俺の妹への想いが、その程度だとでも思ったか!
陶器のような白い肌に、深い黄金の瞳は、人間離れした
漆黒に染まった剣をかまえ、彼は一気に飛翔した。
竜が
高い金属音が、なんども空中でこだました。
ふりはらわれる
浅いはずの傷が、焼けるように熱くなり、血が噴きだした。
白銀の武器は、魔のモノに高い攻撃力を発揮する。
エリオットは槍をかまえ、再度、訴える。
「お戻りください。これ以上、傷を負わせたくはない」
「見くびるなエリオット!」
鮮血がしたたる頬で、ギルバートが
「俺の妹への想いが、その程度だとでも思ったか!」
ギルバートが消えた。
ちがう、人の目に追えなくなっただけだ。
エリオットがそう判断できたのは、目に見えぬ黒刃を、武人の勘で受け止めた時だった。
ヒビが入ったのは、白銀の槍だった。
折れないよう、力を受け流すことに集中しすぎて、防御がおろそかになる。
その隙をねらい、黒剣がせまるのが見えた。
白熱する空中戦をながめながら、
「レスター先輩。言われたとおりに持ってきた大量の
ゼノが、乗騎する竜の耳裏を
小麦色の竜が、きもちよさそうに喉を鳴らす。
その一人と一頭を見て、レスターは片眉を上げた。
「ダメに決まっているだろ。一滴残らず団長にぶっかけてこい」
「ですよねー。ごめんな、こむぎ。あとでまた
竜の
快晴の空はどこまでもつきぬけるような青で、ここちよい風が、ゼノの栗色の毛先を揺らした。
「……死にたくないなぁ」
「聖水をぶっかけるだけの簡単なお仕事だろ」
「見てください、あのキレッキレの剣技。割り入った瞬間、こむぎもろとも三枚に
確信したように、ゼノがうなずく。
レスターが、軽い調子で口をひらく。
「エリオット副団長のえげつない
「俺、いまだに団長がキレた理由がわからないんですけど」
ゼノの言葉に、レスターがまたたく。
「ゼノ。団長の事情、どこまで知ってる?」
「どこまでって……さっき、妹さんを人質に取られてるみたいなこと言ってましたけど、事実なんですか?」
「ああ、うん。去年入団だと、そんなもんか」
レスターが首をかしげて、ゼノを見た。
「そもそもな、副団長と団長は
「……たしかに」
「直前で逃げられると困るから、先に融合させて魔力切れを起こさせるって作戦もエグい。徹底的に
レスターの説明に、ゼノは言葉を失う。
命令どおりに行動していただけだが、ちょっとして自分は、知らない間に無慈悲の仲間入りを果たしてはいないか。
「あ、副団長やばそうじゃん! 準備しろ、ゼノ!」
「こんな話のあとに、団長にとどめ刺しに行くんですか!?
手どころか全身を震わせているゼノを見て、レスターが苦笑する。
「じゃ、一個いい話するわ」
「……おねがいします」
「副団長がこうまでして団長を連れ帰りたいのは、魔人反対派の連中から団長を守るためだ」
「それって……」
レスターが笑う。
「
「人生も全うしたかったです」
「終わったら、美人ぞろいの店に連れて行ってやるよ」
「えー。それより焼肉食べ放題がいいです」
「おまえ、変わってるな」
「美人で腹はふくれません」
「さすが成長期。食べた分、身長にいけばいいな」
「言外にチビって言っています?」
目を見合わせて、笑う。
ゼノの手の震えは、止まっていた。
「じゃ、とりあえず」
「行きますか」
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