完全無欠のハーフ美少女が俺の前でだけ残念な失敗を繰り返す件~喧嘩別れした幼馴染だと気付いたのでひたすら甘やかしたらデレデレになりました~

滝藤秀一

第1話 ハーフ美少女

 いつからか同じ夢を見る。

 それは小さいころ毎日一緒に遊んだ女の子の夢。

 特に覚えているのは、近所の公園で喧嘩別れしてしまった時のことだった。


「私、明日引っ越すの…」

「はぁ?」

「言い出せなくてごめんね」

「あしたはツチノコ捜しに行くって言ったじゃんか!」

「ごめんね、ごめんね」

「もういいよ、ばかっ、どこへでも行っちゃえ!」


 彼女が涙を見せたのはこれが初めてだった。

 年月が経つにつれ、そこ以外の部分は夢の中でもわからなくなっている。


 現実を受け入れられなくて、ただ怒鳴ってしまい一方的に喧嘩別れしてしまった。

 これはかつての後悔、いつか取り戻したいと願う俺の夢……。



 ☆☆☆



 6年後――

 俺は高校生になり、クラス分けされた教室に入る。


「っ?!」


 窓側の後ろが俺の席、その隣にはすでに女の子が座っていた。


 ぴんっと背筋を伸ばした彼女は、俺の視線に気づくと、たおやかな笑みをうかべた。

 丸くクリっとしたヘーゼル薄い茶色の瞳に、艶のある滑らかなブロンド髪をツーサイドアップにし、思わず二度見してしまうほどのハーフ美少女だった。


「えっ?」


 思わず声を出してしまったのは、その目と髪の色に懐かしい覚えがあったためだ。


Ça vaサヴァ?」

「えっ? 鯖?」

「……」


 席に着くと、滑らかな発音が聞こえた。


 サヴァ?


 今のフランス語か? 


 何だか妙に隣の席の美少女のことが気になった。

 少しそわそわしながら、クラスを眺めホームルームが始まるのを待つ。


「自覚をもって高校生活を送ってほしい。それじゃあ、順番に自己紹介をしてもらうぞ」


 担任の教師の話が終わり、すぐに自己紹介の時間になる。

 高校生活はいきなり攻めてみようかなどと考えてみてはいた。


 隣の美少女の番になり、俺はそちらの方を注視する。


Enchantéeアンシャンテ(はじめまして)、ヨツバ女学院中出身、武井メグミと申します。父は日本人で母がフランス人のため、ときどきフランス語を使ってしまうかもしれません。そんな私ですが、仲良くしてくださると幸いです」


 丁寧にお辞儀をして、スカートの裾を敷いて着席した。


「今のがフランス語?」

「ハーフかぁ、仲良くなりてえ」


 クラスのあちらこちらでざわめきが起こる。

 聞きなれない外国語を滑らかに発声したハーフの美少女、それが皆の注目を一気に集めた。



 武井メグミさんか。



 ハーフだから、もしかしたらと思ったが名前が一致しない。

 どうやらあいつとは違うようだ。


 席に座った彼女の大きなヘーゼル色の瞳と目が合う。


「顔に何かついてますか?」

「いや、その、ごめん」


 小首を傾げるその仕草に一瞬見惚れてしまい目を逸らした。


「松井君の番ですよ」

「えっ、あっ、そっか……」


 そうだったと慌てて席を立ち、攻めることなく無難な自己紹介を始める。


「松井翔太です。趣味は――」


 ぎこちないながらも何とか言い終えて着席しようとしたとき、


 パチパチパチ――


 武井さんが遠慮がちに拍手してくれていた。

 それに釣られるようにあちこちでパチパチパチが聞こえだす。

 あれ拍手、さっきまでしてました?


「お隣同士というのも何かの縁です。よろしくお願いしますね。松井翔太くん」


 その優美な笑顔に目を奪われ、今度は迂闊にも心臓がドキドキしてしまった。


「こ、こちらこそ」

「あっ?!」


 俺は自然な笑顔で返答した。

 武井さんはそれを驚いたのか、さっと首を横に向けてしまう。

 気のせいか、耳元まで赤くしていた。


「どうかした?」

「……」

「もしかして具合悪くなったの?」

「……」


 肯定も否定もせず、ただ俺を避けるように明後日の方向に顔が向いたままだった。

 何か気に障ることをしてしまったんだろうか?


 だが異変が起きたのはここからだったのだ。

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