青銀の魔法術士

ねうねう

第1話 目覚めと記憶喪失

 トンとドアを閉める音が聞こえ目が覚める。

 どうや寝てしまっていたらしい、寝ぼけ眼を擦りながら体を起こす。ぱっと周囲が明るくなり、どうやら自分が屋内で寝ていたことに気づいた。「あら、目が覚めたんですね」―と声のするほうへ目を向けるとそこには紺を基調とした付け下げに、白いフリルの前掛けを身につけた黒い長髪の女性が立っていた。寝起きのせいか頭がぼんやりとし状況が理解できないままぼうっとしていると女性は持っていた盆を近くの机に置いてドアを閉めた。うまく言葉が出ずにしどろもどろとしていると女性が状況を説明してくれた。どうやら自分は傷だらけで倒れていたところを助けられてらしい。助けられた日から一日中寝たきりだったようだ。そう教えられたせいか心なしか体がだるく感じ体中が痛む。


「丁度良かったです、お粥を持ってきたので食べてください、一日中寝たきりだったのでお腹空いてるんじゃないですか?」


お椀にお粥をつぎ、お椀と木製のスプーンを一緒にこちらにさしだしてきた。渡されたお椀とスプーンをうけとりふうふうと息でさました後一口食べる。塩のしょっぱさと卵の甘さが丁度良く合わさり食欲をそそる。お椀につがれたお粥を食べ終えお椀とスプーンを近くに置く。


「寝起きで悪いのですが、聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

「はい、なんですか?」

「先ほど傷だらけで倒れていたと言いましたがそのことについてなのですが、あなたを助けた方が言うには森の中で倒れていたそうです。覚えていますか?」


女性から聞かれた質問に全く心当たりがない、思い出せることが無かったため覚えていないと答える。「分かりました、お粥を食べ終えたら机に置いておいてくださいね」そう言い残し女性は部屋を出て行った。


 食事を終え布団で横になっていると先ほど部屋に来た女性が入ってきた。今度は先ほどの女生以外にも男性が一緒に部屋に入ってくる。男性は赤髪のショートヘアで栗色の長着を着ている。深紅の瞳で釣り目をしており顎のあたりに少し傷がある。男性が部屋に入った後女性はドアを閉め男性の隣に座る。


「嬢ちゃん目が覚めたか。よかったよかった」

「アサギさん、その子女の子じゃなくて男の子です……」

「嘘だろっ!?すげぇな……どっからどう見ても女にしか見えねぇぞ。よくわかったな?」

「いえ、その……傷だらけで血が多く付いていたので着替えさせるときに下着も替えてあげようと……」

「そっか、なぁお前さん何も覚えてねぇのか?格好的に異国の貴族ってのかと思ったんだが」

「はい……なんとか思い出そうとしたんですが、全く思い出せなくて」

「髪の色は異国人の特徴とそっくりなんだがな……」


髪を指摘され気になり指で少し触る、感触で髪が長いとわかり髪を確認するために摘まんでいた髪を

見ると髪は銀色で光の当たっている部分が僅かに青色になっている。


「あの……服はどうしたんですか?」

「すみません、かなりぼろぼろになっていたので、直そうとしたんですが高度な技術が使われているようで直せませんでした。ごめんなさいね」

「自己紹介がまだでしたね、私はイチカといいます、ここの一階にある万組舎よろずくみしゃで受付や事務を担当しています」

「俺はアサギだ、お前さんの名前は?」


名前を聞かれ答えようとするがいくら考えても自分の名前が出てこずどう答えるべきかなやんでいるとアサギと名乗った男は私に「名前がわからないのか?」と聞かれたため頷き返事をする。するとアサギと名乗った男は思案にふけり始め、しばらくして考えが纏まったのかこちらに視線を戻す。


「これから記憶の戻る間でいいんだが名前がないと不便だろ?お前さんに合いそうな名前を考えたんだがナグサってのはどうだ?」

「ナグサ、ですか」

「ああ、お前さんの髪の色に似た花で同じ名前のものがあったのをおもいだしてな」


アサギの提案した名前以外に良いものが思い浮かばなかったためアサギの考えてくれた名前を受け入れ頷き返事をする。


「それとナグサ、いきなりで悪いんだが万屋よろずやに登録して働かないか?」

「万屋ってなんですか?」

「万屋ってのは魔獣の討伐やほかの町や国に行く連中を魔獣が襲わないように守ったりする仕事だ、これ以外にも薬草や魔獣の素材を集めたりもする。万屋で働いてればそのうちお前さんの生まれ故郷に行く機会もあるかもしれねぇしな」


うまく理解は出来なかったがアサギは万屋として働いていればいつか記憶を思い出すきっかけになる場所に行けるかもしれないと言われたためナグサは流されるままに万屋に登録する事を決め、返事をする。


「でしたら今から万屋に登録する手続きをするので足元に置いてある足袋たびを履いたら後から一階に降りてきてくださいね」


イチカはアサギと共に一階へと降りて行ったのを見て、ナグサも足袋を履きイチカ達の後を追うように一階へと降りて行った。

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