第7章ㅤ四人目と召喚獣
「俺にも召喚獣ちょうだい」
それはそれはにこやかに前触れもなくリキの元へやってきたのはユーク・リフ。お互い中庭でファウンズのことについて話して以来。
銀髪に特徴的なエメラルドグリーンの瞳は好奇心に満たされている。といっても大人としての落ち着いた雰囲気は持ち合わせており、シルビアのような一方的な物言いではない。
ユークはファウンズが小さな竜を連れているところを見た。次会ったときに興味本位で問いてみれば関係ないと一言で済まされ、逆に興味が湧いてしまい。
とある任務の話を聞いてユークは確信した。ファウンズの傍にいたのは召喚獣だったのだと。それも女子生徒が言うには長髪の女の子が喚び出したとのことで、淡い紅色の瞳といえばリキだろうと核心にいたったのだ。ちび竜をファウンズが連れていたとき、傍はリキがいた。
「召喚獣ってそんな簡単に新しいのが次々と生まれるとは思えないけど」
「だれ?」
それまでいたライハルトに今気づいたかのようにするユークに、ライハルトは無表情のまま「この人と同じクラス」と答えた。
中庭まで来たユークはガゼボを覗き、そこにいないと思ったら辺りを確認し、やっぱいないと半端残念そうに言う。
「ファウンズがいればコツとか教えてもらったのに」
前に同じようなことを誰かが言っていた。召喚獣がついてくれることにより使える必殺技。その特別な技を自分より先にそれも″新入り″のようなやつに使われたロキは、コツを教えろと上から目線で頼んだ。だがファウンズから返ってきた言葉は意味不明なものであまり役に立たなかった。
「その必要はないぴょん。召喚獣が欲しいならリキと仲良くなることが第一だぴょん」
「リキと仲良く? なるほど」
自分に仕える召喚獣が欲しいのならコツはいらない。ライハルトの肩に乗っているラピからそう聞くと、ユークは納得したようにどこかへ視線を向け、歩む。
「そう簡単に生まれるわけないよ。ってなにやってるんですか」
「いや仲良くしようと思って」
リキの頭を撫でるユークに突っ込みを入れるライハルトだが、安易な答えに呆れる。
おとなしく撫でられているリキは手懐けられている小動物のようでそれにも呆れる。急な急すぎることに対処できていないということは不思議そうな瞳から伝わるが、やめてくださいの一言は言えるだろう。それか、嫌がる素振りでもいい。
それをしないのがリキ。嫌ではないことを指している。それでは止める必要がない。
「それ仲良くしようとしてる行為ですか」
一瞬の触れ合いだけで親しい関係を築けるわけがない、自分のように比較的長く一緒にいるようではないと。仲良くなることができたとしても召喚獣が生まれるかは別の話。
「意外。君は年上と感じた人に対しても敬語とか使わない子かと思ってたのに」
驚きの表情を一変させ、偉い偉いなんて言いながらライハルトの頭を撫でる。どうやらライハルトはこういうタイプが苦手なようだ。いつも無表情に近い穏やかな顔をしているのに今ではわかりやすいほどゆがんでいる。
「殴りますよ、本気で」
本気と書いてマジと読む。ライハルトにとって基本中の基本のことで、そう言って殴ならないのも偉いね、なんて年下扱い全開なユークに対しライハルトの両手は拳をつくっていた。
実際ライハルトの方が年下なのだがどうも気に食わない。それはユークが、同年代より友好的で年下のようだが纏う雰囲気は大人、というなんとも支離滅裂な第一印象を抱いたから。
「リキの召喚獣が欲しいとか言う人現れた」
「リキとは初対面?」
*
「まあそれなりに」
授業中に無駄話をするのは日課に近いことで、ユークの名を告げずにライハルトは幼馴染であるフウコに報告する。
仲良くなろうとしていたところを見ると、それほど仲の良い関係ではなかった。
「まじふざけんなって言ってやれば良かったじゃん。こっちが先だ、って」
「それが年上っぽくてそう言えなかったり。それにペットとかよく考えてみたら最後まで面倒みるとか責任取れないし、潔く諦めようかなって」
「……ペットってまさか召喚獣のこと? アンタ本当例えが何ていうか……」
ヘタといより独創的。その前に例える意味。
ライハルトは子供の頃からそうだったからフウコは慣れている。慣れてはいるが馬鹿さ加減に呆れることはある。
「彼女から離れるとそれまで存在していた召喚獣は消える。彼女の傍に寄れば召喚可能となりその召喚獣は喚び出すことができるーーけど、離れてしまえば消えてしまう。そんなの悲しいだろ。生まれてきた召喚獣の自由がない」
今までと同じ真面目なトーンなのだが話の内容から真剣さが伝わり、フウコは書く手を止め黙考する。
