁ!?」
俺は思わず声が大きくなってしまった。何を言ってんだこいつは。昔から俺をからかうようなヤツではあったがこんなことは決して言わなかった。女子特有の感覚かとも思ったがそんなことは絶対にない。
「ごめん、ごめん嘘だよ」
「ったく、そういうの冗談でもやめろよな」
呆れるように俺がそう言うと、和奏は俺に一歩詰め寄り首に手を回してきた。
「ねえ、今の私どう見える?」
「な、なに言って…」
離れようとしたがその、挑発的な、そしてどこか魅惑的な目線に生唾を飲み込んだ。
「幸せってなんだろ」
パッと手を放し、俺を解放したかと思えばぼそりとそう確かに呟いた。
「え?」
「なんか変な気分になっちゃたなぁ…そろそろ帰るね。じゃあまた」
「えぇ、いやちょっ」
俺が戸惑っていると和奏は最後の一口を口の中へ放り込み、ごみを袋の中へ無造作に突っ込んでそれを持ってすたすたと帰ってしまった。俺は、不審に思いながらもただ呆然とその場に立ち尽くすしかなく、その背中を目で追うことしか出来なかった。___俺の元カノは変わってしまったのだろうか。
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