第19話・あなたは恨んでないのですか?


「へぇ、屋上庭園ですか。清々しいですね」

「レブルさん」


 今日もまた、朝早くから屋上庭園に来ていたら背後から声をかけられた。でもそれは夫のウィリディスではなく客人のレブルだった。レブルは私と目が合い、会釈してきた。


「ここまで来るなんてどうなさったの? 昨晩はあまり良く眠れなかったのかしら?」

「ええ。まあ、ちょっとありましてね。ちょっと部屋の外に出て考え事をしながら歩いていたらここに行き着きました。屋上にこんな素敵な場所があるとは思いませんでした」

「そうでしょう? ここには私の好きな物が揃っているの」


 この時間に姿を現したレブルに思うところがなかったわけではないけれど、思わぬ褒め言葉に頬が緩む。


「薔薇園に噴水ですか。ここまで水を引くなんてペイドンさまは凄いですね」


 レブルは感心していた。私は自慢したくなった。


「私がここに来たばかりの頃、実は塞いでいてね、その私を励まそうとあの手この手であの人は楽しませてくれようとしたのよ」


 ここに来たばかりの頃の記憶は全然無い。でも、深い絶望感の中にあったのは覚えている。


「あの人も心に深い傷を負っているから私の気持ちに同情してくれてね。この世界に私の居場所がないと言ったらここにいれば良いなんて言ってくれて嬉しかった」

「エリカさま」


 レブルは私に同情しているようだった。昨日も私を責めようとしていたリーガを宥めようとしてくれたくらいだ。優しい人だ。


「でも記憶がないからといっても過去、私がしでかした事はなくならないのね。リーガさんに言われて気がついたわ」

「あの。エリカさま。あいつの言ったことはあまり気にしないで下さい。あいつはあんなこと言っていましたが単なる八つ当たりですよ。あいつのことで気を悪くさせてしまったならすみません。あいつに代わって謝ります」


 レブルは学者だそうだけどそれに驕った様子はなかった。私には他人を気遣えることの出来る彼に好感を持った。


「あなたこそ気にすることじゃないわ。大丈夫。少しだけ反省しただけ。リーガさんは私が虐待していた彼女とその……、まだ付き合っているのかしら?」

「聖王さまが取り結んで5年前に結婚しました。公にはされていませんが確か子供も生まれたはずです」

「じゃあ、結婚して幸せにやっているのね?」


 良かった。と、呟けばレブルが訝る様子を見せた。


「エリカさまは恨んでないのですか?」

「どうして?」

「リーガ達はあなたさまを王宮から追いやった者ですよ。しかもあなたさまの言い分など何も聞かなかったと聞きます。彼らのしたことを非道とは思わないのですか?」


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