召喚獣は共存することはできるが単独では存在することができない。簡単にいうとそういうことで、もっと簡単にいえば召喚獣はある者がいなければ召喚されることは叶わず、生まれた″だけ″となってしまう。
ある者というのは二人を示す。例えていうならばスイリュウーー『スイリュウが好いているファウンズ』と『召喚師であるリキ』が互いに傍にいないとスイリュウは出現しない。ラッキーも同様、ラッキーが好いているシルビアと召喚師であるリキが互いに傍にいないとラッキーの召喚は失敗する。
三匹のうち一匹、ラピは例外だ。ラピはリキの召喚獣。
認識している主人が召喚師なら必要とするのはその召喚師だけであって、リキがいる限りラピはいつでもどこでも自由に出現することができる。
「確かにそうだけど、悲しいってだけじゃないんじゃない? それにしても不思議よね、そういうシステムっていうの? なんで共鳴したもの同士が近くにいないと召喚できないのかしら」
わりと早くフウコの答えは出た。メリットがあればデメリットもある。楽しい日があればそれが終わる日もあるということだ。
それよりもリキの出す召喚獣の仕組みについてフウコは納得がいかなかった。
一度生まれたからといって永遠と存在し続けるわけではない。
そういう仕組みは、便利なものだからこそあるハンデなのか。
召喚獣は無事生まれ『バード』と名付けられた。名前の通り姿は鳥でユークの瞳と同じ翠色が体色に混じっている。
自分が先に頼んでおくべきだったかとライハルトは後悔するも、これ以上は無理だぴょんというラピの告げで最終的に諦めた。
そして今では……。
「丁度いいようだな」
「確かに丁度いいみたいだ」
ロキのユークとの約束が果たされようとしていた。
だいぶ前に初対面のとき、ひとつのある条件と交換したーーユークが戦闘でロキと組むというものだ。
当時ロキは、もう二度と会わないからそんなことを言うのだろうと思っていて、その場しのぎの詫びの約束がまさか実現するとは思っていなかった。ユークがSランクの持ち主だということも知らなかったためにその約束如きはどうでもよかったが、知ってしまった今では戦闘せずにはいられない。
ロキはユークと約束通り組むことになり、その相手は……二対二の戦いに巻き込まれたのは、その場にいたリキとシルビア。
*
リキの召喚獣が生まれたきっかけ者同士集まろうという機会がなければこんなことは起こらなかった。
ユークはファウンズのことは知っていると彼だけは誘わなかった。自分の知らない者がどんな召喚獣を仕えるのか興味津々だったのだがロキとは初対面ではなく、初め見たときこんなこともあるのだなと首をひねった。
知らない者が何人もいる中で知っている者が自分と同じ少人数制であろう立場にいる。それがどうしても気に食わないというより運命的な何かがあるのかと疑い。
実質的にはリキと仲の良い者の中から召喚獣に選ばれただけあって、身近な者がそれも知ってる人だけ自分と同じであっても不思議ではない。むしろそれが当然かとユークは最終的に自己解決した。
ユークと一対一で勝負できると勘違いしていたロキは内心残念がるも、Sランクの戦いぶりが拝めるのならいいかと開きなおりーーリキとシルビアにとっては巻き込まれ戦闘が始まる。
シルビアとロキの交戦はほぼ互角で、それをユークが観戦しているという形で空気的に二対二ではない。
ロキが早々にシルビア目掛けて攻撃を仕掛けたため、本当は戦闘に興味ないユークとリキは観戦モードに入ったのだ。ユークは何もせず、リキは序盤に一度だけシルビアに防御魔法を放った。
『ただ見ているだけ』に気づいていないロキに視野のきかなさをもっと求めるが。
「お前もちゃんと戦えよ」
途中で気づかれ説教をくらったユーク。
(って言われても女の子相手にするのはね)
仕方なく、とても手加減してシルビアの相手をする。
それでも二人相手に危険だと思ったのだろう。それまで静かだったシルビアの召喚獣ラッキーが威嚇を始めた。
威嚇といっても猫の小さな反抗のようなもので全く恐ろしくない。
主人を守ろうとしている行動に感銘を受けてシルビアは小さな姿を驚きで見る。
可愛さ全開のラッキーは主人のやる気をアップ。
「大丈夫だよ」
それまで盾を使っていたシルビアは一旦剣先を置く。何気ないその動作は周辺に振動を与える。
揺れる足元。身動きがとりにくくなっているロキへ注がれる雷。
嫌な予感がして避けていたユークは無事。ロキのことを気の毒そうに見ている。
「アレどうやってやるんだろ」
ロキの心配は置いておいて、今のはシルビアだけの力で行ったものではないと覚った。大地を震わせ雷を落とす。属性を付加させることのできる召喚獣の仕業だろうと。
