彼女はボクを愛さない。

江野ふう

#01

「いくつになったら、そらにもおちんちんがえてくるの?」


 弟が生まれた歳だというから3歳だったのだと思う。ボクがこう母親に尋ねたというエピソードは、正月に親戚が集まった時なんかにあがる鉄板のネタだった。

 今ではボクも高校生になっているので、下ネタ交じりのそんな話をボク本人の前ですることはないけれど、小学生の頃は傷ついた。


「どうだ?そら。おちんちん、生えてきたか?」


 酔っぱらった伯父さんが赤い顔をして、揶揄からかいながら、お年玉を手渡してくるものだから反応に困った。


「やめてよぇ!お兄ちゃんったら。そらは女の子なんだから!」


 ハハハと高らかに笑う伯父の言葉を遮る母もおもしろそうにしていた。


 自分は間違ったことを言ってしまったのだ。そのせいで自分が親戚中の笑いものにされている――。

 自己否定、自己嫌悪。

 ボクが「恥」というものを感じたのは、これが初めてなんじゃないか。

 そういう気持ちももちろんあったから傷ついた。

 でもボクが本当にショックだったのは、だった。


 ショックは続く。


 中学生にはまだなっていなかったと思う。小学校6年生の時だ。

 胸が膨らむ。

 生理が来た。


 自分は「女」なのだという事実を、自らの肉体に見せつけられ、ボクは「ボク」であることを否定せざるを得なくなった。

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