第35話・幻想的な街


  翌日。レブルとリーガは城を追われることとなった。ここに来た時の格好で気がつけば街中にいた。恐らく魔術師であるご領主さまの仕業だと思われた。


「その表情だと芳しい答えはもらえなかったようだな?」

「ああ」


 リーガは元気のないレブルを見る。レブルは意気揚々と自分に語っていたが、おまえも失敗した口だよな? と、笑いかけてやれば気まずそうに目を反らされた。あのご領主さま相手じゃ誰も叶わないような気がする。彼の見た目は、愛想の良い貴公子にしか見えないが、簡単に転移魔法を扱ってみせるところからしてとてつもない何かを秘めているような気がしてならないのだ。


──あの男はただ者じゃない。


 監禁されていた部屋から出されてどんな罰を受けるのかと思ったが、リーガに言い渡されたのは「もう二度とここには来るな」だった。街中に立ち尽くしていると、向こう側から自警団数名がやってきた。最初、この街に足を踏み入れたときに囲まれたあの集団だ。


「ご領主さまがあんたらを門まで送れと言うから来た」

「宜しく頼むよ」


 根回しの良いことだと思う。レブルは呆然としていた。リーガが彼に代わって言うと自警団は北門へと促した。


「この門から出て行けば王都へ向かえる。気を付けてな」


 入ってきた時にはよそ者に対して冷たい目を向けてきた彼らは少し態度が軟化していた。


「これ、ご領主さまからだ。腹が減ったら食えってさ」


 自警団のボスらしき男が差し出して来たのは、バスケットに入れられたサンドイッチだった。


「じゃあな」


 自分達が門を出ると、男達は手を振って去った。するといきなり真っ白な靄に包まれた。


「そう言えばこの街を見つける前に霧に出くわしたな」


 と、二人で霧に包まれた森の中を進むと前方に王都が見えた。振り返ると霧に包まれたあの街を守るように囲んでいた城壁が消えていく。


「幻想的だったな」

「夢じゃないよな? 確かにあったよな? エリカ姫と」

「ああ」


 二人は手元に残されたバスケットを見て呟く。化かされたわけではないよなと。この目でしっかり目撃したと。毒気を抜かれた様子のレブルを見てリーガは笑い出したくなった。 


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