つまり、召喚獣ラッキーを怒らせてしまったのが悪い。
今の出来事にシルビア自身も驚いている。「あれ? え? ごめんね……?」どう見てもやろうとしていなかったという反応。
ラッキーのことを考え攻勢に転じようと剣を振り下ろした、それだけで一直線に生じた雷がなぜか動かないロキにまともにあたったのだ。
魔法のようなもの。ーーバードもできる? とユークが尋ねればバードが頷いたように見えて。
「剣を振り回せばいいのかな」
試しに気を込めて剣を振るう。一振り二振り三振り、生じた風が旋風となり『二人』を襲う。
「俺を巻き込むな!」
「あー、ごめんごめん」
「こっちは落雷くらってんだぞ」
味方の攻撃までくらいそうになったロキはご機嫌斜め。気持ちの入っていない謝罪をするユークに振り返った顔が中々前に向かない。
とりあえず試し攻撃は成功。
「てかなんでそんなお前ら早くそんなの使えんだ」
内心驚愕しているロキにふと考えてから答える。
「天才だからじゃない?」
さらっと涼しい顔。
ムカっとするロキにユークは捲し立てるように言う。
*
「あの兎は完全には君についていないようだ。それが原因だろう。あの子は君に反応して生まれたわけじゃない、そうだろ?」
図星を指されたロキはイラッとし、その矛先は敵相手のラピへ向けられる。
「おいクソ兎、こっちにこい!」
本当なら自分の傍にいるべき召喚獣。(なんで俺だけ必殺技使えねえんだよ。最初に召喚獣がついたのは俺だろ)そう焦っているロキに言葉選びなどできなかった。
言葉選びをしてもラピ相手には暴言に近いものにしかならない。
「なんでそんな偉そうなんだぴょん! 今はリキについてるぴょん!」
「フツーにこっちくればいいだろ!」
「ご主人様はリキなんだぴょん! そのリキが危険な状況にあるのなら一番に力を貸すぴょん! 優先順位っていうものを考えるぴょん!」
当然、ラピの怒りを買う。
ラピを肩に乗せているリキは今のところ危険という状況でもなく、そのことを言ったほうがいいかと戸惑うがそんな空気でもなく。
仲介に入る前にロキの堪忍袋の緒が切れる。
ーーイッラッ。
我慢の限界を越えた人間は何をしでかすかわからない。
「……斬罪してやる」
決着をつける前に演習は終わった。
「なんかめちゃくちゃだったね」
「ロキくんがうさぴょんに妬いたりして、本当いろいろとめちゃくちゃ」
シルビアとユークがそれぞれ思ったことを口にする中、ロキは沈黙。一番にその場から去ろうとする。
気にかけたラピが近くまで寄るが。
「なんだよ。優先順位ってものを考えろ、だろ」
素っ気なく行ってしまった。
その後、拒絶するようになったロキを不愉快に思ったラピは強引的に自由室に誘い、必殺技を使うよう促した。そんなの使えねえよとへそを曲げるロキに、いいから使うぴょん死ぬ気で使えるようになるぴょん、とどうも必死なので適当に剣を振るえばやはり使えることはなく。それでも諦めることなくラピが指導してくるので、これで最後だと思い気を引き締めて振るった。
その一振りに、必殺技は宿った。
燃え盛る炎を剣に纏い一撃をくらわす。単純でロキにとってかっこいい技。
召喚獣がついていれば剣の一振り一振りに属性がつくが、必殺技のような凄さはない。
付加属性が輝くのは必殺技。
それを知っていたロキは心が踊った。やっと使えたという達成感でこれまでのフラストレーションを忘れ、興奮状態となる。
もう一度、と同じように試みると発動せず。
ラピによると待つ時間も必要だと。
これは召喚獣(バード)が生まれる前のこと。
とある任務の話を耳にしたユーク。
ドラゴンと対等に戦うファウンズの姿を、間近で見ていた男子生徒によれば同い年だとは思えぬほどだったと。
『さすが″キル″って名前だけあるよな』
『それどういう意味?』
口を滑らせた男子生徒にユークは突っかかる。悪気は感じられなかったが、冗談だとしても聞き捨てならなかった。
男子生徒は『いや、なんでも……』と、どもりそれ以上は何も口にしなかった。ユークの無表情から伝わる異様なものが、恐怖に変わったのだ。
評判が良かったからなのか、悪い噂は良い噂に塗り替えられ。
風評などは当てにならないとユークは軽く息をついた。
その任務の戦場にいたリキーー。
対等には見えていなかった。ドラゴンは本気で戦おうとしていなかった。
そんは気がして、もやもやしたままそれは未解決事件のように闇穴に消えゆく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます