第11話 名前の真実☆

 武井さんに謝罪をした後――

 お弁当をひっくり返されたこともあり、お腹が満たされていない俺は購買でパンを買った。

 午後の授業まではあまり時間がなかったが、誰もいない空き教室に2人で入る。


「もうちょっと早く気付いてほしかったですね」


 武井さんは口を尖らせ不満を表しながらも、表情は緩みまくっていた。

 考えてみればヘーゼル色の瞳とブラウン髪のハーフの子なんて滅多に出会う機会もないはずなのに。


「武井さんはよく俺のことわかったね」

「記憶に焼き付けておきましたから。忘れてはいけない憎き顔だと」

「こわっ……」

「冗談ですよ」


 時間が遅かったので、残っていたのはフランスパンとあんぱんが1つだけで2つとも買っていた。

 そのパンに齧り付きながら、幼馴染のほうを見る。


「かたい……いつ戻ってきたんだ?」

「つい最近です。翔太君がここの学校を受験するという噂を耳にして、それなら私もと思い」

「その噂はなんか怪しいが……こうやってまた会えて、その……」

「まあ、まあ、そんなに私に会いたかったのですね」

「……あ、謝りたかっただけだ」


 ダメだ。こいつの前だとつい意地を張ってしまう。

 隣に座った身を寄せてくる。


「翔太君のことはある程度はお見通しですから、嘘も見抜けますよ」

「……なあ、それ以上近づかなくてもちゃんと聞こえてる」

「その辺がお見通しということです。女の子っぽくなりましたか、私は?」

「じゃ、じゃなきゃ、あんな先輩たちに告白されないだろ」

「翔太君は告白ってされました?」

「その質問は地雷だぞ」


 武井さんは身震いしてだらしなく口元を緩めていた。


「ど、どうしたんだよ?」

「た、楽しくて。翔太君との久しぶりの会話が。私、授業中もこんな感じだったよ」

「口調……」

「おほん、気になってると思いますから、名前について教えておきます」


 ちょうどお昼休み終了のチャイムが鳴る。

 急いであんパンを食べ終わり、教室に戻る途中で名前のことを聞かされた。


 言葉での謝罪はしたが、今度は行動で示していかないとな。



 ☆☆☆



 日本人の父親とフランス人の母親を持つ私は、いわゆるハーフです。

 まだ私が母のお腹の中にいるとき、両親は名前について結構揉めたそうです。


「メグミは最初、恵だったんだよ」

「私がケイって呼んだのよね」


 もともとは恵という漢字の名だったそうですが、フランス人の母は漢字を勉強していましたが、これをケイと読んでしまったとか。

 もちろん読み方としては、間違いではありません。


 だから、父もケイでもいいなと考え、出生届の提出期限ギリギリまで悩んで、2人で話し合いを続けたそうです。


 その結果、カタカナでメグミとなりました。


 今でこそ、母はメグミと呼びますが、小さいころはケイの方が呼びやすかったそうで周りからもケイが私のとなっていました。


 だから、毎日のように遊んだ男の子にも名前を聞かれた時、ケイと答えたことに悪気があったわけではないんです。


 引っ越しが決まった時、私はどうしても彼に伝えることが出来ず、結果的に前日となってしまい――

 彼を心底怒らせてしまいました。

 そのことが今までずっと残っていて、いつか謝りたいと思って、再会することを願ってすごしてきました。


 翔太君は私にとって特別な人なんです。

 今、私が学校に毎日通えているのは彼のおかげ。


 もう遠慮はいりませんね。楽しい楽しい毎日の始まりです。

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