わかめが恩返しをしに来たが断り続けた話

闇コロ助

第1話

夜半に女が訪ねてきた。「こんばんは。先日お世話になった者です」


「はて。身に覚えがありませんが」


「まあ。なんて素晴らしいお方でしょう。覚えてらっしゃらないのは、きっと日頃から、たくさんの人を助けているからでしょうね」


「すみません。本当に身に覚えがないのです。あなたは一体だれですか?」


「私は先日助けて頂いたわかめです」


女は私の手をとった。女の手はぬめっていた。たしかにパーマのかかった髪もどことなく海藻のようだ。


「ぜひともお礼がしたいのです」女は手をとったまま、私の方へ一歩近づいた。


「いいえ。けっこうです」と私は答えた。


後日、女はまた訪ねてきた。2人だった。そして2人とも同じ顔をしていた。


双子か?


いや、たぶん増えたのだ。わかめだから。


「ぜひとも恩返しをさせて下さい」オクターブでハモりながら、女は言った。


「いえ、大丈夫です」


「なんて慎ましいお方。でもそれでは私の気が済まないのです」


「すみません。大丈夫ですから」


なぜなら本当に身に覚えがないからだ。


ここ10年、私は海にも行ってない。

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わかめが恩返しをしに来たが断り続けた話 闇コロ助 @ymkrsk

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