第11話・レブルとリーガ
「いやあ。驚いたなぁ。エルドラントの足跡を追ってきたらこんな街に出くわすとは思いもしなかったよ」
オーブリーに案内されて客間に通されたレブルは、案内人のオーブリーが退出するのを待ってから興奮したようにリーガに言ってきた。
「瘴気に満ちた土地と信じられて聖王さま始め、王都の貴族達は忌み嫌って近づかないこの土地にこんな都があったとはね」
「この事を上に報告するつもりか?」
「キュライト公爵には報告しようと思っている。研究費を出資して下さっているからね」
「唯一、きみの研究を認めてくれている御方か」
「ああ。あの御方のおかげで僕は捻くれることなく研究を進めることが出来る」
「きみはどうして研究の道に進んだんだ?」
二人は今回の旅で初めてパートナーを組んだのでお互いのことをあまり知る機会がなかった。ここに来るまで野宿をしていたので気が休まらなかったのだ。屋根があり就寝に襲われる心配もない滞在場所を得て、心から安堵したせいか心に余裕が出ていた。
「私は伯爵家の三男坊で、剣の方はからきし駄目だったのさ。二番目の兄は魔術師になったしね」
始めは食い扶持を稼ぐためだったんだよ。と、レブルは言った。
「でも私の研究内容は聖王さまのお気に召さなかったみたいだ。瘴気について研究をしていると知ったらそんな事が何の役に立つ? 止めてしまえと言われたよ」
「でもきみは止める気はないのだろう?」
「まあね。聖王さまは魔術師達を替えの利く駒のようにしか考えていない。魔術師も自分と同じ血が流れる人間で瘴気に弱いのだということは頭にないんだろうな。そのせいで今まで大勢の魔術師達が何人も行方不明となったり命を落とした。その中には私の兄や、キュライト公爵の娘さんもいたのさ」
「……!」
「キュライト公爵は自分の娘のような犠牲者を出したくない。そして私も兄のような被害者を出したくないという思いから手を結んだ。この研究は何としても成功させたいと思っている」
「そうだったのか。知らなかった」
レブルの話を聞いてリーガは神妙な顔つきになった。二人はキュライト公爵の紹介で知り合っていた。今回、レブルがエルドランド遺跡を調べに行きたいと公爵に要望を出した時に、それでは腕利きの用心棒を連れて行くがいいと紹介してもらったのがリーガだった。
「それにしても驚いたよね。王宮を追われたエリカ姫に会うなんて」
「気がついていたのか?」
関心なさそうな振りをしていたのにとリーガが聞く。
「私は研究室に籠もっていたから聖王さまが溺愛しているエリカ姫さまと直接、お会いしたことがなかったし、姫さまの容貌とか噂でしか聞いたことがなかったから、君が姫さまと呼びかけたことでそうだったのかと思ってさ」
君の言葉で気付かされたとレブルは言った。
「姫さま、幸せそうで良かったね。聖王さまはどうかしている。あんなにも可愛がっていた愛娘を王宮から追放するなんて。あの噂は本当だったのかな?」
「噂?」
「聞いたことないかい? 聖王さまは異世界から来た娘に魅了されておかしくなったって」
「……彼女を悪く言うな」
「リーガ?」
「ああ。済まない。つい……」
リーガは左手の薬指を摩る。そこには銀の指輪が収まっていた。
「君……」
もの言いたげな目線を投げかけながらレブルは何も言わなかった。リーガは既婚者だ。数年前から既婚者は夫婦で銀の指輪を嵌めるのがこの国でブームとなっていた。
それは5年前に行われた異世界人の娘の婚姻式で行われた指輪交換の影響だ。挙式に参列した貴族や、商人達の口を介して国中に広かった。
研究室に籠もっていて世情に疎いレブルにも、彼が何者であるか悟るのには十分だったのだろう。
静かになった室内で深いため息が二つ漏れた。
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