第48話・あなたがいてくれたから今の自分がある※
「絵里香……」
彼の唇が私の名前を紡ぐ。それがとても心に染みた。
「私、あなたに出会って良かった……」
「僕もきみに出会えて幸せだよ」
あの時、分かってくれたのは彼だけだった。
「きみ、誰かに魔法を掛けられて見た目がその相手と入れ替わっているね? 本当の姿を奪われたの? 何があったの?」
その言葉にやっと自分の話を聞いてくれそうな相手に出会えたような気がした。同じ人間であっても自分のことを嫌悪して追放した王宮の者達には話が通じないとショックを受けていただけに、出会ったばかりの異形に優しくされて泣いてしまった。
彼になら自分の身に起きたことを聞いてくれそうな気がした。洗いざらい今までのことを打ち明けていた。彼は静かに聞いてくれた。
「あなたがいてくれたから今の私がある」
「僕はきみを見つけた時、なぜだか放って置けなくなった。きっとあの時からきみに惹かれていたんだと思う」
彼は壊れ物を扱うかのように私を優しく抱き寄せた。彼の抱擁は温かく私を包み込むようだ。この彼の腕の中は安心出来る。彼がいれば何もいらないとさえ思ってしまえるほどに。
彼が側にいてくれるだけで私の心も体も幸せで満たされる。
「絵里香。記憶をまた消す?」
「ううん。もういいわ」
エメラルドの瞳がこちらを試すように見ていた。今まで何度もこちらの想いを試してきたくせに彼の納得出来る答えには行き当たらないらしい。答えなんてあるのかすらも怪しいのに。
「絵里香。僕は執着が激しいんだ。もしも、リーガに心を残しているようなら許せないな」
「そんなこと……あり得な……」
言い訳もちゃんとさせてくれずに唇を奪われる。この先は言葉なんていらないかも知れない。
「ウィル?」
「良い子だから大人しくしてて」
今夜の彼は容赦なかった。段々と迫り来る快楽に蝕まれて行くうちに、彼と出会ったばかりの頃の記憶が目の前でちらついた。
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